メディアグランプリ

仲良しこよしの生ぬるい苦しみ


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記事:あまね(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
「あんた、お父さんに感謝せないかんよ」
 
小さい頃からよく言われていた。母に、ではなく父方の祖母や叔母に。
社会人となって自分で自分を養えるようになった今だからこそ、言える。私は父や父方の親戚とは相性が悪い。
 
祖母はかなり父を溺愛していた。孫である私もずっと可愛がってくれたけれど、事あるごとに
「父に感謝しろ」
と私に言い聞かせてきた。今でもはっきりと思いだせるのは、祖母が言ったこの一言だ。
「あんたの周りの子の父親の給料聞いてみ。あんたの父親くらい稼いでいる人、そんなにおらんよ」
 
言われたのは、小4の時。給料と言われてもいまいち実感がわかなかったけれど、自分の友達の父親を引き合いにだしてきたことに、小さいながらかなり嫌悪感をいだいた覚えがある。
 
私は、兄2人を含めた5人家族。衣食住には苦労しなかったし、私にいたってはアメリカ留学までさせてくれた。なので、父がたくさん頑張ってくれていたのは分かる。でも、それを祖母が鼻高々に言うのが、なんだかもやもやした。
 
父が毎日会社に行って、頑張って私たちを食べさせてくれていたのは分かるし、本当に感謝している。父と母の庇護下にいた学生時代は、祖母の言葉も相まって「感謝しないといけない」「父を嫌いになってはいかない」と自分に言い聞かせて、かなり苦しんだ。
 
今思うと、父は私たちよりも自分の家族(自分の父母、私にとっての祖父母)を優先する性格だった。そして、決して私のことを認めてはくれなかった。
 
例えば、私の自尊心を気傷つけるようなことを平気でいうような性格だった。小学生の時に、友人とお揃いで貰ったネックレスをしていた時、
「なんだ、そのチャラチャラした格好は」
と吐き捨てるように言われたこともある。それがあって、私はかなり年を重ねるまでアクセサリー一般にあまりいいイメージを抱くことができなかった。その他に、スカート類もなぜか嫌いで、着ている度に「うっとうしい」とばかり言われるので、好きだったマキシ丈のスカートもワンピースも1人暮らしをするまで着ることができなかった。
 
そして、私の中で父が「人間としてあわない」と確信した出来事が2つあった。まず一つは、父が私の大学の卒業式に「来る」と言っていたのに結局来てくれなかったことだ。
 
私は、アメリカの大学に4年間通っていた。今まで父は私のことを認めてはくれなかったけど、自分の力で勉強して卒業までできたことはとても嬉しく、これでやっと父も認めてくれるのではと思った。思い切って卒業式に両親を誘うと、父は「仕事が忙しいから」と断った。その後、「卒業旅行の意味で、ハワイなら行っても良い」とぼそっといった。
 
結局、卒業式には母が来てくれた。卒業式が終わって、いざ帰国となった時に、私は卒業旅行に父と母を誘った。英語でコミュニケーションがとれる姿を父に見せたいとも思っていた。けれど、その時も父は「忙しい」と旅行には来なかった。
 
そのくせ、祖母や祖父との時間はとる。祖母が一週間のクルーズに出かけるので、誰が一緒に来てほしいといった時、真っ先に自分が行こうとしていた。私の卒業旅行は一瞬で断ったのに、と切なくなった。
 
そして、もう一つは留学時代に変な男に後をつけられてという話をした時。
「お前に隙があったんだろう」
と一言言われた。
「勉強をしっかりしている姿を見せれば、そんな変な男もよってこなかったはずだ」
アメリカでは、極力スカートや肌がみえるような服を着ないように心掛けていた。勉強もしっかりしていた。それが伝わっていなかったこと、何よりも父に「女として隙がある」と言われたことが何よりもショックだった。
 
学生時代には、学費も何もかも父に負担してもらっていたから、ずっと我慢していた。
「お前は俺の金で生きているんだ!」
と怒鳴れても、まさにその通りだと歯を食いしばって耐えた。
 
「親に感謝しないといけない」
「親を嫌いになるなんていけない」
ずっとその考えに縛れていた。
 
でも、離れてみて分かる。私は、父を一人の人間として見た時に尊敬できないのだ。つまり、あわない。家族だからといっても、一人の人間同士。そういうこともあるのだと、すっと腑に落ちた。社会人になって、家族や友人たち以外とも交流をもつようになり、少しだけ視野が広がりそう思えるようになった。
 
今は気が楽だ。
父には感謝している。父のおかげで、勉強ができたし衣食住に困ることもなく友人達にも恵まれた。でも、それと人間として尊敬できるかどうかは別問題だ。強要される想いなんて、ないと思う。「しないといけない」から解放されると、心が軽くなる。

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2018-08-01 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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