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我が家の中心は血の繋がらない弟。そして彼はもういない。


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記事:Koko(ライティング・ゼミ平日コース)
 

あれから10年。
彼は新しい家族とうまくやっているだろうか。

 
 

私が15歳の時、父・母・姉・妹、そして私の5人家族に小さな暴れん坊がやってきた。とある理由のために、父はその子を我が家に向かい入れると決心したらしい。
 

私たちは小さな暴れん坊に“リク”という名前をつけた。大地のような、しっかりした子に育って欲しいと願って。娘に車のおもちゃを買って渡すほど男の子が欲しかった父は、我が家初の息子に本当に嬉そうだった。それは私たち女チームも一緒で、リクはあっという間に我が家のアイドルになった。
 

でも初の男の子とあって、どうやって育てればいいか家族全員困っていたのが正直なところ。なんと母は、泣きじゃくるリクにノイローゼ気味になってしまい、私たち家族に内緒で、元のお家に返せないだろうかと引き取り先に連絡していたらしい。今では笑える話だが、それほどまでにリクは暴れん坊でよく泣く子供だった。
 

大人になったリクは、俳優並みの演技をするようになり、よく私たち家族のケンカの仲裁役になった。大声を出してケンカし始めると、隣の部屋にあるピアノの下に背中を向けて座り込む。そしてちょっとだけこちらを向いて、悲しそうな顔をするのだ。
 

「ちょっと、リクがあんな顔してるからやめよ!」
 

ケンカ終了の合図は、いつもと言っていいほどこのセリフ。ケンカが終わったことが分かると、何もなかったようにフラッと戻ってきてソファの上にあがり、お尻を私たちの体にピッタリとくっつける。そして「ふぅ」っとため息をついて、満足そうに皆の顔を見て眠りにつくのだ。彼の演技は効果絶大だった。
 
 

リクは本当に愛されていた。
そして彼が来てからというもの、家族が集まる時間も増えていった。
 
 

リクが来て数年経って、私たち娘は進学のために実家を離れて行った。地方に出てからは、年に2回は実家に帰り、家族全員で集まるようにしていた。

 
 

「ただいま」
 

そう言って玄関に入ると、リクが大暴れしながら玄関にやってくる。“嬉しの舞”、私たちがそう名付けた彼の大暴れを見ると、いつも5人分の大笑いが家の中に響いた。
 

そんなことが5年ほど続いたある日、珍しく仕事中に母から電話があった。
 

「リクがね、、、、、、死んじゃった」
 

一瞬何を言ってるか分からなかった。時間が止まるってこういうことなのか?これから別の仕事に向かわなきゃいけないのに。「嘘でしょ?」とすら聞き返すことさえ出来なかった。
 

「仕事に穴を開けるわけにはいかない。とにかくいかなきゃ」
私は受け入れられない事実を無理やり受け入れ、「わかった。あとで連絡する」そう言って母の電話を切った。
 

仕事が終わった後、私は上司にこう告げた。
 

「我が家の犬が亡くなったので、実家に帰らせてください」
 

上司はびっくりしていたが、私の泣きそうな顔を見て休みをくれた。そして次の日の始発で私は実家に帰ったのである。

 
 

笑う人もいるだろう。ペットが死んだからって仕事を休んで実家に帰るなんてって。その気持ちは分からないでもない。でもリクは我が家にとって特別な存在だっだのだ。
 
 

私が高校1年生の頃、我が家は家族崩壊になりかけていた。4年ほど続いた父の心の病が治ったと思ったら、今度は姉が病気にかかり、姉は病気の苛立ちからか私に攻撃するようになった。妹はそんな私たちを冷ややかに見ていた。母はこんな状態の中明るく務めてくれていたが、もう限界を迎えていたのは誰もが分かりきっていた。
 

「こんな家族もう嫌だ」
 

昔の仲の良さはどこにもなかった。誰もがこの家族に諦め始めていた。
 

そんな時に来たのがリクである。
父は、その頃話題になっていた“動物療法”に賭けてみようと、犬を買うことにしたのである。
 

リクはその期待通り、我が家に笑顔をもたらし、バラバラだった私たち家族の絆を昔のように戻してくれたのである。リクと触れ合うことで姉の病気も回復に向かい、私に攻撃しなくなった。
 

「リクのおかげだね」
 

ずっと触れられなかった昔の話を、私たち家族は火葬場に向かう車の中で話していた。
 

「きっとリクは、我が家を助けに来てくれたんだ」
 

撫でるリクの体に大粒の涙がしみていき、それ以上は言葉にならなかった。
 

ペットとして飼い始めたはずなのに、気づけばリクは家族の中心、そして誰も修復出来なかった家族の絆をつなぎ直してくれた“最高にできた弟”になっていた。私たちは血も繋がっていなければ、カタチも違う生き物。でもそんなことは家族であることに何一つ関係なかった。
 
 

あれから10年。
お仏壇にはおじいちゃんやおばちゃんの写真と一緒にリクの写真も飾られている。
 

「今はどこの子になってるかな」
 

実家に帰ると必ずリクの話が出て、“嬉しの舞”などの話で盛り上がる。
我が家はリクが来た日から笑いが絶えていない。
 

しっかり者の弟は、10年経った今でもこうやって、私たち家族を見守ってくれているのだろうか。
 
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2018-09-12 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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