メディアグランプリ

ハウルの動かない城


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:相原成美(ライティング・ゼミ特講)

「フローリングの貼り方の本を持ってないか?」
夫に突然そう聞かれたのは去年のゴールデンウィークのこと。当時私は、賃貸住宅でも出来る現状復帰可能なリノベーションや、家具などのDIYにはまって、廉価で玄関ドアのイメージチェンジやリビングの腰壁もどきを作っており、そういう私を見て、何か知っているかもしれないと声をかけたようだ。
「そんなのないよ。賃貸なのに勝手にフローリング換えられないもの。どうして?」
「いや、家を買ったんだ」
「はあっ?」
なんでも田舎の山奥にある元農家の家が、山畑付きで破格値で売りに出されていて、以前から畑をやりたかったこと、そちらの方に多い仕事で遅くなった時にも泊まれること、実家のリフォームの間の荷物置き場にもなること等、色々便利だからと言うのがその理由で、前年の秋ごろから探していたら見つかったらしい。ただ、破格値の代わりに、床が抜けていたり畳や壁がぼろぼろだったりと、修理をしないと住めない状態らしく、それで私に助けを求めたようだ。
なんというタイミングだろう!
ちょうどその数日前に退職し、以前から興味のあった建築CADを習うべく、建築関係の職業訓練校に通う予定をしていた私。更には知人宅のペンキ塗りDIY講習会に行ったり、友人が購入したぼろぼろ古民家のセルフリノベーションを手伝いに行ったりという活動を始めたところだったのだ。
私たち夫婦はちょっと変わっているらしく、互いに何をするのも自由で詮索や束縛なし。従って夫が半年も前に家を買ったことも、私が仕事を辞めて、前述のような予定を立てていることも、当然互いに一切知らなかった。
一度見せてよと言う私を、ちょうどゴールデンウィークで休みだからとそのまま連れて行ってくれたので、ひととおり見て回ったあと、まずこの思いっきり昭和テイストのキッチンを古民家風にしたいと言った。夫の返事は「好きにしていいよ」
その一言で私は、まさしくおもちゃを与えられた子どものように、嬉々としてセルフリノベーションを始めたのだ。
訓練実習が始まると、その復習をほぼ同時進行できることになった私は、車で2時間もかかるその家に毎週末通った。互いに好き勝手やっていた夫とも時に共同で作業をした。また実習で仲良くなった同じ趣味を持つ人や元大工さんなどと、友人の古民家のリノベやゲストハウス作り、時間貸しスペース作り等に顔を出し、手伝いながら腕を磨いていったのだが、各現場で共通していたのは【居心地のいいコミュニティスペースになる場所】を作ることだった。
そんなことを1年間続けていくうちに、私もいつかぼろぼろ古民家を買って、気の合う仲間と自分たちの手でリノベーションを行い、学校社会からはみ出た子どもたちや、社会から置き去られた高齢者の人たちが集まって、互いに出来ることを提供しあって、それぞれ自分の役割を担えるようなコミュニティースペース兼ゲストハウスを運営するという夢を持つようになった。
何かを一緒に行うこと。同じ目的を持って作業をすること。図らずしてその様な環境に身をおくようになった私は、この夏金曜ロードショーでジブリ祭りを観ていて、あることに気づいた。
私が作りたい場所って、ハウルの動く城に似ていないか? と。
というのも、同じ目的に向かって作業を進める以上、時には話し合いが必要になるのだが、それぞれの性格はもちろん様々で、当然方向性の食い違いが発生することもある。自分の本音を理性で抑え込んで他の意見にあわせようとする人、本心や感情を出さず人任せな人、失敗を恐れずにまずやってみようとする人、石橋を叩いて渡る人、叩きすぎてなかなか渡れない人、自分の欲だけで動く人、失敗を失敗と捉えず笑い飛ばす人、落ち込む人等々、十人十色なのだから当たり前だ。けれどやっぱり同じところを目指して共に進んでいると、互いに影響しあって歩み寄るようになる。なにより、【古民家=自分たちの居心地のいい場所】は、ハウルやソフィーやカルシファーが、相手を思いやりながらも本心や感情を隠さず人間らしく生きられる場所、その心の動きによって城の中の様相やデザインが変わっていくハウルの城そのものじゃないかと。さすがに動きはしないけれどね。
クールで自分を出さなかったハウルが、最後は素直になってソフィーを守るために闘うようになったり、欲張り魔女が、取り上げて消そうとした城の心臓カルシファーを、ソフィーの頼みで返すようになったのと同じように、抑え込んだ感情を解き放って、大きな愛に包まれながら自由に生きる自分を手に入れられる場所。そんな【動かないけどハウルの城】みたいな場所を作れたらいいなあと思う。

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2018-09-26 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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