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メディアグランプリ

クレイジーすぎる社長と繊細すぎる私のストックホルム症候群な日々


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:くまはら ひろみ(ライティング・ゼミ日曜コース) 

 
 
8時45分。私は毎朝とある坂の入口に立っていた。
よし! と気合を入れて、坂を上り始める。
目的地が近づくにつれ、足取りは重くなり、お腹がドコドコと鳴り出すが気が付かない振りをする。
さあ、今日も恐怖と攻防の一日の始まりだ。
 
当時、私はブラック飲食系企業のブラック社長のもとで働いていた。
私は社長が、というより社長のような人種が苦手だった。
声が大きく短気。気に食わないことがあるとすぐに怒鳴る。
私は社長を前にするだけで心臓がバクバクして、言われたことがしょっちゅう抜けてしまう。
当然怒られ、私は毎回激しい自己嫌悪に襲われる。
そして運命のいたずらか、私はそういう上司によく当たるのだ。
 
社長は、今まで出会った上司の中でダントツにクレイジーだった。
私が最も衝撃を受けたクレイジーエピソードがある。
ある日、社長が突然「こんなんじゃお客さんも来てくれない!」と店の壁の色を変えると言い出した。
そこで、従業員総出で壁を塗り直し、その出来栄えに社長も大満足で帰っていったらしい。
が、その2週間後に社長がまた店舗に現れた。
すると、社長は突然キレて店長を呼び出し「この壁の色はなんだ!? すぐに元に戻せ!」と、
塗り直しを命じたそうだ。
 
……社長はアルツか? 自分が言ったことを覚えていないのか? まるで店長が悪者やん! 
が、長年社長の片腕をしているSさんは違った。
「うん、普通に考えたらおかしいと思う。でもね、それが社長。そして、そんな突発的な社長の要求にすべて対応するのが我々の務め……!」社長に散々振り回されたであろうSさんはすでに菩薩の域に達していた。
 
まだ菩薩になりきれない私は、日々恐怖と自己嫌悪の日々を送っていた。
その日も「女を出しすぎている」「まともな会社で働いたことがないからおかしい」などという強烈な言葉を浴びせられ、餃子屋で独りビールを飲みながら悶々としていた。
その頃の私は、社長を恐れるあまり腫れ物を触るような接し方をしていた。
「ワタシハ、アナタノ、ミカタデス」自分の心を守るために精いっぱい愛想良くする。
まるでストックホルム症候群のように。社長はそんな私の姿が媚びているように感じたのだろう。
確かに私はおかしい。でも、あんたの方が超絶にクレイジーだ!!
 
段々腹が立ってきた私は、友人に「今日のお社長」という題名でメルマガ配信を始めた。
これは私の精神を保つための代替え行為だ。お茶に雑巾のしぼり汁入れられないだけマシだと思え!
社長はそのクレイジーゆえに日々おかしなことをやってくれたので、ネタには困らなかった。
 
今日のお社長。佐川急便の人から今月分が2円足りないと集金に来られる。
 
今日のお社長。ガス代延滞のため、本店のガスが止められそうになる。
その際に「諦めるな、俺達には長年培ったノウハウがある(?)」という謎の発言をして支払わない。
 
今日のお社長。社長作のじゃがいもを使った新メニューの説明が斬新すぎる。
約100文字の中に「じゃがいもが~」という言葉が5回も出てくる。(URL付で配信)
 
「今日のお社長」は一部で密かなブームになった。
会社で嫌なことがあっても、あの斬新なじゃがいも文を見ると元気が出るよ! 
などと言われた日には社長に感謝すらした。段々と社長が人間ではなく珍獣に見えてきた。
今日はどんなことをしでかしてくれるのだろうと、会社に行くのが楽しみにすらなっていた。
 
そんなヤケクソナチュラルハイな日々を送っていたある日。
業績悪化のあおりを受け、私は解雇されることになった。でも、以前から税金滞納の督促状の束を発見したり、労働基準監督署からの電話が何度もあったりと前兆はあったので驚かなかった。
むしろよく持ったな。これで私は自由だ!
 
そして出勤最後の日。私はなぜか社長からサシ飲みに誘われた。
庶民的な焼き鳥屋。お互い酒が入って気分が軽くなり、社長は色々な話をしてくれた。
矢沢永吉に憧れてずっとバンドをやっていたこと。今でもボイストレーニングをしていること。
意外に好きな映画がかぶっていたことにも驚いた。
 
調子に乗った私は、もう二度と会わない人だからと思い切って聞いてみた。
「社長、私は社長のような方がとても苦手です。今後もし社長のような人が現れた場合、
どうすればお互いに良い関係を築けるのでしょうか?」
 
すると社長はこう言った。
「仕事は結果がすべて。一緒に仕事をする人の人柄やプロセスはどうでも良い。
もし俺みたいな人間が出てきたら、ただ仕事をしているだけと思えば良い。そこに好きも嫌いもない」
 
目から鱗が落ちまくった。
もしかして、過去に苦手でたまらなかった上司は私のことが嫌いだったわけではないのか?
ただその人のやり方で、仕事を全力でしていたということなのか?
 
そして、社長は続けた。
「あなたはちゃんと仕事もするし、まともな人間だ。でもそんなに繊細だとこれからやっていけないよ」と。
ああ、私はダメじゃなかった! 社長の言葉は長年の悩みを見事に吹き飛ばしてくれた。
 
それから私は、大きな声を出したり、短気な上司が苦手ではなくなった。
カリカリしていても、この人は仕事を全うしているだけだと切り離して考えられるようになり、
精神的にとても楽になった。そうするうちに不思議とそんな上司にも当たらなくなった。
苦手なものは克服しない限り人生に定期的に現れるという。
いつも怖い上司から逃げていた私が、今回は向き合ったのが良かったのだろうか?
かなり姑息な向き合い方だったけど。神様は結構な試練を用意してくれたものである。
 
ちなみに、サシ飲みの帰りに社長が言ったこと。
「やっぱ俺、5オクターブの声が出せるようになったらデビューするわ。その時は会社たたむわ」
ああ、社長はやっぱり最後までクレイジー、いやファンキーだ!
そして、このことは「今日のお社長・最終号」として配信し、大反響を巻き起こしたのであった。

 
 
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2018-08-02 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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