メディアグランプリ

レールから外れたぼくが、典型的なサラリーマンになってみてわかったこと。


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記事:木村善則(ライティング・ゼミ特講)

 
 
ずーっとふらふらしていたぼくが普通のサラリーマンになったのは、3ヶ月ぐらい前のことだ。
 
大学を出て、名古屋のWeb系ベンチャーで1年働いたぼくは、ニートになった。社会に出て、いきなりレールから落っこちたようなものだった。暇になったからボランティアなんかをぼちぼちしてたら、うっかりNPOに流れ着いて、そんなに社会貢献な志も持たないままに、なぜかソーシャルベンチャーのスタートアップに巻き込まれた。カタカナでカッコつけて言ってみたところで、中身は小さな会社の立ち上げである。スマートなことなんて何もなくて、しっちゃかめっちゃかで、その分、雰囲気はゆるかった。NPOに入ったときから数えて5年ぐらい、ネクタイとは無縁の悠々自適生活を送っていた。
ただ、立ち上げ期のしっちゃかめっちゃかも収まってくればよかったのだけど、どういうわけかどんどん激しくなってしまった。激しくなり過ぎた辺りで、ぼくは行く当てもないままに転がり出た。
それから1年弱くらい日本の地方をふらついて、島根県の県庁所在地、松江市へ移住することになる。県庁所在地なのに原発が近くにあるというファンキーな地方都市で、パートとか契約社員で食いつなぐ暮らしだった。日本海の幸が旨くて、宍道湖が清々しい。とても気持ちのいい土地に居付いて、ぼくはやっぱりのびのびと過ごしていた。
そんなぼくが、柄にもなく、普通のサラリーマンになった。大都市郊外に住んで、スーツを着て、満員電車に乗って通勤する。典型的なサラリーマンだ。いろいろあって、出戻りするように名古屋の会社に勤めることになった。一番驚いているのは、ぼく自身である。
 
朝は6時に起きる。数年前のぼくからは信じられないくらいの早起きである。でも、意外と普通に起きる。朝ごはんを食べて、身支度をして、6時50分には家を出る。島根にいたときと比べると、約2時間早い出発である。
朝の電車は当然のごとく座れない。非合理だと嫌っていた満員電車である。職住近接が合理的と言っていたぼくの今の通勤は、電車とバスをあわせて1時間とちょっとだ。そんな非効率なことできるか! と思っていたが、案外できた。むしろ、立ってる間は眠るに眠れないから、読書には最適だった。Kindleを導入したら、さらに快適。読みたい本を読む時間ができて、充実感が増してしまった。
8時過ぎには会社に着く。本社ビルがドンと立っていて、その中に吸い込まれていく人に混じる。運動不足のぼくは「階段派」だ。上に上にと登って、息切れを感じながら所属部署のフロアにたどり着く。席に座ってひと息ついたらタイムカード。勤務開始である。
今日の予定を調整していると、みんなが続々と出社してくる。いつもの面々に挨拶。今日も暑いね、なんて世間話を少しだけして、各自の作業に入っていく。集中して静かなときもあれば、ガヤガヤと賑やかなときもある。
上司からの指示には機敏に反応する。卑屈にならない程度に、ヘコヘコと頭を下げる。偉い人は忙しいから、チャンスを逃してはならない。周囲の流れを読んで、うまいところで、いい具合にボールを投げ込むことができたら、評価が上がる。評価が上がれば、意見は通りやすくなる。意見が当たれば、成果が出る。サラリーマン的世界にはサラリーマン的な常識がある。そのプロトコルを守って努力していけば、きちんと認められていくのである。それはそれで、サラリーマン的にとても真っ当な世界なのだ。
お昼や休憩のときには、それなりに愚痴を言いったり聞いたりもするのもサラリーマンっぽい。だけど、みんなの表情が暗いわけではない。いいことがあれば、悪いこともあるってことを知っている顔である。軽口を叩いて、ときに自虐ネタをはさんで、笑う。これが普通のサラリーマンであり、普通の人なのだと気付かされる。
「働き方改革」のお蔭で残業には厳しい。忙しいときにだけそれなりに残って、あとはさっさと帰ってしまう。帰りの満員電車に揺られて、19時ぐらいに帰宅。ありがたいことに、おいしいご飯をつくって待ってくれている人がいる。典型的なサラリーマンの幸せを噛みしめる。
 
サラリーマンって言ったって、ストレスばっかりじゃないし、ギューギューに窮屈でもない。飛び込むんなら思いっきり典型的なサラリーマンになってやろうとしたことでわかってきたことだ。サラリーマンだって人だ。人と人がつくる会社が、そんなに無機質にはならないし、むやみやたらに厳しくなることもない。
早々とレールからドロップアウトしたぼくは、どこかでレールを否定しなければと思い込んでいたのかもしれない。郊外のアパートに暮らし、1時間かけて電車に乗る黒い服のかたまりにも生活があるという、当然のことがわかっていなかった。レールの外の世界ばかりを見ていたのだと思う。視野が広いようでいて、狭かった。
典型的なサラリーマンも悪くない。柄にもないことに挑んで、柄にもない自分になっていく。そのプロセスをおもしろがっている自分がいる。
 
 
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2018-08-02 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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