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中学生の彼氏は宇宙人より不思議だった


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:斎藤多紀(ライティング・ゼミ日曜コース)

 
 
「この映画のチケットあげるから、ひとりで行ってきて」
と言って、彼氏は私に映画のチケットを差し出した。私はそれを聞いて、わけがわからなかった。だって一応恋人同士なのだから、「映画のチケット買ったからふたりで行こう!」と誘うのが普通ではないだろうか。
 
中学2年生の時、私は同じクラスのI君と付き合っていた。I君は、成績はトップクラス、野球部に入っていて1年生の時から4番バッターでピッチャーだった。文武両道である。おまけに背が高くて、顔もよかった。有名人にたとえると、ダルビッシュ有といったら言い過ぎかもしれないが、その面影はあった。当然女子に人気があり、密かに憧れている女子は大勢いた。そんなI君が私のことを好きみたいだと、I君の友達から聞いた。しかも、できれば付き合いたいと言っているそうなのだ。こんないい話断る理由はない。私はI君の友達に、私も付き合いたいと伝えてと頼み、私たちは付き合うことになった。
 他の同級生のカップルは、学校から手をつないで帰ったり、どちらかの家で一緒に宿題をしたり、休みの日はデートをしたりと楽しい毎日を送っていた。しかし、私とI君は付き合っているのにも関わらず、特に何もしなかった。私は、I君が誘ってくれるのをじっと待っていたのだが、ろくに会話をすることもなく1ヵ月が過ぎ去ろうとしていた。私は何か嫌われるようなことをしたのだろうか。それともI君の気が変わり、やっぱりあんな女と付き合うのはやめようと思っているのだろうか。そんなことを悶々と考え続けていたある日、I君は映画のチケットを1枚私にくれてあんなことを言ったのだ。
 
「ひとりで行ってもつまらないから、一緒に行かない?」
と私は勇気を出して言ってみた。しかしI君の考えは変わらない。
「ひとりで行って楽しんできてよ」
そこまで言うなら仕方がないと、私はひとりで映画を観に行った。その映画は、『E・T』。宇宙人と少年の友情の物語。お互いの指と指をくっつけて、心を通わせた少年と宇宙人のように、私とI君の心と心も通い合う日がいつか来るのだろうかと、切なく映画を観た。
 映画の感想をI君に伝えてからも、私たちはあいかわらず特別なことは何もなかった。そんな私たちを、I君の友達が見るに見かねて、I君にこんな忠告をしてくれた。
「このまま何もしないでいたら、Tちゃん(私のこと)の気持ちは離れていっちゃうよ。それでいいの?」
 その言葉が効いたのか、ほどなくI君は、
「今日、家まで送るから一緒に帰ろう」
と誘ってくれた。それは、2月の大雪が降った翌日。私たちが付き合い始めてから3ヵ月が経った頃だった。放課後、私たちは校門を出ると、黙々と帰り道を歩いた。何を話すでもなく、手をつなぐでもなく、足の速いI君の後ろを私が必死についていった。途中で私は雪ですべって転んでしまった。その時、I君は私のほうを振り向き、手を差し出してくれた。I君の手につかまり、私は起き上がった。初めて、手と手が触れた瞬間だった。しかし、その後も会話は弾まず、黙ったまま家に到着し、「じゃあね」と軽く手を振ってその日は別れた。手と手が触れても、少年とE・Tのように心が通うわけではなく、それから数回学校から一緒に帰ったが、距離が縮まないまま1年が過ぎた。
 I君のそっけない態度に嫌気がさし、結局私から別れを切り出した。中学3年の夏。I君は私からの別れ話に、たった一言「わかった」と言い、あっけなく交際は終わった。交際というにはあまりにもお粗末な付き合いだったので、悲しいとも思えなかった。ただ、I君がいったいどういう気持ちで私と付き合おうと思ったのか、本当に私のことが好きだったのか、それだけでも最後に知りたかったなと悔しい気持ちになったのだけ覚えている。私とI君は別々の高校へ進学し、それっきりになった。
 
 それから4年が経ち、なんと私とI君は偶然再会した。場所は予備校。2人とも大学受験に失敗して浪人することになったのだ。
「久しぶり。お互い浪人生だね。がんばろう」
とI君から声をかけてくれた。中学生の時はあんなに無口だったのに、予備校生になったI君はとてもおしゃべりだった。私によく話しかけてくれて、参考書の貸し借りをしたり、一緒に自習室で勉強をした。そして浪人生のくせに、展望台に夜景を見に行ったり、映画を観たりとデートまでする仲になった。そんな浮ついた浪人生活をおくったせいか、私もI君も第一志望の大学には合格できなかった。けれど、すべり止めの大学にどうにか入ることができた。正直なところ、私はI君から「もう一度付き合おう」と言われるのをかなり期待していた。しかし、実はI君には大学に現役合格した彼女がいて、ずっと遠距離恋愛をしていたのだ。I君本人からそう聞いたときは、ショックを隠せなかった。
 結局、私は同じ人に2度失恋をしたのだ。

 
 
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2018-10-03 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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