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メディアグランプリ

ギフトとしてのライティング


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

【8月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《日曜コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:吉田順一(ライティング・ゼミ日曜コース)

 
 
「この一連の出来事を、ぜひ書かせて
もらえませんか?」
 
今年の2月初旬、私はこんな申し出をした。
伝えたのは、富良野でメロン農園を営む
農家さんだった。
 
「じゃあ、私が受け取った愛の大きさと
その愛への感謝の気持ちを伝えたい!
それも書いてほしいです!」
 
それは文字通り、心からの叫びだった。
 
昨年の夏、このメロン農家さんを事件が襲った。
農園に何者かが除草剤を散布し、収穫直前の
メロン6,600玉が全滅。被害総額はおよそ
1,500万円にものぼった。
 
また、被害に合ったメロンは全てその到着を
待つ顧客がいた。被害にあった農園は「直販・通販」
で成功した直販農家として、全国にもその名を
知られた存在だからだ。
 
そのビニールハウスの中で、葉や幹がしおれ、
枯れていく無数のメロン。その画像の衝撃は、
ニュースとしてマスコミをにぎわせ、SNS上
でもまたたく間に拡散された。
 
だが事件被害を受けた当事者は、事件直後から
その反響を自ら沈静化しようと努めた。
押し寄せるマスコミの取材も断わり続けた。
 
多くの励ましや支援の申し出に感謝しつつも、
1か月が過ぎる頃、メロン農家さんは
自ら事件に触れることがほぼ無くなった。
 
『なんとか年を越しましたが、正直、
どうしようもない経営状態です』
 
事件から約半年後の2018年1月、メロン農家さん
がSNSを通じ、再び事件に言及した。
 
事件の損害で廃業寸前まで追い込まれた農園の
経営状態を、クラウドファンディングの支援で
回復させたい。その支援の呼びかけだった。
 
約90日間で目標金額は1600万円。
想像を超えた被害状況と目標金額の
インパクトに、再びSNS上で
シェアが広がり続けた。
 
その結果、わずか5日間で目標を達成。
またたく間に1800万円を超える支援が
集まった。
 
私がライティングの提案をしたのは、
その直後だった。
 
誰も想像すらできなかった、悪夢のような事件と
劇的な復活のドラマ。
 
この復活劇に関わった多くの支援者、そして
再び立ち上がり始めた農園のためにも、この
奇跡が起きた経緯は一つの記録として残すべき。
そう思ったからだ。
 
だが、その時の私はまるで分かっていなかった。
事件の被害はメロンだけではなかったのだ。
 
ツイッターの「リツイート」76,471件、「いいね」32,511件
フェイスブックの「いいね」28,000件、「シェア」10,923件。
 
SNSを通じて爆発的に拡散したこのメロン農園の
事件被害は、当事者であるメロン農家さんと農園
に別の被害を与えた。
 
『売れている通販はブラック企業だ』というコメント
ともに、「農園の内部犯行説」や「自作自演説」を
興味本位で書き立てるブログが次々と現れ、
 
アフィリエイト稼ぎに自分のSNSの反応率を
上げる目的の投稿や動画は後を絶たなかった。
 
ネット上に書き込まれたこれらの文章は
人間の持つ負の感情を剥き出しにして
見せた。
 
それはまた、読む者の負の感情も刺激した。
噂話やゴシップを生み、農園で働くスタッフたちの
耳にも入り、それがメロン農家さんの心を再び傷つけた。
 
富良野のメロン栽培は、まだ雪の降り積もる2月から
収穫期の8月まで休みなく続く。過酷な冷気や猛暑、
時には突風の中に身をさらしながら、ビニールハウス
の中で懸命に育て上げたメロンは、時に我が子に近い
感情を抱く存在となる。
 
立派に育て、到着を待ち望む全国のお客様の元に、
無事に送り出さねば。
 
まるで祈りにも等しい想いを抱きながら、本来は
温暖な気候を求めるメロンの生育に農園のスタッフ
全員が心を砕いてきた。
 
文字通り、その血と汗の結晶を無残に枯らされ
傷ついた心は、SNS上に書き込まれた
言葉でさらに追い詰められた。
事件後の沈黙は、それゆえだったのだ。
 
だが、農園を救ったのもまたSNSだった。
 
クラウドファンディングによる支援という芽を
生んだのは、SNSで見た農園の被害に心を痛めた
メロン農家さんの仲間や支援者たちだった。
 
その小さな芽に、SNSという仕組みがより多くの
支援者たちを繋ぎ、想像を超える支援額という
果実を生んだ。
 
「これは今の時代じゃなかったら、きっと
 生まれてなかった奇跡だと思います」
 
メロン農家さんが感じた大きな愛とは、
SNSという現代のメディアが人の感情を
増幅させて生んだ、巨大なうねりだった。
 
だが、そのうねりが忘れがたい記憶も
残した。
 
「ごめんなさい、返信が遅くなりました。
 おそらく私の中で『事件の事は思い出したく
 ない』という気持ちがあったためか、
 なかなか読めませんでした」
 
 インタビューを元に書き起こした原稿を送って
 一週間後、メロン農家さんから返信があった。
 
 その返信は、事件が及ぼした想像以上の
傷の深さを私に思い知らせた。
 
 だが、その後も返信は続いていた。
「読み終わって、マジで感動しました!
全部、ウチのブログに連載として
掲載します!」
 
 35,000字以上に及ぶテキストが全て掲載される。
 今度は、私が感動する番だった。
 
数ヵ月後、メロン農家さんのブログに
掲載された私の連載を読んだという、
東京の友人から連絡があった。
 
「昔、『文章を通じて人に影響や勇気を
与えたい』って言っていたよね。
実現できたんだね!」
 
そんなこと、言っていたかも。
20代の自分が吐いた、青臭いセリフに
苦笑した。
 
あの頃は、いつか自分の手で人の心を
動かす文章を生み出したいと思って
いた。
 
今は、変わった。
 
自分が感動を生むのではない。
どんな状況でも、懸命に生きようとする
人たちがいる。時に泣き、時に笑いながら
自分の人生を歩み続けようとする人たち
がいる。そうした人の姿をきちんと描く
文章が、結果的に他の人の心を動かし、
勇気というギフトをもたらすのだ。
 
7月下旬の先週、メロン農家さんから
ひと玉のメロンが届いた。
 
細やかな網掛けが覆うメロンの表面に
触れると、鳥肌が立つような震えが
走った。
 
もしかしたら、今年届かなかったかも
しれないメロン。
 
何度触れても、震えるだろうな。
この震えを伝えていける文章を
これからも書いていこう。
そう思った。

 
 
***

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2018-08-01 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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