メディアグランプリ

映画『羊と鋼の森』を観て気づいた、正解は教えてもらうのではなく探すのが楽しい!


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記事:井上文江(ライティング・ゼミ朝コース)
 
 
「どんなことも絶対に上手くいく正解を教えましょう」
と言われたら、ぜひ教えてもらいたいと思う。
 
成功する方法の正解、
儲かる方法の正解、
幸せになる方法の正解、
メディアグランプリで1位をとれる方法の正解……。
 
私は何でも先に正解を知ろうとする癖があった。
それに気づかせてくれたのが、先週観た映画『羊と鋼の森』だ。
 
 
この映画は、本屋大賞を受賞した宮下奈都さんの小説『羊と鋼の森』を実写映画化したものだ。山崎賢人さん演じる主人公の青年が、ピアノの調律師として成長していく物語。
 
映画の中では、北海道の美しい風景とともに深い緑の森がたびたび出てくる。
それは、主人公が育った家の横にあるリアルな森であり、
調律師として働きはじめた主人公が音の調整に悩んだときに迷い込むイメージとしての森でもある。
 
調律するピアノの音作りに主人公は悩む。
どんな音が正解なのか、ピアノを弾く人が求める音はどういう音なのか、弾く人の魅力を最大限に引き出す音とはどんな音なのだろうか? 答えとなる一筋の光を求めて、深い森の中を主人公は彷徨う。
 
スクリーンいっぱいに映し出される緑の森を観ていて「森の音は完璧な音楽だ」と感じた。
 
上空を流れる風の音、風によって木々が揺れる音、葉がすれる音。足元を流れる小川の水の音。鳥の声。虫の声。動物たちが生活している音。
いろいろな音が重なり合って調和して大自然が奏でる音楽になる。完璧な音楽。
 
主人公とともに観ている私も耳を澄ました。
 
 
職業物語として、調律の方法やピアノの構造を知れることも面白かったが、
特に、“調律するうえでの絶対的な正解はない”というところが心に残った。
 
 
物語のクライマックスシーンで主人公は、結婚披露宴会場のピアノの調律に挑む。
 
人の居ない結婚披露宴会場で、最初の調律ではピアノの音は心地良く響いていたのに、レストランのスタッフが入ってきて、テーブルクロスが敷かれ食器が並べられると、今まで響いていた音の響きがなくなってしまう。
披露宴スタート時間が迫る中、その場で微調整を繰り返し汗だくになる主人公。
観ていてドキドキする。
 
ピアノの音は、会場の規模や聴く人の数、気温や湿度でも変わってしまう。
ピアノの品質、調律師の技術、弾く人の技術という確かなものと、その時々に起こる不確かなものの両方があわさって音の世界が出来ていく。
 
マニュアルや数値で正解を示すことができない。
調律するうえでの絶対的な正解はない。
それが奥深さになる。
 
 
「私は何でも先に正解を知ろうとする癖がある」
と先ほど書いたが、20代の頃は違った。
「自分は失敗をして、あっちこっちぶつかりながら学んでいくしかない」
と思っていた。
失敗を恐れず、何でもやればできると思っていたし、失敗しても謝れば許されると信じていた。けれども、30代、40代と年を重ねるにつれて、失敗が格好悪い年代になったと思ったし、謝っても許されないことがあると知るようにもなった。常識を知ることで臆病になっていった。
 
そんな大人になったとき、
正解だと思っていたことが不正解だと知らされる出来事があった。
それは、目上のかたにお世話になったお礼を持っていったときのこと。
 
菓子折りを出しながら
「つまらないものですが……」
と言ったら
「つまらないものを人に寄こすのですか?」
と言われた。
えっ、違うの? この言い方が正解じゃないの? と動揺した。
 
 
元はといえば、この「つまらないものですが」と言って菓子折りを差し出すのは、テレビのドラマでよく見かけていたことだった。だからそれが世の中の正解だと思い込んでいた。それを真似して使った。
 
でも、言われてみれば確かに“つまらないもの”を大切なかたに贈るのは失礼な話だ。謙遜するにももうちょっと良い言い回しがあるのではないだろうか。
考えている私にそのかたは教えてくださった。
 
こういうときは「つまらないもの」と言うのではなく
「お口に合うかわかりませんが」という言葉を使えばいいですよ。
 
なるほど!
 
結局、正解を求めても、意味を考えずに使っていたら失敗をする。
それに常識やマナーは、時代や場所によっても変わる。
 
正解を求めても失敗することがあるのならば、
他人の情報に踊ることなく、自分が感じるものを信じて行動したほうがいい。
それで失敗したならば、自分の言葉で謝れる。言い訳だって自分の言葉で考えつく。
でも、先ほどの例のように
テレビをお手本にして失敗したら
「なんだよテレビ! 嘘ばっかりじゃないか」
とテレビのせいにしたくなる。
それをやっていると、自分の人生を生きている感覚が薄くなっていく気がする。
 
主人公の青年は、
自分の技術が未熟であることを承知している。だから努力をする。
コツコツ、コツコツ、毎日、調律の練習をする。音はどうあるべきなのか? と常に考え続ける。その姿が美しい。(もちろん主役の山崎賢人さんも美しい)
 
もしも
「どんなことも絶対に上手くいく正解を教えましょう」
と言われたとしたら……。
 
今は、
「正解を知ったら面白くないから、自分で探します」
と答えるだろう。
 
映画『羊と鋼の森』の主人公や登場人物たちを観て、そんなことを考えた。
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2018-06-28 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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