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メディアグランプリ

世界で一番苦手な人


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

【8月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《日曜コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:原三由紀(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
私は実名を公開してのブログを6年前からしている。
最初は、なにかいやな目にあったり、悪いことを言われたりするんじゃないかと恐る恐る更新していたが、幸いにも共感の声や、文章を褒めてくれる声に支えられ、ブログは自分の気持ちを素直に話せる大切な場所になった。
 
でも、本当は自分でも気づいている。
6年経った今でも語れないことがいくつかあること。
それが自分の本当のコンプレックスだということ。
 
今までどうしても話せなかったことのひとつが自分の父親の話。
世界で一番苦手な人の話だ。
 
6月から天狼院ライティング・ゼミを受講し、毎週2000字の文章を書く、ということを数週間繰り返してきた。
教わったことで一番心に刺さったのは、「書くことはサービスだ」ということ。
 
自分のための文章ではなく、読んでくれる人のための文章を書くこと。
そのためには自分が隠しておきたいような傷や、見せたくない気持ちをまずは書くこと。
読んでいただく自分の立場を自覚すること。
 
ライティング・ゼミのおかげで、私は自分の心の傷になっていた過去、自分が人を傷つけた過去を初めて文章で表現することができた。今まで超えられなかった小さくて大きな殻を破ったことを感じている。
 
今週もまた2000字。
せっかくならこの機会にしか書けないことを書きたい。
書くことにちゃんと向き合いたい。
そう考えたとき、ふと頭に浮かんだのが父親のことだった。
 
まだ自分のなかで消化できていない思いがたくさんあるので、この2000字の旅路がどこに終着するのか、不安と期待を両方持ちながら、自分でも見届けたいと思う。
 
父親とはもう15年会っていない。連絡すらとっていない。
 
幼い頃、私の家は決して裕福でなかった。
デザイナーだった父は、芸術家肌で感情の起伏が激しく、自分なりの確固たる正義というものがあるがゆえ、主義主張が激しく、人と口論になるとおさまりがつかない人だった。
 
母や姉、私という家族があっても、会社の人と喧嘩をして仕事を何度も辞めてきた。
そのたびに経済的に困窮する我が家を、母があらゆる手を尽くして救い、私たち2人の娘の生きる道をつくってくれた。
 
気に入らないことがあれば、家で怒鳴り散らし、モノを投げることもあった。食卓にあった棚のガラス戸は、父が投げた皿で割れてからずっとガラスなしの状態だった。
 
私が中学生になったころには、父は狭い家のなかで母を無視するようになり、家族とのコミュニケーションを拒否した。
家庭内別居といえる状態で思春期を過ごした私はここでは表現しきれないほどさまざまな気持ちを抱えることとなった。その時代感じたことは、私の女性の生き方や結婚に対する価値観に大いなる影響を与えた。
 
そんな状態でも小さな頃から我が家の習慣だったのが、お互いの誕生日を祝い一緒にケーキを食べること。
いつのことだったのか、はっきりとは覚えていないけれど、すでに関係が断絶しながらも、父のためにケーキを用意し誕生日を祝おうとしたことがあった。
その日、とある理由で激高した父はケーキを投げてぐちゃぐちゃにし、誕生日会は台無しになった。
その無残なケーキをみたとき、私は父に期待することを完全にあきらめた。
 
父親も一人の人間。
尊敬しなくていい。
大事にできなくてもしょうがない。
 
そう、やっと吹っ切れて少し心が楽になったのをとてもよく覚えている。
 
私が大学生になり、両親は離婚することになった。
離婚には、ネガティブな印象をもつ人もいるかもしれないが、私にとっては待ちに待ったポジティブなイベントだった。
 
「ああ、やっと離婚してくれた」
 
心の底からホッとしたし、少し遅かったとすら思った。
なかなか離婚できなかった理由のひとつが、母の経済力だったこともあり、自分はたくさん働いてたくさん稼ぐ、自立した女性になろうとあらためて誓った。
 
私にとって父の存在ってなんだろう?
陳腐だけどこんな言葉が思い浮かぶ。
 
「反面教師」
 
私自身は、人付き合いの下手だった自分の父親とは真逆な性格。
自分でいうのもなんですが、愛想がよく、コミュニケーション能力が高い方。いつも笑顔だねと言われることが多く、どんな人ともすぐにフランクに仲良く話すことができる。こわもてのおじさまや、地位のある偉い人、まじめな人、怖い人も全然苦手じゃない。
そう、私は人生で苦手な人に出会ったことがほぼない。
 
でも、父親の血を感じることも本当はある。
感情の起伏が本当はすごく激しいこと。自分なりの正義にこだわりが強いこと。
偏屈でかたくなな自分を感じて、父に似ている、と少し怖くなることもある。
 
今ブランディングの仕事に関わって、写真やデザインの仕事もするようになり、デザイナーだった父の血も今の自分に活きていることを感じることもある。
大人になるにつれ、いやでも父の血がこの身体に流れていることは感じている。
 
私が苦手な人がいない理由。
それはどの人も父親に比べたらずっと付き合いやすいからだ。
偏屈で突然怒ったり、怒鳴ったり。おかしな理屈で理不尽なことを言ったり。
まるで同じ言葉を話しているとは思えないほどに、話が通じなかったり。
 
幼少期に、とんでもない人と一緒に暮らしてきた私にとっては、その後に出会う人は父に比べたらたいていはずっとまともで付き合いやすく、そして、なにしろ優しかった。
 
父と会わなくなって15年。
お互いが生きている間にまた会うことがあるのだろうか?
そんなこともたまに思わないでもない。
 
実父との交流を断つ私は、人の目には冷たくうつるだろうか?
でも、ちゃんと理解してるのだ。
愛情表現のへたくそな父親がそれでも私や姉のことを、彼なりのやり方で愛していただろうことも。
彼がくれた能力や才能が、今の私が生きる上で大きな糧になっていることも。
 
世間に理解されない自分の才能や思想を抱えた彼が、そのジレンマのなかで家族をうまく大切にできなかっただろうことも、大人になった今なら少し理解できる気がする。
 
父は私に世の理不尽さを教えてくれた人。
彼が私にくれた理不尽さに比べたら、私がこの世界で感じる理不尽さなんて正直たいしたことがない。
この世はなんて生きやすいのだろう。
 
私は、本当のところまだ上手に父との関係を捉えなおすことができていない。
それは2000字書いても変わらなかった。
なんとなくいい感じの結論を出したかったけど、うまくいかない。
 
でも、家族の在り方、父と娘のあり方、その正しさはひとつじゃない。
分かりあえない、そういう関係もまたきっとひとつの家族のあり方なのではないだろうか。
 
与えられたものも、与えられなかったものも。
すべてが今の私を形づくっている。
 
あなたがいるから、今の私がある。
愛してるよ。
 
世界で一番苦手な人。

***

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2018-08-01 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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