子どものやる気がその気に変わるとき
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記事:おしごと社長(ライティング・ゼミ日曜コース)
「このままでもつのかな?」
おもちゃ屋さんに息子と行ったその帰り道で、私はため息交じりにつぶやいてしまった。
ご褒美として、また約束でもあるおもちゃを買ってあげたのであるが、ここ最近毎週のように買っており、私の財布がいよいよ悲鳴を上げはじめたのである。
今年の春から幼稚園の年長になった息子は、いよいよ来年から小学校に上がる。
その入学準備として、ひらがなやカタカナ、算数などの年長向けワークにチャレンジさせていたが、当初はやる日もあればやらない日もあり、勉強に取り組む気分にムラがある感じであった。
林修先生が紹介していた書籍『学力の経済学』から気づきを得た私は、息子が勉強にやる気を出すように、次のような報酬制度を導入することにした。
ワークを1ページ解くごとに、10分間Wiiのゲームができる。
そして、ワークの1冊をすべて解き終わったときには、ご褒美としておもちゃや本を買ってあげる約束を息子とした。
この報酬制度が導入されてから、「やるぞ!」とやる気を出した息子は目をキラキラさせながら、毎日のようにワークをやるようになった。
ゲームをやるためであったり、おもちゃを買ってもらったりするためであるが、結果としてどんどんワークを解く息子の姿をみて、親の私は嬉しかったし、誇らしかった。
また、「勉強のやる気をお金で買えるのであれば安いなあ」と奥さんに豪語していたのであるが、余裕をかましていられない状況に陥り、「このままでもつのかな?」と思わずつぶやいてしまったのである。
というのも、報酬制度が息子のやる気を引き出したのはいいが、うまく効き過ぎたようで、息子は私の想像以上にワークにチャレンジするようになったからである。
今では1日で15ページ、1週間で1冊のワークを解き終わってしまう。
それだけ勉強に集中できるようになったことは、親として大変嬉しいことである。
ただ、1冊のワークをやり終えたときのご褒美とその次のワーク代は私のお小遣いの中から出しており、週末ごとに財布の中身は寂しくなる一方であった……。
とはいえ、折角やる気を出してワークにチャレンジしている息子に対して、「(すぐに1冊を解き終わらないように)ワークは1日3ページまでね!」と勉強を制限するのは変な話である。
勉強をしてほしいような、してほしくないような気持ちが入り混じり、「どうするオレ? どうする?」とオダギリジョーさん状態の私であったが、意外なところから解決の手が差し伸べられた。
実は息子のほうから、ご褒美を目当てに勉強することには興味がなくなったからである。
だからといって、ワークをやらなくなった訳ではなく、今まで以上にワークにはチャレンジしている。
というのも、最近息子は将来のなりたい夢として「昆虫博士」を描くようになった。
それはご褒美に買ってあげた昆虫図鑑がきっかけかもしれないし、香川照之さん演じるカマキリ先生に触発されたせいかもしれない。
幼稚園で将来の夢を発表するときに、突然「昆虫博士になりたい!」と宣言してから、息子の中で何かが変わった気がする。
ワークにチャレンジする動機がご褒美ほしさから、昆虫博士になるには、ひらがなを覚えたり、数の計算ができたりすることは必要だからに変わり、それを自分なりに納得している様子である。
これまではご褒美という外からのはたらきで引き出されていた「やる気」が、将来の夢がもたらす心の内から湧いてくる「その気」に変わったのである。
この外的な「やる気」が内的な「その気」に変わったプロセスは、ちょうど植物の種が芽を出すのと似ているかもしれない。
気温や水分、土壌などの環境の条件がまず整わなければ、種は発芽することはない。
だが、実際には、環境の条件はきっかけに過ぎず、種の中にある発芽エネルギーこそが、種から芽を出させ、植物を生長させている源である。
この植物の種が芽を出すプロセスを息子の場合に置き換えてみると、私がワークに報酬制度を設けたことは、種の発芽に適した環境を整えたのに過ぎないのであろう。
最初のうちはご褒美につられて、つまり環境からのはたらきかけで息子はワークをやっていたに過ぎなかった。
だが、そのうちに将来の夢が見つかり、その夢をきっかけに息子の中に元々備わっていたその気が芽を出してきた。
今は昆虫博士になるという夢が息子を自発的な勉強へと導いてくれている。
息子の将来の夢とその気が見えたことで、息子には将来性のあるAIエンジニアの職についてほしいという願いがあったが、それは心のうちにそっとしまっておこうと決めた。
その代わりに、息子のその気が夢の実現まで順調に育つように全力で応援することを決心した。
親ができるのは息子の将来を決めることではなく、なりたい将来の夢を見つける手助けとその見つけた夢の実現を応援するだけと気づいたからである。
それは、環境がいくらはたらきかけようが種の中身を変えることはなく、環境がするのは種の発芽や生長の手助けまでなのと同じであろう。
そうだ! 今度の夏休みに上野にある国立科学博物館では特別展として「昆虫」が開催される。
息子の憧れのカマキリ先生(香川照之さん)もかかわっているようだから、誘ったらきっと喜ぶであろう。
これは1冊のワークをやり終えたご褒美としてではなく、お父さんから夢の実現に向かう息子へのプレゼントとしてである。
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