僕が少年院で学んだ「人生で最も大切なこと」
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記事:加藤美鶴(ライティング・ゼミ平日コース)
「社会での更生は不可能と判断し、あなたを少年院送致とします」
僕が4年前に、家庭裁判所でいわれたことだ。
「あぁ、人生終わった。まぁ俺の人生こんなものかぁ……」
ただ、そう思った。少年院に送られようが、失うものなんて何もなかった。
思い返せば、僕の人生はくだらないことだらけだった。
僕は小学生の頃から、いわゆる問題児だった。
すぐに人と喧嘩をするし、その度に相手を殴っていた。
当然、誰かと喧嘩をすれば先生や親に怒られる。
「どうして人を殴ったの!?」
喧嘩をする度にそういわれたが、僕は全く反省することがなかった。
「え、コイツが悪いから殴ったんだよ!だってコイツ、俺に悪口いったんだもん」
先生に何をいれても、いつもこの調子だった。
仮面ライダーが好きだった僕にとって、相手が悪いから殴るのは正義にしか思えなかった。
仮面ライダーは「ショッカー」など敵を痛めつける。でも、仮面ライダーはいつだって正義だ。だって「ショッカー」は悪いやつだから。どんなに殴っても何も問題はない。
僕の父もそうだった。僕が悪いことをすると、いつも殴ってきた。
「お前が悪いことをするから殴るんだ! 殴られたくなかったら、もう悪いことはするな! 親のいうことを聞け」
だから僕にとって悪い相手に対する暴力は、ずっと正義だと思っていた。
でも僕の場合は、「理由があれば暴力は許される」というだけでなく「理由があれば悪いことは許される」とまで考えていた。
欲しいものがあれば盗めばいい。免許がないなら無免許運転も仕方がない。
中学の頃には、そう思うようにまでなっていた。
「中学生は働けないから、バイクを買うお金もないし、免許だってとることもできない。だから、バイクを盗むのも、無免許運転も仕方ないよな」
悪いことも理由があれば許されると思った。
そうして、ついに14歳のときには逮捕され、鑑別所へ送られた。
このときになって僕は、かなり後悔した。
「お父さん、お母さん、ごめんなさい。僕は本当にいけないことをしてしまった。社会に戻ったら、次は真面目に学校にもいって勉強もしようと思う」
その言葉に嘘はなかった。
でも、それから約1年後、また逮捕されてしまった。
喧嘩をして、相手に怪我をさせてしまったからだ。
「もちろん、暴力は犯罪だけど……逮捕するのはおかしい! 相手があまりにも悪いから、殴るしかなかったんだ」
僕はひたすら、そう言い続けた。
「社会での更生は不可能と判断し、今回はあなたを中等少年院送致とします」
くるべき日がきた。ただそう思った。失うものなんて、何もなかった。
少年院に入ってからの数ヶ月間は、他の少年とよくトラブルを起こしていた。そして少年院の先生(法務教官)にも、何度も呼び出された。
「あいつは絶対的に悪いから、殴りたい。でも少年院の中で人を殴ったら、また逮捕されるし、親にもさらに迷惑かかるし……」
あるとき法務教官に、自分の考えを素直にいった。そして、それに対する返事に僕は驚いた。
「お前の親って、結構金持ってそうだよな。俺はお前に殴られたいわぁ。だって殴ってくれたら、親から賠償金として良い額とれるしさ」
こいつ、殴ろう。
一瞬にして、そう思った。拳を握りしめた瞬間こう言われた。
「だから、君はちょろいんだ!」
先生の顔は真剣だった。
「君は、悪い大人にとっては良いカモだ。挑発したらすぐに殴ろうとする。暴力を振るえば一瞬にして、君を加害者、相手を被害者という関係にする。そして、被害者という立場はある意味強い。殴られた相手は君の親に対して賠償金も求められるし、警察にすぐに通報こともできる。こういうと、君はこの法律がある中では、上手く生きていけないと思うかもしれない。でも、君はそんなに安くない。自分を変える意志さえあれば、いつでも変われる」
気づいたら僕は、泣いていた。今までの価値観が崩れ去った。
初めて、「自分を変えよう」と思った。
変わる努力をしだしてからは、少年院の先生はものすごくサポートをしてくれた。
「君は主観と客観という区別をつけられるようになった方が良い。そして、自分のことを客観的にみれるようになろう。例えば、相手が君を挑発していると思っても、客観的にみるとそれは君の勘違いってことも多いしね」
「人に認められたいって思う気持ちは別に悪くない。承認欲求っていう皆が持っているものだしね。でも人に注目されたり、認められるには、努力をして結果を出さないといけない。勉強でも、スポーツでもね。もちろん、単車で暴走をすれば簡単に人に注目してもらえるけど、それじゃあ周りに迷惑もかかるし、君もまた捕まってしまう。目的に対して誤った手段を選ばないのも大事なことだよ」
「学校に通いたいなら、大検(高卒認定試験)をとれば、大学受験ができるから進学もできる。今からはじめたって少しも遅くないよ」
1年間を通して、本当に多くのアドバイスをもらった。
自分を変えるために、様々なワークショップにいつも積極的に取り組んだ。
「少年院に入ってたってだけで、やっぱりこれから先、差別を受けるんですかね?」
少年院を出るとき、僕は先生にこう聞いた。
「全てはこれからの君次第だよ。君が本当にすごければ、そんな過去なんて誰も気にしない。例えば、ある東大生が過去に少年院に入ってたことが周りバレたとしよう。会社はその人をクビにするかな? 友達は離れていくかな?」
社会に戻ってから、僕は自分でも本当に頑張ったと思う。どんなに困難なことがあっても、どんなに泣いても、ただ頑張り続けた。
そして18歳の頃、僕は現役で目標としていた大学に合格した。
大学進学後は、某企業でインターンシップをしたり、中卒で大学受験を目指している方を対象に講師をするなど、様々なことに取り組んでいる。
来年からはイギリスの大学に編入予定だ。
「全てはこれからの君次第」
少年院を出るときにいわれた、あの先生の言葉に間違いはなかった。
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