fbpx
メディアグランプリ

並ばないお店に行きたい。


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

【9月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《平日コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:伏見英敏(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
「パパ~、回るお寿司屋さんに行きたい!」
娘がまだ小さい頃、一時期回転ずしのマイブームがあった。母親はどこで教えてもらったか
「西武デパートのレストラン街に回る美登利寿司があるらしいよ」
と行く気満々でスマホの画面を差し出した。
 
だいたい回転寿司で良い思い出はない。田舎の港町で育った私は、寿司や魚介類が大好きで、お金に余裕のない若い頃には回るお寿司屋さんによく行ったものだ。そしてほとんどの場合
「こなけりゃ良かった……」
と自分の食い意地の強さとお金の無さを嘆き
「3~4回、回転ずしを我慢して、今度こそ回らないお寿司屋さんに行くぞ」
とむなしい決意をするのだった。
 
回るお寿司屋さんでも一度だけ感激したことがある。妻の実家がある函館でのこと。近くにある『函太郎五稜郭店』という回転ずしのお店を紹介されて行ってみた。まず雰囲気がいい。奥の方にはお座敷もあり、回さないお寿司も出しているようだった。地の物なのだろうか、ウニやイクラも東京の回るお寿司屋さんと違ってイキイキとしている。ご当地代表のイカやホタテも輝いていてベルトコンベアというランウェイを誇らしげに歩いて来て
「早く私をとってくれないとターンしちゃうよ」
と言わんばかりにきびすをかえしていく。値段は東京の回る寿司屋さんと変わらないくらいだ。ただし、一皿に一貫しか乗っていない。
 
西武デパートの回る美登利寿司に函太郎のイメージをかぶせながら行ってみた。お昼時を過ぎていたためだろうか、そんなに待っている客は多くないようだった。店外に出された椅子に順序良く並んでいる。その列を辿って行くとお店の角で曲がっている。そこを右折して並ぶのかと思ってのぞいてみると結構続いている。お店の係らしき人が立っているのでそこが最後尾なのだろう。すぐ近くに並ぶと
「お客さん、通路の向こうの方に並んでもらえますか」
「えっ?」
係の人の指さす方を見てみると椅子に座って待っている人の何倍もの人が立って並んでいる。嫌な予感を抱きながら本当の最後尾のプラカードを持った人のところに行くと
「約70分待ちです」
私は行列のできるお店はあまり得意ではない。どちらかというと苦手というか、はっきり言うと嫌いだ。妻と娘はそうでもないらしく、ニコニコしながら他愛もない話をして盛り上がっている。話に飽きると持参した本を読んだりして上手に暇つぶしをしている。美登利寿司は美味しかったのだが、70分も待つというのが嫌なのだ。何とか辛抱してもう少しと言うところで娘が
「お寿司がお舟に乗ってくる席がいい」
と言い出した。どうやらタッチパネルで注文できる席があるらしい。コンベアの上の方にレールが敷いてあって、そこを舟の形をした乗り物にお寿司が乗せられ、注文した客の席まですうっと運ばれてくる仕組みだ。その席は限られていて、なかなか空かず、さらに数十分待たされた。こうなると味やコストパフォーマンスと言うことではなくて時間がもったいなくなる。
 
池袋には行列のできるお店が多い。西口のネーミングが風変わりなカレー屋さんとか、西口と東口をつなぐビックリガードを東口のジュンク堂方面に出たところにあるラーメン屋さんはいつでもすごい行列ができていて、その数が減るのを見たことがない。
「こんなに並んでいるんだから、きっと目が覚めるほど美味しんだ」
と期待しないで並べるなら、後で落胆もしないから良いのかもしれない。
「ねぇねぇ、この前行列のできるあのお店に行ってきたよ」
とイベントに参加したぐらいの気持ちになれればよいのかもしれない。決してそのカレー屋さんやラーメン屋さんがまずいと言っているのではない。なぜなら基本的にはそんなにしてまで並んだことがないんだもの。
 
ちょっと場違いなたとえになるかもしれないが、作家の城山三郎さんと吉村昭さんが対談で食べ物屋店の前で並べないと語り合っていた。お二人共昭和2年生まれで私の両親よりも年上だが、戦争中や終戦直後の食料難時代の配給の行列を思い出すらしい。そして何より食べ物屋の店先に並んでまでして食べること自体にさもしさを感じるというのだ。
 
私は、そこまで辛い体験や強い信念があるわけではない。でもやはりアホ面をして並んでいるのを知り合いに見られたくはない。誰かが順番待ちをしていて、もうすぐと言う時に連れがワラワラと現れて横入りするのは頭にくる。そんなことで喧嘩してまで食べたくもない。若い頃より少しだけお金の余裕ができたし、パパの残り時間はママや娘よりも少ないのだから、我慢大会のように並ばないお店に行きたいな。順番でいざこざの無い店に行きたいな。娘もいつかそういうお店に付き合ってくれるといいな。
 
日本橋に天丼の金子半之助という人気店がある。ここは、店の外に担当の若い人が出ていて人数と注文を聞きに来る。後から連れが来るからと言おうものなら即座に
「皆さんお揃いになってから最後尾にお並びください」
とピシッと言ってくれる。そんなお店なら誰かと話をしたり本を読んだりして少しくらい並んでもいいかなと思う。
***

この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。
「ライティング・ゼミ」のメンバーになり直近のイベントに参加していただけると、記事を寄稿していただき、WEB天狼院編集部のOKが出ればWEB天狼院の記事として掲載することができます。

http://tenro-in.com/zemi/57289

天狼院書店「東京天狼院」
〒171-0022 東京都豊島区南池袋3-24-16 2F
東京天狼院への行き方詳細はこちら

天狼院書店「福岡天狼院」
〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階

天狼院書店「京都天狼院」2017.1.27 OPEN
〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5

【天狼院書店へのお問い合わせ】

【天狼院公式Facebookページ】
天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。



2018-08-29 | Posted in メディアグランプリ, 記事

関連記事