メディアグランプリ

元彼を許せない私がもくろんだハニートラップ


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:吉野樹理(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「許せない。あいつが先に結婚するなんて!」
2004年の夏。26歳の私はショックと怒りで震えていた。なんで私をふった、私を不幸にした男が先に幸せになるのだ! 信じられない。
「悔しい。邪魔してやる!」
怒りの鬼になった女が、自分をふった男を不幸にすべく画策を始めた。
 
4年間過ごした専門学校の卒業が真近に迫った冬、彼女がいる男「モリノ」から告白された。学科が同じモリノとは4年間ずっと同じクラスで過ごして、仲良しだった。モリノは違う学科の小鹿を連想させる可愛い彼女がいて、親公認の仲だった。「彼女とは分かれるつもりだから」と夕暮れの公園でなぜかギターを抱えながらモリノは言った。まだ若くて彼氏が欲しかったバカな私は、オッケーしてしまった。小鹿のようにか細い彼女が脳裏に浮かんだが、「人の幸せより自分の幸せだ!」と自分に言い聞かせていた。
 
それから2年。
花火大会の帰り道、私はモリノにふられた。「お前は俺のこと好きなのか? 俺はそうは思えない」が理由だった。その頃、ケンカが絶えなかった。「私より家族の方が大事って言った人がそんなこと言う? こっちこそ別れて清々するわ!」 私が原因で別れを選んだかのような言い草に腹が立ち、その場で別れた。私のアパートに置いてあった服も怒りに任せてすぐに捨てた。でも、さすがに借りていた本やDVDを捨てるのは気が引けて、私も貸していた物を返してほしくなり、1ヶ月後にあの思い出の公園で会うことになった。お互い借りていた物を返して、「じゃあね」と別れた。たった5分間の再会。2年前、有頂天になって通った道を今度は泣きながら運転して帰った。
 
それからまた2年。
元クラスメイトから、モリノが結婚したと聞いた。しかも結婚相手はモリノがよく話題に出していた同じ職場のお気に入りの後輩の女。ハッキリ言ってデブでブスの女だ。私も丸顔のぽっちゃり体型。どうやらモリノはデブ専だったようだ。じゃあ、小鹿の彼女はなんだったのか? そんなことをグルグル考えていると、元クラスメイトは私に気を遣って「モリノの奥さんの体型と顔みてびっくりしたわ。絶対、あんたの方が可愛いわ」と言った。他の人たちからも同じことを何回も言われた。じゃあ、私は中身で負けたってことになるじゃん! この後に及んで失礼な男だ! 
 
別れから4年経過し、日々の激務でけっこうスリムになった私はモリノの幸せを壊すべく「今の自分なら色気仕掛けでモリノを堕とせるかも」とハニートラップを仕掛けることにした。「悩み相談で2人きりで会う→何回か会って気分を盛り上げる→モリノがその気になってきたところでホテルに誘う→一緒にいる所を写真に撮って、奥さんに送りつける→思いっきりモリノをふってやる」という計画を立てた。
これで離婚にでもなったらそれ以上に爽快なことはない! 奥さんには悪いけど、モリノがこのまま幸せになるなんてそんなのずるい。色気仕掛けなんてやったことないけど、なんとかなるだろう……。
 
モリノの電話番号は削除していたが、元クラスメイトに聞いてゲット済み。意を決して携帯にかけてみた。
「もしもし。モリノ、久しぶり」「もしもし、久しぶり元気?」「元気。あのさ、ちょっと話したいことあるのだけど会えない?」「え? いいけど」「ごはんでも食べながら話さない?」「分かった。○日は空いているよ」「じゃあ、19時30分に○○に集合ね」「了解」
あっさり、会えることになった。馬鹿な奴、ハニートラップが仕掛けられているとも知らずに。
 
ハニートラップ当日、その日に向けて準備した色っぽい服と思われる服を着て、化粧も自分なりにバッチリ、髪もおろして自分史上最上のフェロモンをふりまいてモリノを待った。
「電話、驚いたけど嬉しかったよ。元気?」
臨戦態勢の私に屈託なく笑いかける4年ぶりに合うモリノは、苦楽を共にした気の合うクラスメイトのモリノ君に戻っていて、ケンカが絶えなかった彼氏の時の片鱗は全然なくなっていた。
 
そうだ、モリノ君と一緒にいると楽しかったんだよな。アホなこと一緒にたくさんしたし、よく笑っていたなあ。レポートもいつも助けてもらって、たくさんフォローもしてくれた。
 
4年間、一緒に過ごした時間が一気にフラッシュバックした。忘れていたけどモリノ君と私はとっても仲良しだったのだ。思い出話に花が咲いた。ずっと話しっぱなし笑いっぱなしの2時間で、すっかり楽しくなってしまった。
 
もっと、自分の素直な気持ちを伝えていればよかった。1人で抱え込まずに、相談して2人で解決すればかったのだ。モリノを信じきれなかった自分の弱さが2人の関係性を作ったのだなあと思えてきた。
 
もう遅いけど、自分が抱えていた気持ちを伝えてみた。モリノは「そうだったのか。ごめん」「俺たち、会話が足りなかったんだなあ」と言った。その言葉を聞いて少し涙が出た。
 
別れ際に「またね。元気でね。奥さん大切にしてね」と普通に言えた。不思議。あんなに不幸を願っていたのにモリノの幸せを願える自分がそこにいたのだ。
 
正直、何やっているのだろうと自分に呆れるが、このハニートラップ計画で1つ気づいたことがある。幸せとはブーメランなのだ。相手の幸せを願った時に自分も幸せな気持ちになれる。だれかの幸せが自分の幸せなのだ。だって、不幸を願っていた時の私は全然幸せではなかったから。モリノと別れ、帰りの道を運転する私の気持ちはとっても穏やかだった。

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2018-06-20 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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