才能って?
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記事:Hawa (ライティング・ゼミ日曜コース)
みんながいそいそと家に帰る、夜10時の駅。路上には、弾き語りをするストリートミュージシャンの姿がある。
足を止めてその歌声に酔いしれる人もいなければ、ひっくり返された帽子にお金をそっと入れてあげる人もいない。かといって、文句を言う人もいない。隣のギターケースの中には、新品のCDがきれいに並んでいる。わたしも、歌なんて聴こえないかのように通り過ぎる。
でも、その人は歌う。誰にも評価されることはなさそうなのに、楽しそうに歌い続ける。
わたしにはわからなかった。誰にも求められていないのに、それで生活しているわけでもなさそうなのに、どうしてめげずに歌い続けられるのかが。
歌を歌って生活するなんて、一部の才能のある人がすることだ。凡人は、とっととあきらめて堅実に生きるべきだ。なのに、どうしてこんなところで歌うんだろう?
生まれてから20年。ピアノ、英会話、ダンス、体操、水泳、卓球、演劇、茶道……。親の意思や自分の興味のままに、いろんなことに手を出してきた。やり始めはどれも楽しかった。それなりに器用なわたしは、そこそこのレベルまでならなんとなくできてしまうのだ。
しかし、モノになったのは英会話ぐらいのものだ。あとは全部やめた。
もちろん、受験や進学を理由に、しかるべきタイミングで辞めたものもある。が、それ以上に大失敗に心が折れてしまったり、人になかなか認めてもらえなくてあきらめたりしたもののほうが多い。
例えば。
ピアノを弾くことは好きだった。ピアノの音も好きだった。楽しかった。でも、親や先生にはなかなか認めてもらえなくて、怒られてばっかりで。人前で演奏するのが怖かった。コンクールで大失敗したことが決定打となって辞めた。辞める瞬間は、好きなピアノを弾いていたいという気持ちよりも、もう、ピアノが原因で怒鳴られることはない、という安堵感のほうが強かった。好きだけど、向いてなかったんだ、と思うとあきらめもついた。
卓球も、それなりに強かった。チームの誰よりもまじめに練習して、寝ても覚めても卓球のことばかり考えていた。でも、中学3年の夏の大会でぼろ負けして、目標だった近畿大会出場がかなわなかったことから立ち直れなかった。以来ラケットを振っていない。負けるのが怖い。負けるのが怖ければ、やらなければいい。そう思った。
失敗するということは、才能がないということ。才能がなければ人から評価されない。そんなこと、やったって無意味だ。そう思って、失敗したことから逃げ、また、失敗しないように安全な選択をするようになった。
自分の実力に見合った道を選び、大きくこけないように生きられるようになること。それが人生における失敗から学ぶ意味だと思っていた。
高校受験も大学受験も高望みはしなかったし、授業もアルバイトもサークルも、できそうなことしかやってこなかった。
波乱万丈な人生を歩むドラマのヒロインが聞いたらさぞかし退屈するだろう。
でも、それでうまくいっていた。平凡だけど平和な人生。これでいいと思っていた。
どうしても参加したかったある会社のインターンの適性検査で、「人の評価ばかり気にして委縮し、自分を貫けない人」といわれて、不採用になるまでは。
人に評価されなかったり失敗して怒られたりすると、自分を否定されているように感じて、それから逃げ続けてきた私には、人並みにできることはあるけれど、「これが好き」と胸を張って言えるものはない。自分にとっては、好き嫌いよりも他人に認めてもらえるかどうかのほうが大事だから。
それに気づいたとき、とてもとてもショックだった。
自分の歌が通りすがりの人に雑音と同じように聞き流されてもなお、歌いつづけられる人は、決して才能がないわけではない。むしろ、才能あふれる人だ。
才能って、失敗しないことじゃない。
それが楽しくて楽しくてたまらなくて、それなしには生きていけないという執着と、どれだけ失敗しても、立ち直ってまたやってやろうと思う闘志だ。
わたしはずっと、そういう人をあきらめの悪い人だと思って軽蔑してきたが、そのあきらめの悪さこそが才能なのだ。
他人の評価を気にするあまり、自分を見失ってしまったわたしには、それがない。
一方で、人の評価や成功する、しないに関わらず、ただただ楽しそうに歌い続けるストリートミュージシャンには、才能がある。歌への執念という才能が。誰が何と言おうと、歌うことが好きで好きでたまらなくて、辞められないという才能が。好きなことに夢中になれる、そのパワーがすばらしい才能だ。
天才なんて、きっとそんなにない。転んでも転んでも立ち上がる、その執念深さが実を結んだ結果だ。
今度「これだ」と思うものを見つけたその時は、大けがしても投げ出さずに頑張ろうと思う。
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