土鍋でご飯を炊いて鍛えられたもの
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:北川香里 (ライティング・ゼミ平日コース)
我が家では10年以上前から土鍋でご飯を炊いている。きっかけは、電気炊飯器の内がまの交換に1万円近くかかったことだ。
ご飯が傷むのを防ぐためにお酢を少し入れて炊いていたのが、釜の表面加工には悪かったらしい。この釜がだめになったらまた買い替えか、と思うと途端に面倒くさくなった。そこでIH炊飯器を使うのをやめた。
前々から土鍋ですごくご飯がおいしく炊けるときいていたので、早速セラミックのお鍋を買い、ガスで炊き始めたのだった。
一度に炊けるのは3合。米びつのレバーで計ったお米に、麦茶を作るようなピッチャーに水を9割ほど入れて仕込む。計量カップなどしゃらくさい。あとはお酢を一さじ加えておく。臭いはとんでしまうので心配ない。
このお酢と土鍋の合わせ技はすぐれもので、炊飯器の保温機能になどもはや戻れないほどだ。冷めたらお鍋ごと冷蔵庫に入れられる。保温しないから風味も落ちにくい。余分な水分はセラミックにより自然とご飯から抜ける。
複雑なパーツもないので毎日きれいに洗えるので、焦げつきさえしなければ手入れも楽だ。清潔な鍋と酢を使うから、夜炊いて冷めるまでキッチンに置いておいてもまず大丈夫なところもありがたい。
朝は食べる分だけ電子レンジであたためれば問題ない。お弁当箱につめたらそのまま一度レンジしておく。おにぎりなら、ラップをかけたお茶碗によそい、軽くレンジしてから塩とおかずを加え、ラップごと握る。
忙しい朝のお弁当作りにはだいぶ助けられた。なにより朝炊き立ての熱いごはんを握らなくてよい。べちょっとしたご飯をお弁当に入れなくて済む。前の夕食で炊いたご飯が、翌朝の主役をもう一度張れる。それが土鍋ご飯だ。
当然ガスで炊くことになる。さいわい我が家のコンロには炊飯モードというのがついている。これを使えばいいや、と思いきやそうではなかった。
その機能が想定しているのは標準的な鍋、お米の湿度、水加減、水温、室温らしい。実際はタイマーだけに任せると焦げすぎたり、加熱が足りなくて水が余ったりしてしまう。はじめチョロチョロ、なかぱっぱ、の言い伝えを試してみたり、ネットで調べた時間通りにしてみたり、工夫するしかなかった。
やがて、モードに一切頼らず水加減、火加減を自分で調節することにわたしは楽しみを見出した。
お米が精米されてすぐか、一月以上たっているかでも炊き加減はかわって来る。同じ米袋のお米も、最初と最後では最適なパラメーターが違ってくるのだ。
夏なら気温、水温が高いので、スタートの温度が高いということになる。冬なら反対だ。中でも難しいのは水加減で、お米の新しさや品種でも違ってくる。
水が熱せられてお米に熱が伝わるので、水が少なすぎては一向に調理できない。水だけは、もはや炊いてみなければわからないというのが厳然たる事実なのだ。
気温やお米の状態が近ければ、数日間は似た感じでうまくいく。でも、研いでお水を入れてからどのくらい時間がたったか、などは毎回違う。
いろいろ試行錯誤したのち、行きついたのは、なるべく弱火にしておいて、炊飯タイマーを併用する、というやり方だ。
タイマーの終わりごろの炊け加減で、火を強めたり、タイマーを3分にしたり、10分にしたりする。そのぐらいの微調整はいつものことである。が、お水を足さなければならない時、時間延長で対応できない時は、正直負けた気分になる。
文明の利器を手放せば、手のかかる生活が待っている。鍋には耐熱の取っ手などない。むき出しのセラミックの蓋は熱いため、鍋つかみでつかまなければならない。煮立った水がふきこぼれることもある。タイマーが終わってみてみると、どろっとした熱い汁がコンロに広がっていることもある。
そうして手塩にかけて炊いたご飯のおいしさは格別である。おてごろなお米でもおいしいし、お高いお米ならそのおいしさはさらに際立つ。品種による特徴もわかるようになってきた。
お米が立つとか、カニの穴ができる、という言い伝え通りになることもあるが、会心の”でき”でなくてもいつも水準以上においしいのが土鍋ご飯のよいところだ。
完全に制御しきれないパラメーターを抱えながらも、最後にはお米のおいしさが引き出されてしまう土鍋炊飯。
無限の条件の組み合わせに毎回チャレンジしているようなものだ。炊き加減が完全には予測できない。
昨日と同じ水では足りないかもしれない。多すぎるかもしれない。こうしたらこうなる、が予想通りにいかないのだ。そして絶妙な加減でうまく炊けた時、もはや僥倖だとさえ感じてしまう。
人智を尽くしても想定通りにいかないことがある。それが毎日体験できる。多少の誤差なんて平気になる。少々の焦げは許せるようになる。むしろおこげご飯もラッキーと思えるようになる。実験に失敗などない、というエジソンの境地に到達する。
土鍋炊飯はうちの食卓においしいご飯をもたらしてくれただけでなく、わたしの心を少しづつ筋トレしてくれたらしい。
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