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猫背の女が唯一無二になった日


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記事:Yamashita Naoko(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
「私も小さい前ならいしたいな」
 
全校朝会で体育館に集められる時、私はいつも1番後ろから皆を見渡していた。
隣にいた男の子はほとんど私と変わらない、いやむしろ小さい子達ばかり。当時小学校6年生の私は、学校の中でもトップ5には入る大女だった。
 
「きょじんがきたぞ〜!」
 
クラスの男子からはいつもこうやってからかわれた。そんな男子どもを、男勝りの私はいつも返り討ちの刑にしてやった。
 
「やーい、ちびすけ! 悔しかったら私の身長を超えてみな!」
 
腰に手を当てて仁王立ちする私に、男子は大笑い。
小学生の頃は、まだ自分の身長のことなんてそんなに気にしていなかったから、笑われても何とも思っていなかった。男子は身長が伸びるのが遅いって聞いてたし、自分は人より早く成長してしまったんだと思っていた。
 
しかし中学1年生になった頃、私は人生2回目の膝がなる音を聞いた。止まるだろうと思っていた私の身長は、二度目の成長痛を迎えてしまったのだ。
 
その時、1年間に11cmも伸びた過去が頭を過ぎった。
 
当時160cmくらいあった私は、変わらず小さく前ならいは出来ず、整列する時は1番後ろ。巨人とは言われなくなったが、周りの男子は相変わらず小さいまま。先生たちからは、吹奏楽部なのにバスケ部とかバレー部の部員に間違われたりと、身長が大きいことに正直うんざりしていた。私は痛みのある膝を抑えつつ、ため息をついた。
 
当時私には好きな人がいた。彼は、小さい前ならいから数えた方が早いくらい小さい男の子で、私と彼の身長差は10cmくらいはあった。実は身長がいらない1番の理由はこれだった。
 
「これじゃ、嫌われちゃう」
恋心を持つようになったちょっとおませな私は、遠くにいる彼の後ろ姿を見ながらそう思っていた。
 
男勝りのクセに好きな男子には気持ち悪いほど乙女だった私は、好きと伝えることが出来ないまま、ただ同じ教室の仲間として接していた。
 
そんなある日、友人情報によって彼の好きな女の子が判明。その女の子は小柄で可愛らしく、私とは正反対だった。
 
「こんな身長いらない」
そんな風に自分の身長を責め始めたのは、その頃からだっただろう。
 
 
「なおちゃん、背中丸まってるよ!」
久しぶりにあった母は、何のお構いもなく言って欲しくない言葉を私に投げかけた。私の長身に対するコンプレックスは、本当に猫のように丸まった背中によく現れていた。社会人になった私の身長は172cmにもなっていた。
 
女の子らしくなりたい。
体を切るわけにはいかないのなら、小さく見せるしかない。私の選択肢はそれしかなかったのだ。女性らしいハイヒールも履きたかったが、鏡の前で履いてみるだけで決して買うことはなかった。
 
 
そんな猫背の私にある転機が訪れたのは2年後のこと。それは、海外留学に行っていた友人に再会することで訪れた。
 
「お前の身長なんて海外行ったら小さい方だぞ。日本人で長身なんてカッコイイじゃん!」
 
なんでも相談してきた友人に、自分の身長の話をしたらこう返って来た。「からかってるのか?」と戦闘体制に入ったが、彼は真剣にこう言って続けた。
 
「あのな、生まれ持ったものは自分だけの個性なんだから堂々としてればいいんだよ。身長高いのに、お前そんなに猫背だから逆に格好悪いんだぞ」
 
彼曰く、海外でいろんな人種に出会って、自分の個性とは何なのか考えさせられたらしい。その真剣にアドバイスしてくれた言葉が何となく私の心に刺さり、猫背を直してみようと、その日から背筋を伸ばしてみることにした。
 
 
強制し始めて半年くらい経ったある日、当時レストランで働いていた私にお客さんがこう言って来た。
 
「あなた姿勢も良いし、背が高くて素敵ね!」
 
そのお客さんに、私は満面の笑みでこう答えた。
 
「ありがとうございます! どこにいても目立つんですよ、私(笑)」
 
その頃の私は丸まった猫背から完全に卒業し、自分の長身を会話のネタにしていた。
 
不思議なことに猫背を直し始めたら、自分の身長を褒めてくれる人が増えていった。最初の頃は素直に喜べなかったが、いろんな人が自分の身長を羨ましがってくれることにやっと自信を持てるようになった。
 
 
私は友人が言った言葉を思い出していた。
 
「自分だけの個性なんだから堂々としてればいい」
 
本当にそうだ。
背すぎを伸ばして、ある種吹っ切れてたとき、私のコンプレックスは「個性」として周りの人に映り始めた。
 
その時、コンプレックスは個性であり、個性もまたコンプレックスだと言えるのではないかと思った。紙一重どころか2つは同じもので、ただ呼び名が違っただけなんだと気づいた。
 
そう考えると、コンプレックスは決して嫌なものではない。
むしろ自分の魅力を引き出してくれる素晴らしいものなのだから、思いっきり利用するべきなのだ。
 
誰もが唯一無二の存在。持っている全てが1人1人の個性なのだ。
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2018-10-03 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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