就職して、改造人間になると決意した
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記事:珈琲一杯!(ライティング・ゼミ日曜コース)
「あまり、人と話せていないようですね」
席に着くやいなやの問いかけに驚いて答えに窮していると、
「はい、それでは、ありがとうございました」
と、退室を促された。
こうなっては仕方がない。
「ありがとうございました」
とお互いに挨拶して退室した。
就職活動中の面接での出来事である。
あまりにひどい。
こちらが少しムッとしたのが伝わって、ひどかったかもしれないなという態度になってくれたのがせめてもの救いだ。
思えば、自分の就職活動は不完全燃焼であった。
自分が生き生きと働いて何か面白いことができるのではないかと感じる企業であっても、
学部や専攻が違う、研究している分野が違うといった理由で落とされる。
かといって専攻していたことの先にあるような企業であっても、
「弊社でどんなことをやりたいですか」
とか、
「あなたはどんなふうに働きたいですか」
といったようにどんなことがしたいのか、これまで学んできたことの先に何をしたいのかといった具体的なことを聞かれることなく、その前の段階で落とされてしまうことが多かった。
結局、就職活動において何が正解なのかもよく分からないまま、自分がやりたいことに向かって完全燃焼しきって内定を勝ち取るというプロセスを経ることのないまま、何とか内定までたどり着くことのできた会社に入社した。
入社したのは、分析装置を製造するメーカーだ。
取引先には大学や官公庁、大手メーカーなどもあり、専攻に関連して何か新しいことができるのではないかな、と思っていた。
しかし、現実はそう甘くはなかった。
部署に配属されると、期待されているのは型の決まった仕事をやりとげることで、
自分が何をするかというよりは、仕事がきちんと動いて製品がちゃんとできているかということの方が重要視されていた。
社内のシステム的にもお役所仕事的な硬さがあって、感情だとか頭だとかをあまり使わないようなところがあった。
学生時代にイメージしていたほど自由に自分を動かすことができず、
就職活動で燃やすことができなかった思いはくすぶったままになってしまった。
その状態でいると、やっていることが空虚なことに感じられてきてしまうし、
物が不完全燃焼したときに一酸化炭素が発生するように、何とも言えない有害なストレスが体の中にたまってきてしまう。
これはいけない! ということで、自分を色々と改造することにした。
まず、仕事の部分。
物事を外側から判断するような冷たさを感じる人について、
どんな気持ちで、どんな順番で物事を考えて仕事をしているのか理解して、
自分の中にもそういう人の考え方のプラットフォームを作ってみた。
見ている景色の違いで相手と話がかみあわないなんてことがなくなったし、
仕様は満たしているけれどもう少し変えた方がいいという場合にも話がしやすくなった。
それまでの自分の感覚と違う世界を受け入れることで、
社内に広がる世界でもある程度自由に自分を動かせるようになってきた。
次に、プライベートの部分。
仕事だけでは感じきることのできない自由を感じるべく、休日は外に出てみる。
都内を歩いているだけでもいい気分転換になるし、大人になった自由を感じることができる。
映画を観れば真新しい刺激を受けられるし、
ライブやコンサートでは最高の解放感や心底からの感動、生まれ変わったかのような気持ちを経験できる。
ライティング・ゼミや講演会のような学びの場にも足を向けてみる。
それまでの自分になかった新しいことが学べて、面白いし自分の糧になってくれる。
どれも仕事に直接関係ないことだが、仕事でカチコチになってしまった部分に風穴を開けてくれ、内面を豊かにしてくれる。
そうして、自分の中のソフトウェアがアップグレードされたかのごとく、この前までは少し億劫だった仕事にも手が出せるようになってくるのだ。
さらに、仕事を少し深く複合的に考えられるようになり、自分の判断でできることの範囲が広がるなんて効果もあった。
改造を続けること十年近く、まだまだ完成はほど遠いがまずまずの成果だ。
仕事の量が増えたが、一つ一つ自分なりに充実させながら取り組むことができている。
プライベートでも色んなところに行って人に出会い、様々なことを吸収できる日々を過ごせている。
自分の内面は学生時代とはまるで別物になった。
一つ一つの改造部品がうなりをあげて、どこか新しい世界に連れて行ってくれそうなのである。
これから、どんな自分になっていくのかは分からない。
転職や結婚など人生の転機を迎えるかもしれないし、
いまの職場で少し違った働き方をするかもしれない。
ライティング・ゼミで学んだことを生かして、プライベートを充実させることになるかもしれない。
行先が分からない道だが、このまま先へ進んでいきたいと思う。
自分を改造していくことの先に、豊かな人生が待っていると信じられるのだ。
目指すのは、完全燃焼ただ一つ。
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