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一重まぶたと生きて行く


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記事:江口雅枝(ライティング・ゼミ日曜コース)

 
 
「一重まぶたって、人類の進化した形なんだって!」
 
とあるテレビ番組を見た二重まぶたの夫が、一重まぶたの私にそう言った。
「それって、褒めてるの?」
心の中でつぶやく私。
 
なんでも、人類のほとんどが二重まぶたで、一重まぶたの人というのはモンゴルや中国、日本などごく一部の地域にのみ存在し、世界的にも数少ないそうだ。
 
人類の進化の過程で、氷河期を耐えるために、まぶたの脂肪を厚くして寒さから目を守る進化を遂げた形が、一重まぶたであるという説だ。
 
そんなに誇らしい人類の進化の形なのだとしたら、なぜ電車に乗るたびに目に入る美容クリニックの「二重埋没法29,800円〜」で、わざわざ二重にするのか!? 
 
長年、一重まぶたで生きてきた身からすると、日本は一重まぶたの女性が生きにくい国だと思う。電車の広告も、美容雑誌のメイク特集も、二重であることが当然の美しさであることを前提に発信している。目が大きいこと、ぱっちりしていること、美しさの基準として目の存在感がものすごく大きい。自分で二重を作る「アイプチ」がドラッグストアで気軽に買えたり、美容クリニックでの二重埋没法は、美容整形の定番中の定番だ。メイク特集も、必ずと言っていいほど、ぱっちり二重のモデルさん。たまに「一重美人の有名人」などの特集が組まれていても、そのほとんどが「奥二重」で、完全な一重ではないことが多い。
 
 
一重の人は劣等感を持っている前提で語られていることもよくあるパターン。
メイク動画は、一重をいかにして二重まぶた風に見せるか、が支持される。
「涼しげなアーモンドアイは、オリエンタルな雰囲気で外国人男性にも人気!」とか、やたらとアジアンビューティーを押してきて、外国人ウケする点を強調するケースも。いやいや、私は日本市場で必要とされたいんだよ! とツッコミを入れたくなる。
 
アジア人で一重のスーパーモデルにインタビューした雑誌記事で「まぶたの面積が広いから、アートなメイクが映えるって、喜ばれてます」みたいな内容が書かれていて、一般人には全く参考にならないアートな一重メイクが紹介されていたりもしていた。
 
 
一重まぶたに、赤みのあるアイシャドーを使うと、泣きはらした目のようにはれぼったくなり、青みのあるアイシャドーを使った場合、一歩間違えると「殴られたの?」とアザができたような印象になりかねない。
 
少しでも目をぱっちり大きく見せようと、まつ毛エクステをつけると、くるんとカールしたマツエクが不自然に目立ち、とってつけた感が出てしまう。
 
 
江戸時代に流行した「浮世絵」を見ると、美人画の女性はみな切れ長の一重で、今のような美人の基準とは異なっていたのだと思う。江戸時代だったら、私は超絶美人だったのかもしれない! そんなひねくれた思いを抱きつつ、浮世絵の世界がそのまま現代に現れたような、歌舞伎の舞台を見る機会があった。
 
人間国宝でもある歌舞伎女形の、坂東玉三郎さんの舞台。しなやかな身のこなしと、よく通る艶っぽい声、色気がこぼれおちそうな指先の表情、夢のような美しさに見入っていた。そして、なによりも印象的だったのが、化粧だ。
男性が演じる女形。むしろ女性よりも女性らしい女形。その化粧は、白い肌と紅をさした上品な口元はもちろんのこと、目尻にもほんのり紅色をさしていて、それが伏し目がちな表情と相まって、実に色っぽく美しかった。
 
どんな美容雑誌のメイク特集を見ても、ぱっちり二重に生まれなかった自分には似合わないメイクばかりで、だからと言って二重に整形する気持ちもなく、デパートの化粧品売り場でアドバイスを受ける勇気もなく、でもやっぱりできることなら自分らしい美しいメイクができないものかと、悩んでいた。
 
そんな時に出会った歌舞伎の女形の色っぽい化粧は、一重メイクに大きなヒントを与えてくれた。アイシャドーをのせても、分厚いまぶたで隠れてしまう部分を無理に彩るのではなく、ほんのり目尻側に陰影をつくるようにして、肌なじみの良い色のアイシャドーをのせることで、目元に奥行きが出るのだ。
平べったい印象になりがちな一重の顔立ちに、自然な奥行きを出す。そして、大切なのは「表情」だ。
 
 
坂東玉三郎さんの歌舞伎の舞台も、秘めやかな中に喜怒哀楽の豊かさがあって、目の表情ひとつで様々な感情を表していた。
 
コンプレックスというよりも、どうやったら一重の自分の目を好きになれるだろうかと考え続けていて、たどり着いたのは「表情美人になろう」ということ。思いっきり笑うと目が線のように細くなったりするけれど、口角を上げて、いい顔をして生きていこうと思った。
 
 
そんな影の努力を知ってか知らずしてか、一重まぶた人類進化説を教えてくれた夫。
きっと、褒め言葉だったに違いない。

 
 
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2018-10-03 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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