クレームは最高のチャンス
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:中村 理恵(ライティング・ゼミ日曜コース)
「フリーダイヤルは365日24時間受け付けております」
これは、某製パン会社のお客様相談室の文言だ。私が、パンの袋を見ながら電話をかけてから、もう10年以上になるだろうか。朝食用の菓子パンの袋に虫を見つけたのは息子だった。そして、そのことをちゃんと伝えてほしいという本人の希望で、私は生まれて初めてお客様相談室に電話をした。もし自分だけが虫を見つけたなら、問い合わせることなどなかったかもしれない。つい面倒で捨てるだけで済ませてしまっただろうと思う。が、子供が絡むとそうもいかない。
オペレーターの女性に電話した目的を告げると製造所の固有記号や住所等を訊かれた。てっきり、こちらからパンを送らなければならないのだろうと思っていた私は、
「担当の者が午後に伺います」
と言われてびっくりした。会社の住所から考えると高速を使っても3時間以上はかかるはずだ。その日は休日だった。平日以外の日に電話の応対をするだけでも大変なのに、他県から出向くなんて考えられない。
到着前に電話があり、20分くらい待っただろうか、手土産とパンの代金を持った男性が現れた。相手が子供でも、非常に丁寧な謝罪があった。虫の混入については、工場の方で原因の調査をするため少し時間をいただきたいと言われた。結果を報告したほうがいいか問われた息子は、
「理由が知りたい」
と答えたため、調査が終わり次第、工場の担当者から連絡をもらうことになった。その日は、パンを持って帰られた。2週間ほどして、製造された工場から電話があり、くだんの虫は小麦についている虫とのことだった。今後は機器の洗浄を徹底させるようにしますと言われ、息子の代わりに私が報告を受けた。
最初、電話をする時は正直億劫で、担当者が伺うと言われても煩わしいと感じた自分が居た。しかし、一連の出来事を振り返ってみて、きちんと連絡をしてよかった、息子にもよい経験になったと心から思った。パンに虫が入っていたこと自体は気持ちの良い物ではないが、それに対してその時できる最大限のことをしていただいたと感じたからだ。私と息子の中では、その企業の評価は上がり、その後パンを買う時も、必要以上に神経質になることはなかった。
その頃、私自身も地方公務員としてフルタイムで働いており、窓口や電話で苦情を受けることも少なくなかった。何度話をしても解決しない案件もあり、悩むことも多かったのだが、この企業の対応には、
「かなわない」
と思った。自分たちは仕事に対しても市民に対しても真摯にやってきたつもりだったが、どれだけできていたのか。迅速さにしても、向き合い方にしても、全くもって足りていなかったのではないか。そんな風に感じた。どんなに怒っている人でも、素早く顔を合わせて謝罪をすれば、話を聞く耳くらいは持ってくれるだろう。電話で無茶苦茶言ってくる人でも、訪問して顔を合わせると嘘のように穏やかな場合がある。顔が見えないと人は暴走したり、無責任になったりするのだ。
10年以上経った今もホームページに載せられている文章は一言一句変わっていない。お客様至上主義とも思える扱いだ。クレームをどう捉えるか? それは企業そのものの理念にも関わる。クレームを嫌な物と考えるか、成長する糧だと歓迎するか。それによって企業の将来性は大きく変わるだろう。ネットが力を持ってきた昨今、クレームがどこに出ていくかはわからない状態だ。書こうと思えば至る所に受け皿はある。クレームが自社に来たら、ラッキーだと思えるかどうか。自社で対応できれば、やり方によっては、落ち込んだ信頼を取り戻し、フラットにし、否企業のイメージアップになる場合すらあるだろう。声が寄せられるということは、お客様の要望を吸い上げるチャンスにもなる。製パン会社の中では大手であろうその会社は、お客様の要望を受けて、サンドイッチ用のパンの枚数を変更したと報告されていた。声が届き、それが反映されていく。それが、示されれば、客は他のメディアにリークすることはなく、改善してほしいことがあれば直接その会社に言うだろう。企業がお客様に対して真っ直ぐ向き合うこと。それが最も大切なことだ。
人間がしようが、機械が動こうが、完璧を目指しても数パーセントのミスの可能性はある。絶対0にはならない。その数パーセントの危機に対して謙虚であるべきだ。危機に陥った時真価が問われる。クレーム対応を顧客とのパイプにするか壁にするかは、企業のお客様への想いにかかっている。
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