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「無茶する次長」についていってみた


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:Misaki(ライティング・ゼミ 日曜コース)

 
 
「これ、今から塗るんですか!?」
 
愕然とした。深夜2時、2月の寒空の下で私は先輩と顔を見合わせた。
積み上げられた木箱20個ほどを、これからペンキで塗るから手伝ってくれと、上司から呼ばれたのだった。
 
とある展示会の設営で、私は会社の上司と先輩とともに展示会会場へ来ていた。
設営は夜中から始まることになっていた。
 
K次長は、私と先輩の上司だ。
周りからは「無茶する次長」と呼ばれることで有名な人だった。
 
深夜12時に設営が始まった。
スタートこそ順調に見えたが、2時をまわった頃、無茶次長から先輩へ電話が入る。
 
「ちょっと会場の外まで来てくれない?」
 
会場の出入り口を出てすぐのところに、屋根付きの駐車場があり、先輩とそこへ向かった。
外に出ると、冷たい風が吹き抜けて、体が震えた。
呼ばれた場所まで行くと、青いビニールシートの上に木箱が積み重なっているのが見えた。
 
「この箱をこれから塗るから手伝ってほしいんだけど」
 
20箱ほど重ねられた木の空き箱を、アンティークっぽいオシャレな感じに塗り替えたいらしい。
 
「これで塗ります!」
 
ペンキブラシと、塗料の付着を避けるために靴のカバーが渡された。
夜中の2時、真冬の空の下、作業が始まった。
 
私は眠気と戦いながら、口数少なく、黙々と塗っていった。
寒さのせいで顔の感覚がなくなっていく。
はじめこそ、まじかよ……と思ったけれど、塗り始めてみると、案外面白い。
高校生の頃の文化祭の準備のようだな~とぼんやり考える。
 
遅くまで残って、みんなで準備をしてたっけ。
人となにかを作るワクワク感を思い出す。
 
 
気が付いたら1時間ほど経っていた。
積み重なっていた箱は、私が作業していた分でラストになっていた。
 
「終わりました!」
私は、先輩と顔を見合わせて、どちらからともなく笑い出した。
 
「意外といいじゃんね」
 
「いいですよね」
 
次長も満足そうだ。
私もなんだかホッとした……のも束の間だった。
 
 
「そしたら、次はツリーを組み立てます」
 
???
木箱の次は、ツリー? この時期に?
 
 
話を聞くと、展示会会場内の装飾として、雪山をイメージさせるコーナーを作るということだった。
木箱の次は、4mくらいありそうな大きなクリスマスツリーを組み立てていく。
仕上げに、雪に見立てた綿を散らしていく。
 
 
「お、終わった……」
 
ツリー組み立てのあとは、進行途中だった設営準備に取り掛かった。
一段落ついた頃、時刻は朝5時を回っていた。
 
「さて、一旦ホテルに戻りますか」
 
次長と、先輩と再度合流して、会場近くのホテルへ向かう。
外へ出ると、空は白んでいて、朝日が昇りだしていた。
数時間前まで、木箱を塗ってツリーを組み立てていたのが随分昔のことのようだ。
 
 
そのあと、ホテルで小休憩を挟んでから、設営2日目の作業が始まった。
 
「おはようございます、Kさん! おお、いいじゃないですか!」
 
ツリーが飾られたコーナーを見て、今回の展示会の主催者であるAさんが、次長(=Kさん)に声をかけた。
 
私は挨拶を交わして、次長の後ろで話に耳を傾ける。
二人は、和やかに話を進める。
 
 
無茶次長は、実は会社内でも、一番仕事の受注件数が高いと聞いていた。
私は、別の課に所属していたが、今回お声がかかり、一緒に仕事をさせてもらっていた。
 
大変失礼ながら、最初の印象は「なんか適当な人だな……大丈夫かな……」だった。
 
でも、今回の展示会で同行して気が付いたことがある。
それは、次長の無茶な行動は「お客さんの要望を叶えるため」のものだということだ。
「できることはなんでもやる」精神を持っているようだった。
チャレンジャーなことも沢山あって、そんなの普通はやらないんじゃ……と思うことも、この次長はとりあえずやり始める。
 
そして、その姿勢がお客さんの信頼感につながっていることをとても感じた。
この人に任せれば、なんとかしてくれる、というお客さん安心感が、会話から伝わってくるのだった。
 
作業の真っただ中にいると、それもやるの!? というトンデモナイことが次々出てくる。
でも、それはすべて、お客さんの要望にできる限り応えようとしていたからだ。これが、次長の、仕事への「姿勢」なのだった。
 
 
そんなこんなで、バタバタと幕開けした展示会は、無事3日間の会期を終えた。
帰りの電車内で、今回の現場を振り返り、次長と話をする。
 
「仕事は、できるからその人のところに来るんだと思うんだ」
 
だから、今回あなたに頼んだんだよ、という言葉に私はハッとした。
その言葉が本当なのかどうか、疑う自分もいたけど、素直に受け取って考えてみた。
 
たしかに、今回も展示会の数か月前からの、諸準備でもどうなることかと思っていたけど、なんとか終えることができた。
その過程にいるときは、自信をなくしたり疲れることもあるが、乗り越えたときに自信と喜びに代わることを知った。お客さんが喜んでいる姿を見るのは嬉しかったし、誇らしくもあった。
これが「やりがい」というものなのだろうか、と次長の姿を見ながら考える。
 
なんかこれって、水泳みたいだなと思う。
学生の頃、水泳の授業はあまり好きではなかった。
泳ぎ始める前は、泳ぎ切れるかわからなくて不安だったし、泳いでいる間は息が苦しくて、はやく終わってほしいと思いながら必死で水を掻いてた。
でも、そうして泳ぎ切った後は、達成感があった。
徐々に泳げる距離や種目が増えていくことがいつしか楽しくなっていた。
仕事も水泳も、とりあえず飛び込んでみないことには、苦しさも楽しさもわからないままなんだなと思った。
 
「それじゃあ、また会社で。お疲れ様~」
 
これまで数々の現場をこなしてきた次長からは、疲れた様子は見えなかった。
次長の原動力は、プールから上がった後のようなあの「達成感」からきているのだろうか。
次の仕事も、また頑張ろう、と思った。
私は、展示会が終わった安堵と達成感のなか、一人帰路に着いた。

 
 
***

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2018-10-03 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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