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メディアグランプリ

留学は、しなくてもいい時代


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

【10月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《平日コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:岸本高由(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
「では、日本語で同じスピーチをします!」
 
舞台の上の小学校6年生の彼が、そう流暢な日本語でいったとき、ぼくは腰を抜かして泣きそうになった。
 
 
先週のことだったか、娘が通っている英語教室の発表会というのが駅前のホールを借り切って行われた。同じ教室に通う50人ぐらいの子どもたちが、保護者や同窓生を前に舞台に立ち、習熟レベル別に課題を英語で発表していく。単に自己紹介を英語でする、という初級からはじまって、『ふしぎの国のアリス』の一節や、国連で実際に行われたスピーチの一節など、だんだんと難しい課題に、年も性別もバラバラの子どもたちが壇上で発表をしていくという進行だった。
 
完全にカタカナ発音の子から、ジェスチャー混じりに演技力抜群の子まで、いろいろなタイプの子どもたちがいたが、みんな一生懸命に発表をするので、ずいぶんと引き込まれて鑑賞させてもらった。こういった類の発表会でありがちな、自分のところの出番が済んだらダレる、というような雰囲気は全然なく、みんな我が子の発表が終わったあとも、一生懸命に最後まで、じっと舞台を見つめていたように思う。
 
全ての課題発表が終わったところで、特別ゲストということで呼ばれたのが、彼だった。その英語教室で使われている教材は全てクリアして、もう卒業したのだが、目下勉強中の後輩たちに、自身の経験や、思いを伝える、というフリースピーチを、もちろん英語でするという。
 
身長や、見た目はごく一般的な小学6年生だ。白シャツにベストを着て、少し緊張しているようだが、壇上に上がり、落ち着いて舞台中央のマイクの前までやってきたときには、もうリラックスしたのか、客席の方をみて少し微笑んだ。
 
ゆっくりと、誰にでもわかる、簡単な英語を使って、でも、しっかりと思いのこもったメッセージを、完璧に誰にでもわかる発音で話し始めた。さっき誰かが暗唱していた、国連の誰かのスピーチのような借り物感がまったくない。演技しているわけではない、自分の言葉だからこそ、ぐいぐい伝わってくる。幼さもまだ残るその表情の向こう側に、揺るぎない自我を備えつつ。
 
パーフェクトな英語で、パーフェクトに行われたスピーチの最後で、彼は少し息を整えると、言ったのだ。
 
「日本語で、同じスピーチをしますね……」
 
と、いま話した英語の内容を、これまた惚れ惚れするくらいの見事な日本語訳で、今度は語り始めた。度肝を抜かれるとはこのことだ。さっきまで英語しか話していなかった、同じ男の子が流暢な日本語を話しだしたので心の底からびっくりした。ちょっと考えれば当たり前なのだけど、それほどまでに自然な英語だったということ。あと、スピーチの内容自体、とてもおもしろくて引き込まれていたので、ふと我に返らされたというのもある。が、とにかく、腰が抜けるほどびっくりした。
 
 
スピーチの中でいちばん面白かったのは、彼が英語を伸ばそうと思った動機についての部分だ。
 
「マインクラフトの英語サーバで、もっと遊びたかったから」というのが彼の動機だった。
 
Minecraft(マインクラフト。略してマイクラとも呼ばれている)というオンラインゲームをご存知だろうか? 2011年に出たゲームなのだが、2018年の時点で世界中で1億5千万人近いプレイヤーがいる。プレステのようなゲーム専用機でも、パソコンでも遊べる。3D空間が広がる画面内で、プレイヤーはレゴのようなブロックを組み合わせて、好きなように何でも作れる。家を作ったり、街を作ったり、工夫次第で自動ドアやエレベータなど、複雑なものが作れるので、自分の作った作品をひとに見せたり、工夫した仕掛けを遊んでもらったりと、なにか作るのが好きな子にとっては、無限に楽しいゲームだとも言える。
 
だから世界中でハマっているプレイヤーがたくさんいる。オンラインで複数のプレイヤーが同時に同じ世界(サーバ)につながることができ、同じサーバ上の他のプレイヤーと、音声チャットなども楽しめるので、まるでバーチャル空間に、ものづくりが好きな子どもたちが集まる砂場があって、毎日そこでみんなが一緒に何かを作って遊んでいるようなイメージだ。
 
彼はマインクラフトが大好きで、いくつものサーバに顔をだしていたらしい。サーバというのは世界中にいくつも立ち上がっていて、自分で好きな場所を選んで参加できる。彼は最初日本語のサーバで遊んでいたらしいのだが、ある日、英語のサーバにアクセスしてみると、そこの面白さがものすごかったというのだ。参加者の数も1000倍くらい多く、作られた世界も1000倍広かった。そこでは英語しか話されていないが、逆に英語さえ話せれば、実際世界中のどんな国のプレイヤーも等しく参加できるというその環境に心を打たれた彼は、そこでプレイするようになった。英語学習を始めた頃はYesとNoしか言えなかった彼が、このサーバで遊ぶうちに、もっと英語を使って色々なプレイヤーと一緒にチャットしながら遊びたい! と思うようになった、というのが彼の英語学習の動機だという。
 
そうこうするうちに、今では他のバイリンガルプレーヤーと共に、ゲーム内で使われる英語ドキュメントなどを、日本語に翻訳するボランティア活動にも参加している、というのだから、もう眩しすぎて目を開けていられないレベルだ。
 
彼はもちろん極端な例なのかもしれないけど、彼とマイクラの話を聞いていて、ふと思った。もはや、留学とかって必要ない時代になってきてるんじゃ? と。
 
 
経験のある方は思い出してみてほしい。異国の地を初めて訪れて、飛行機のタラップを降りた瞬間から感じる強烈な異国感を。話されている言葉がまるで理解できないなかで、感じる孤立感を。でもそんななか、互いに第二言語である英語を使って、意思疎通ができた瞬間の喜び。全く違う文化や国を背景に育ってきた他人と、たどたどしくもコミュニケーションを続けていく中で見えてくる、違いと類似性を。そして、そうやってそんな誰かとつながっていく喜びを。ぼく自身も身に覚えがあるし、同じ話は色んな人から聞いた。
 
だけど、このマイクラの小学6年生にとっては、英語サーバで、英語のボイスチャットで海外プレイヤーと一緒になって遊んだりボランティア活動をしたりすることを通じて、こういう感覚を全部体験しているんじゃないか? つまり、彼にとっては僕たちが留学や海外生活をする中で経験することと、マイクラ英語サーバでの体験は、同じことなんじゃないか?
 
そう、あたらしい「教室」は、わざわざ海外にいかなくても、画面の向こうに、既にあるのかもしれないのだ。いや、すでにそういう時代になっている、ということだ。
 
ネットでつながってから、ぼくたちが生きる世界の範囲は広くなり、多層化した。そんな世界の中で生きていく、ひとつのやり方をぼくはマイクラの小学6年生から学んでいる。
語学留学するのに飛行機にのるのも、光ファイバーでつながるのも、別に区別はない。ただ、英語を使う、楽しい環境に自分をおけばいいのだ、と思う。
 
 
<終わり>
***

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2018-09-26 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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