メディアグランプリ

商売は苦しいほど面白い


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記事:高木幸久(ライティング・ゼミ日曜コース)

 
 
レストランは人形町1丁目にある。
今の店をオープンしてからすでに14年になる。以前は通りを挟んで反対側の2丁目で17年、またその前は、同じ1丁目で11年と、延べ42年もなぜか人形町で開業している。
 
こんなに長く続いていても安泰の日々はない。借金を1億円したこともある。金利だけで毎月100万円を6か月払い続けていたことも、一緒に働く妻が、育児ノーローゼになり、
マンションの10階から飛び降りそうになったのを見つけ、一緒に泣いたこともあった。その度にたくさんの人に助けられて今がある。もしあなたが飲食店を出そうと考えているのなら、これからの話が、きっと生き残るためのヒントになると思う。
 
今から14年前の11月、忘れもしないボジョレー・ヌーボー解禁の木曜日、その日が記念すべきフレンチ・レストランの開店日。店は招待客でごった返し、シェフはスタッフにはっぱを掛け、懸命に料理を作り続ける。ホールのスタッフは、落ち着いた表情をしていても、オープニングとなればとにかく緊張する。例えベテランであっても同じである。
それでも何とか「美味しかったよ!」の声とともに、無事、最後のお客様もお見送りすると、どっと疲れが出て、片付けもそこそこに、座り込んでしまうスタッフもいる。
 
オープニングウィークが終われば、通常のランチやディナーが始まる。最初はリーズナブルなフレンチ・レストランのもの珍しさも手伝い、想像以上に賑わっていた。12月ともなれば忘年会の予約も入りスタッフもフル回転の忙しさ、私の妻も一緒によく働いてくれていた。
 
ところが、そんな忙しさも、年が明けるとパタッと客足は止まる。新年会の需要は昔ほど多くはない。それでもランチは相変わらず忙しいが、ディナーは閑散としている。お客様0ということも珍しくはなかった。仕込みをしてもお客様が来なければ、食材は残り、高級食材をランチに使うことも多くなる。今考えると、このころにランチを食べに来たお客様は、ラッキーだった。
材料費が40%に上るときもある。ハラハラ、ドキドキの落ち着かいない日々が続いていた。経費は掛かり、貯金通帳の数字は容赦なく減っていく。銀行借り入れが2000万円あり自宅マンションが担保になっている。保証人は妻の姉だった。いろいろ考えれば潰すわけにはいかない。
そのうち何かを察したのだろうか、それとも見切りを付けられたのだろうか、若いスタッフが、一人辞め二人辞め、最後はシェフの仕事を覚えたいと残った女の子一人だけだった。やがて、なぜこんな店をやったんだろう。やらなければよかったと後悔の日々が続く。シェフはなぜお客さんが来ないのだろうかと悩み、いら立ち、周囲に当たり散らす。それをなだめるのが私の仕事になっていった。
それでも毎日が息の詰まる日々の連続、そんな店の雰囲気はお客様にもわかってしまう。やがてランチの売り上げも横ばいになり、とうとう女の子も辞めてしまった。
そしてある日突然、シェフから、自分の料理ではだめだろうと辞職願を出されてしまう。あとは閉店をするしかないのかと、また自分を責める。死を考えたこともあった。自宅マンションの15階から飛び降りれば、バイクに乗って車とぶつかれば、ドアノブにベルトをひっかけ首に巻きばこれで死ねるかと。どうやら、うつ病のようだった。それを見かねた妻が、たまたま隣のビルに心療内科があると気づき、通うようにとすすめられ、薬を飲みながらなんとか営業は続けていた。
 
すでにフレンチのシェフは辞めていて、以前イタリアンバルをやっていた私が厨房に戻り、フレンチからイタリアン・レストランとして再出発した。
悩みながらもなんとか妻とアルバイト・スタッフ、そして私の娘や甥が手伝ってくれ営業を続けていくと、やがてあることに気が付いた。
昼間は近隣のサラリーマン、OLさんが利用してくれるが、夜のフリーのお客様は皆無であったが、唯一ぐるなびからのパーティー予約が入っていた。そうなんだ、私の店はオンラインショップなんだ、だからネット集客が大切なんだと。
その後、メルマガメールやはがきDMを定期的にだし、ぐるなびのサイトも毎日変化をつけていくと、面白いように予約が入り始めた。そのうち妻の姉の紹介で調理経験のある30歳の男の子が入ってくれた。バイク好きな彼とは話が合い、仕入れも一緒にバイクで行ったりもしていた。やがて二人でパーティー・メニューを考え、ワイン好きな私がセレクトした飲み放題ワインが評判を呼び売上げも上がってきた。
 
今思うと、飲食店の検索サイトがぐるなびだけの時代に、インターネットを使った集客に気が付き、時間とお金を使い、広告宣伝費を積極的に使っていったことが、成功の一つの要因だった。
時代は次から次へと変わっていく、今や一時代を築いたぐるなびも食べログに追い上げられて苦しんでいる。商売も人生もいい時ばかりではないし悪い時ばかりでもない。次に来るものは何だろう。それをつかむには何をすればよいのかを考えぬいた先に答えはある。目が離せない毎日にワクワクしている自分がいる。
商売は苦しいほど面白い!

 
 
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2018-08-29 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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