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メディアグランプリ

あれは音ではない


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:関 伸夫(ライティング・ゼミ 平日コース)

「あんなに同じところをヒュンヒュン回っていて何が面白いんだ」
という人がいるが、この話を聞いただけでこの人はテレビでしかF1を見たことがないんだな~ということがわかってしまう。
一度でも実際にサーキットに行って走っている現物を見た人は絶対に「ヒュンヒュン」とは言わない。
バリバリバリー!!と声をはりあげて言う。
本当はこんなフォントじゃなくて「バ」1字でこのページ全体くらいの大きさで書いて、声を張り上げたらその紙が破れるくらいの感じ。
テレビのスピーカーであの音を出したら多分壊れるし、家じゅう振動して隣近所から苦情がくるんじゃないだろうか?
そしてあれは実は耳で聞く「音」ではない。
空気の脈動というのが一番近いだろう。
車が近づいてくるとガッチリしたベンチが「ビーッ」と振動してお尻がムズムズする。
そして全身の皮膚がビリビリ震え、車が目の前を通過していると隣の人の耳に直接口をつけて大声で話しても言っていることが伝わらない。
もちろん何台も来たときはさらにすごいことになる。
でも口で言っても伝わらないだろうな~。

1987年、この年は日本人の中嶋悟がF1ロータスホンダに乗り、日本グランプリが始まった。
11月1日、前日の予選日に合わせて東京からバスで鈴鹿に入り、周辺のホテルは関係者でいっぱいのため宿泊は伊賀の山奥まで連れて行かれて朝4時に、「えふわんぐらんぷりごいっこうのみなさま~」というなまった館内放送で起こされ朝食のおにぎりを持たされてサーキット入り。
最終コーナー席でパートナーと並んでF1を見ていたこの時代は1500ccターボ全盛期。
HONDAやBMWのエンジンは予選仕様では1000馬力!出ていたといわれている。
車を少しでも知っている人なら1500ccっていうエンジンは普通ファミリーカーにのっているサイズで、かなりの高性能バージョンでも150馬力出ていたら、「すごいね!」と言われる。
それが1000馬力!
しかも普通私たちが乗っている車は1トンを超えるが当時のF1は650kg以下。
一般人が運転したらフルにアクセルは踏めないだろうが不用意に踏んだらとたんに飛んでいってしまうだろう。
まあ飛ばないようにするために飛行機とは逆向きに地面に押し付ける方向にウィングが付いているし、ボディの下を高速の空気を通過させて気圧を下げ、地面に張り付かせるので、だれもやらないだろうが理論的には天井をさかさまになって走れると言われている。

そんな感じでただ圧倒され声も無く浸っていた私たち夫婦であるが、すぐ近くに同じ体験をして自分の将来を決めた若者がいた……というのはあとで本人が書いたものを読んでわかったのであるが、当時10歳の佐藤琢磨がお父さんに連れてきてもらって初めてF1を見ていたそうだ。
そして彼は私たちと同じ皮膚体験をして……
「僕は将来F1ドライバーになる」
彼はこう言って10年後レースの本場であるイギリスに渡り、セナもチャンピオンになったイギリスF3で圧倒的な強さでチャンピオンになり、セナも優勝したF3の世界選手権と言われているマカオグランプリで優勝し、本当にF1ドライバーとなって世界のサーキットを駆け回った。
USグランプリでは表彰台に立ち、そしてその後、アメリカのインディーカーシリーズに移って多くの人が知っているように、昨年のインディアナポリス500マイルレースで優勝して有名なボルグワーナートロフィに顔が刻まれた。
琢磨のおかげで初めてアメリカ国外に出たこのトロフィーを見たファンも多いのではないだろうか。

すべてのスタートはあのビリビリの振動で心が揺さぶられ、そして自分がF1ドライバーになっている姿を頭の中に描いたことだと思う。

まったく違う体験だが、この文章は天狼院ライティング・ゼミ会場で書いた。
その短い時間でいくら頭で考えていても経験しないものは絶対に身につかないと実感した。

ちなみにパートナーは動体視力がとても良かったので、この時ステアリングを切っている手袋の色がわかったと言うし、今でも、「マクラーレンってきれいに磨かれていて『なんてきれいな車だ』と思った。この年のおばさんが生のセナさんやマンセルちゃんやプロストちゃんやサトルちゃんを知っているのはすごいと思う」と言っている。

「ヒュンヒュン」と言っている皆さんはレースが好きかどうかは別にして一度サーキットに足を運び、できればサイレンサーの無い※、F1のエンジンから出る空気の振動を味わって欲しい。
そして自分の子どもを連れていって欲しい。
ひょっとするとあなたの子どももF1ドライバーになるかもしれませんよ。

※サーキットは周辺環境のために騒音規制があり、F1以外はそんなに音が大きくない。
***

この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。
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2018-08-22 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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