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メディアグランプリ

個人種目『障害物リレー競争』


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:レント(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「いちについて、よーい__」
小学生、いや中学生か、いやいや高校生か。
いやどれでもなかった。
学生どころか大人も子供もおっちゃんおばちゃんも、男女バラバラの人達が5人。
白線に並んで合図を待っている。
「__ドン!」
スターターピストルが合図の音を鳴らす。
運動会でよく使われているあの合図を、昔の私はうるさいと嫌っていた。
 
 
バイトの面接で落ちてしまった帰り道。
他の面接結果の連絡を待ちながら知らない町を歩いていると、偶然通りかかった小学校で町内運動会が開かれていた。
なぜゴールデンウィークに運動会、とは思ったが町内ならそういうものなのだろう。
フェンスの向こうではすでに様々な種目が行われているらしく、町内それぞれの団体がわいわいと競い合っている。
 
不思議と、私はその運動会をフェンスをはさんで見たくなっていた。
私は現在、知らない町を歩いていたのだ。
私はついさっき、バイトの面接で落ちてしまったのだ。
私はこれから、次の面接結果を考えなくてはいけないのだ。
だというのに、私はこの瞬間から縁も所縁もないこの運動会を見続けたくなった。
 
真っ先に見えていたのは男女混合リレーだった。
 
背の小さい小学生や腹の大きい中年の男性。
ユニフォーム姿の女子高校生とジャージ姿の中年主婦。
そして私とそう変わらない若い男性の5人。
 
バラバラの五人が同じ合図で同じように走り出し、そして違うタイミングでバトンを次へと渡している。
 
 
「まるで人生だな……ん?」
ポツリと無意識に呟いた自分の発言に疑問を持つ。
たしかに、誰だって最初は同じ方法で生まれ同じように息をして、そして違うタイミングで一生を終える。
「……」
今の気分がナイーヴだからといって、リレーを見ただけでなんとネガティブな。
こんな事を考えるためだけに、この運動会を見ているのではないかと思うとぞっとする。
 
 
『次の種目は、毎年恒例の障害物リレー競争です。今年はどんな障害物があるのか、楽しんでいきましょう』
ぞっとして帰ろうとした私の耳に、アナウンスの声が入ってきた。
「これぐらいは見てみるかな」
また人生を連想するかもしれないが、少しぐらいは見てもいいだろう。
 
 
用意された障害物に特に変わった物は無かった。
体育倉庫でよく見た平均台。
跳ぶのが苦手だった跳び箱。
這っている時に足が絡みそうな縄潜り。
思ったより手間取りそうなダンボール潜り。
下半身を麻の袋に入れ跳んで移動する、今にも転びそうな袋跳び。
そして最後は5メートルもない長さを走る。
 
 
これらの障害物を人生に置き換えることにわけはなかった。
思ったよりも不安定で見ているよりも難しくて。
時折低い段差でも壁のように感じてとべなくて。
這いつくばって抜け出そうとしてもなにかが足に絡まって。
自分の大きさを間違えてしまい潜るのも戻るのもできなくて。
袋に入って不自由になり中々動けず転び続けて。
そして最後はなんの変哲もない短い長さ。
 
全て、誰かと比べられてしまう。
自分の分が終われば次は別の人が同じことをする。
人生はまさしく障害物リレー競争だ。
 
しかし私は、そんなリレーを見たいだけなのだろうか?
 
そんなことを考えている間にリレーは始まっていた。
我に返って走者を見ると、すでに全チームがバトンを何人か繋いだ後だった。
平均台で片足を着いたり、跳び箱に乗っかったりと、緩やかに人々が走っている。
だいたい私の予想通りだった。
 
予想通りだったのだが、予想外の事が起こった。
 
 
バトンを受け取った走者の1人が、小学校中学年ぐらいの少年だったのだが。
「いやだ! とべるまでとぶ!」
跳び箱を跳び損ねた時に何度もやり直していたのだ。
 
これは競争だ、個人種目ではない。
次の走者がバトンを受け取りに来たが渡さず、親が説得しに行っても聞かずに意味がない。
 
そのまま跳び箱という壁をなんとか乗り越え、足に縄が絡んでも這って抜け出して。
小ささを活かしてスルリと潜り、不自由で転んでもまたとび始めた。
 
いつしか止める大人はいなくなり、ざわついていたギャラリー達の声が声援に変わっていった。
普通のはずだった5メートルは、少年の花道へと自然に変わっていた。
 
 
一体何が少年をそこまでさせるのだろう。
好きな女の子が見ているのか。
友人と勝負しているのか。
親に褒められたいのか。
 
いや、これは意地だ。
周りと比べようがなく誰かに渡すこともできない意地だ。
あの少年は、自分と競い争う意地で走っていたのだ。
 
 
「次はもっと早くバトンをわたせるようにしたい!」
歯を食いしばって走り抜けた少年は、周りから称賛されながらも周りへ宣言した。
少年は今、次の自分へとバトンを渡したのだ。
 
 
 
「そうなのか。俺はこういうのが見たかったのか」
無意識に拍手しながら私はポツリと呟いた。
私は自分で自分を比べて自分と競い、自分自身に次の自分も同じかそれ以上に頑張るとバトンを渡す人が見たかったのだ。
個人種目の障害物リレー競争が見たかったのだ。
 
 
 
不意に携帯が鳴り、学校のフェンスから離れて電話に出る。
電話の内容は、連絡を待っていたバイトの面接結果だった。
帰路を進みつつ話を聞いていく。
 
 
 
スターターピストルの音がもう遠い。
「はい……本当ですか!? ありがとうございます!」
今は嫌いじゃない音と共に、また何かが始まり出した。
***

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2018-08-29 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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