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“平成最後の夏”だから何だっていうんだ


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記事:中川文香(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
“平成最後の夏”という言葉が、今、日本中にあふれている。
 平成最後の夏だから、何だっていうんだ。
 今まで、「今年は平成○年の夏かぁ……」などと気にしたことなんて無かったのに。
 
 テレビでは、「平成最後の夏ですが、今年の夏は何をしますか?」とアナウンサーがインタビューし、ネットには“#平成最後の夏”があふれている。
 これまで元号が変わる年を確実視するということは無かったのだろうから、この盛り上がりなのかもしれないけれど。
 だけど同じように、“平成最後の秋”とか“平成最後の冬”とか言うだろうか?
 どうも、“夏”というのは特別な意味合いがあるらしい。
 
 夏は暑い。
 特に、今年の夏はかなりの酷暑だった。
 記録史上、過去最高気温とかもたたき出しているところがあったし、私の子どもの頃と比べても、年々暑さが増して行っているような気がする。
 暑いと薄着になるし、身につけるものが軽いほど、気分は開放的になる。
 そして、このじりじりと暑い日差しを落としてくる、抜けるような空である。
 この“暑さ”が、夏を特別なものにしているらしい。
 
 そして、夏にはドラマがある。
 甲子園球児たちがその最たる例だと思うけれど、この暑いさなか、白球をひたむきに追いかける高校球児たちには、見ているだけで感動してしまう。
 私はこうやって、クーラーの部屋で麦茶を飲みながら眺めているが、この子達は汗を流しながら泥だらけになってこんなに懸命に走っている……、と考えるだけで思わず涙が出てくる。
 高校球児の様子を見るだけで泣けてきてしまうくらい大人になってしまったけれど、私にも子どもだった頃があって、夏休みには川で泳いだり、セミをつかまえたり、私には私なりのドラマがあったものだ。
 
 けれど、こんなことがある夏ってまた来年もやってくるし、再来年もやってくる。
 夏が過ぎるとだんだんと涼しくなり、やがて「あんなに暑かったのなんだったのだろう」と思うような冬を迎えるけれど、日が経つとまた、暑い夏がやってくる。
 また来ることが分かっている。
 平成最後の夏を騒ぐのは、リニューアルオープン前の閉店セールに群がっているようなもんだ。
 普段はお店の名前なんて気にもとめないのに、いざ「閉めますよ」となると急に「行かなければ」と思うような。
 かと言って、いざ行ってみると、欲しいものは無かったりする。
 平成最後の夏だからといって、急にやりたいことなんて見つからないもんだ。
 
 だから、普段の夏と変わらず過ごした。
 親戚と会ったり、友達のところへ遊びに行ったり、お墓参りに出かけたり。
 いつもと変わらない夏。
 よくある光景。
 
 よくある光景なのだけれど、去年までとはまたちょっと違うことも入っている。
 新しく出来た友達と出かける、興味のあることを勉強してみる。
 そんな些細なことでも、去年までと違って、今年の夏だからこそ出来たことなのだ。
 今年の夏は、去年までとどこか少しだけ違う夏だった。
 そう思えるような小さな違いを重ねることが、また来年の夏を楽しみに待つための種まきになるのではないだろうか。
 
 「去年の夏は、こんなことしていたなぁ……」
 と、以前のことを振り返ったときに、自分が進んでいることを実感するものだ。
 夏は、毎年やってくる。
 来ることは分かっているので、今の、今年の夏にしか出来ないことをやる。
 友だちと会うのも、お墓参りに行くのも、毎年やっているかもしれないけれど、今の自分にしか感じることの出来ない感覚ってきっとあるものだ。
 その、今の自分だからこそ捉えることの出来る感覚を大事に持ちながら、夏を過ごしていくと良いのだろうと思う。
 「去年の夏は、こんなこと考えていたっけな……」
 と、思いながら。
 
 来年の夏は、きっと元号が変わっていて、今度は “〇〇元年の夏”という言葉がもてはやされるようになるのだろう。
 “夏”の前につく看板は変わるけれど、夏であるということ自体は、例年と変わらない。
 リニューアルオープン前である今、なにかお楽しみを作っておくのも良い。
 淡々と日常を過ごす中で、今から始めてみる。
 別に夏らしいことでなくても構わない。
 今始めておくと、きっと来年の夏にそのことを思い出すから。
 「あぁ、去年はあんなことしたな」の種まき。
 新しい元号で迎える、夏に向けて。
 そんなことをきっかけにして、何か小さな新しいことをする習慣を付けたら、毎年夏がくるのがきっと楽しみになる。
 「去年はこんなことしたし、今年はこれをしよう」と、自然とチャレンジする土壌が出来る。
 “平成最後の夏”というのを踏み台にして、これから何回と来る夏に「去年とちょっとだけ、違うなぁ」を実感できるようにしていくために。
 
 “平成最後の夏”だから何だっていうんだ。
 けれど、そんなきっかけに出来るのであれば“平成最後の夏”の盛り上がりも悪くないな、と思う。
 
 
《終わり》
***

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2018-08-22 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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