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東京で5,500人の男性だけが手にした、人生を変えるチケット


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:三木智有(ライティング・ゼミ平日コース)

「東京中、昨年一年間でたったの5,500人。これが何の数字だか知ってますか?」
そう問われても、僕にはさっぱり検討もつかなかった。
「ヒントは、パパ、です。あなたがパパになった時のことを、思い出してみてください。それはあなたにしかできないことと関係がありますよ」

僕にはいま、3歳になる娘がいる。
彼女がこの世に誕生した時、助産院で出産の立合いをしていた僕は、一晩中苦しみの声を漏らし続ける妻と共に過ごしていた。声の波は押したり引いたりしながら、でも一時も止むことはなく続いていた。
そこは小さな、わずか4畳半ほどの和室だった。身体の体勢が落ち着かないのか妻は座ったり、四つん這いになったりしながら波の押し引きと格闘していた。

「ご主人、まだまだかかりそうだから、疲れたら仮眠しててもいいですからね」
「まだまだ!? いつまでぇ」
落ち着いている助産師さんとは対照的に、妻は絶望なのか憤りなのか、ぶつけようのない感情を吐き出した。

確かに、ここまで来ると当事者である妻と、体内にいる子どもは必死だが、それ以外は背中をさすったり、マッサージをするくらいしかできない。
でも僕には助産師さんにも他の誰にもできない、やれることがあった。

それは「共有」すること。

この時間や空間、「ちゃんと生まれてくれるのかな」という不安や「もうすぐだ」という期待感。
そういった出産の体験を共に共有することができるのは、夫であり、父になる僕にできる唯一のことだろうと思っていた。
痛みや苦しみを共有することはできないが、わが子誕生の想いを共有するのは僕にしかできないことだ。

助産師さんもずっと妻に付きっきりというわけにはいかないので、出たり入ったりしながら様子を見ている。
はじめての出産で、自分の身体に起こる変化が正常なものなのか、異常の兆しなのかの判断ができず妻は「ねえ、助産師さんいる? 近くにいるの?」と大きな波が来る度にうめいている。

そんな不安感にあふれる中、僕は「じゃあ、ちょっと仮眠してくるね」という気持ちにはなれなかった。

出産の立会いをしている全ての夫がそうであるように、「場を共有している」という以外、僕に出来ることは無責任な「大丈夫?」の励ましと、相変わらず背中をさすることだけだった。

明け方、にわかに慌ただしくなった助産師さん達と、妻の姿をわたわたと見守る中、待望の赤ん坊が産まれた。

赤黒くて、しわくちゃでよーく漬かった南高梅のようなその姿を見て「僕に似てるところはどこかな」とまっさきに全身を眺めたが、正直似ているところなんてさっぱりわからなかった。

「お鼻がパパそっくりですね」

助産師さんはそんな僕の目線を知ってかどうか、すぐに共通点を見つけてくれた。
不思議なもので、そう言われると「鼻が似てるのかもな」と思い始めるのだ。
そんな南高梅みたいだった娘も、身体を拭き、タオルにくるまれ、大声で泣きわめいているうちに体中に血が巡り、いっぱしの赤ちゃんになっていった。

東京都の年間出生数はおおよそ11万人だと言う。
だから、家庭それぞれ様々な事情はあれど、新しい子どもを授かるパパやママも11万人ずついることになる。娘が産まれた時、僕はこの11万人の中のひとりになったのだ。

妻娘の退院後、僕は約1ヶ月の育休をとった。

この頃まだまだ長時間眠ることができない娘は、2時間おき、時には5分で目覚めては泣いて、授乳をするという生活が続いていた。

パパになったのだから、妻が安心して子どもと過ごせるあらゆる環境(住環境も、ご飯も、仕事も)全てを面倒みなくてはいけない。そんな気負いが強かったのだと思う。
家族での生活が始まって2〜3週間。この間娘の夜泣きは絶え間なく続き、僕たちはほとんど眠れない夜を過ごしていた。

夜中に娘が起きるとむくむくと2人で起きる。妻が寝かしつけのために授乳をしている間、僕はそれを見守ったり、背中をさすったり。
それでも寝ない場合は抱っこを代わったりしながら、何とか夜をしのいでいた。

しかし、ある晩。
ついに僕は爆発した。寝不足が続いているイライラや全てを完璧にやらなくちゃ、という思い込みでパンパンになってしまったのだ。

そして気がついた。
妻が授乳している間、ぼくは大変さを共有しようと一緒に起きていた。「共有」することは、立合い以来僕にとって重要な子育てのキーワードでもあった。

でも、出産はその瞬間までだが、夜泣きはいつまで続くかわからない長期戦。同じやり方では長く子育てを共にすることはできないのだと、この時に悟った。
現実の子育てにおいては「共有」よりも「協力」の方がはるかに必要とされているのだ。

「夫婦お互いが健康であること」それ以来、僕たち夫婦が子育てをする上で何よりも大切にしているスローガンだ。

このスローガンを軸に、育休中は徹底的に家族の睡眠時間にこだわった。夜泣きに対してはターンを決めて、順番に授乳(ミルク)する人と休む人を分けた。

「この期間は、子育てについて経験するだけじゃない。仕事復帰に向けた準備期間なんだ」
一度爆発してから、このままでは仕事復帰なんてできないと感じた僕は、健康やスケジュールなど様々な管理体勢を1から見直すことにした。

この育休がなければ、僕たちはどこかで夫婦共にイライラと限界をむかえていたことだろう。

「男性の育休取得率が大幅にアップ。3%から5%へ」
パパになったことを思い出していたら、ふとそんなニュースを思い出した。

僕にとっての子育ての概念を築いてくれた育休。95%の男性はそれを体験することなく、子育てに突入しているのだ。

なんともったいない。

この期間をしっかり夫婦で協力し合うことができれば、子育ても、働き方も大いに変わるのに。

なんと、もったいない。

東京中で育休を取得しているパパは……、

「たったの5,500人なんです」

僕はびっくりして目を上げた。

「東京では年間約11万人の父親が誕生します。そのうちの5%しか、育休を取得していないのです」

この大都市東京において、わずか5,500人。

「政府の目標では、2020年までに13%まで取得率を上げたいようです」

13%なら約15,000人。後たったの10,000人の新しいパパが手を上げれば達成できるのだ。

「共に、15,000人の育休取得の声を生み出していきませんか」

5,500人と育休。この2つが繋がった時、政府がかかげた遠い目標値がひとりひとりのパパの顔に見えてきた。

きっと、できる。

育休の取得が、ママや産まれたばかりの子どもを助けることになるのだから。そして、他の誰でもないパパ自身の人生をも変えてしまう体験になるはずだから。

いまこそ、勇気を持って手をあげるべき時なのだ。
そのかかげた手には、きっと、家族の、そして自分自身の幸せのチケットが握られているだろう。

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2018-07-26 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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