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メディアグランプリ

「天狼院書店にあるはずのないメニュー」は、わたしを元気にさせた


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

【10月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《平日コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

 
記事:縞隈 千代子(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
ああ、お肉屋さんのコロッケがたべたいなぁ……。
久々に晴れた日の夕方。干した布団をしまうときの夕陽。
その色が、いい揚がり具合のコロッケの色に見えた。
さて、夕飯はコロッケにするか、と夕飯を決めて終了、という話ではない。スーパーで買っても、冷凍食品を買ってもこの「食べたいなぁ」という気持ちはおちつかせることはできない。
 
それは、キーワードが「お肉屋さん」だから。
 
わたしにとって「お肉屋さんのコロッケ」はスーパーで売っている「手作り風コロッケ」でも、ブランド肉を使った特製コロッケでもない。商店街にある、ふつうのお肉屋さんが作るコロッケ。このコロッケには幾度となく助けられた。
 
一番心に強く残っているのは、今は20年近く前のはなし。
わたしは大学帰りに姉の家にちょくちょく寄っていた。切迫早産のキケンがせまった姉の世話のために。
 
ほとんど寝たきりの生活を強いられていた姉は、わたしにしょっちゅう携帯メッセージを送ってきた。身動きが取れないイライラか、それとも妊娠による味覚の変化だろうか。グルメリクエストが半端なかった。
 
「今日は吉祥寺のモナカがいい」「下北沢のアンジェリカのパンがたべたい」「渋谷○○のデリ」といろいろなグルメリクエストを乱発。姉に命の危機がせまってる! という恐怖感は、普段末っ子で甘えん坊のわたしを「姉を助けなきゃ」モードに切り替えた。大学の授業も、アルバイトもあったのに、わたしは完全に姉専用のメイドとなっていた。
 
その「買ってきて」リクエスト回数が多かったのが、当時姉が住んでいた街のお肉屋さんのコロッケ。行列があるわけでもない普通のお肉屋さん。特別なブランド牛を使っていない。じゃがいもだって、もしかしたら近所のスーパーで売っていたものだったのかもしれない。
 
それでも、このお肉屋さんのコロッケがよかった。形や大きさが若干違うときもあったけれど、これを買って姉の家に行き、一緒にランチか夕飯を食べる。
 
結婚したての姉は、慣れない生活で寂しかったのかもしれない。
5人家族で過ごしていたのに、結婚した途端、ほとんど一人暮らし。
夫は深夜残業当たり前だったから。
 
一方の私も、大学に入りたて。勉強は面白いが、なんとなく周りの雰囲気に馴染めないなぁという気持ちがあった。
 
そんなときの「お肉屋さんのコロッケ」は、優しさに包まれている感じがあった。店頭で注文をすると、おじさんが目の前でコロッケの種にパンパンとパン粉をはたきつけ、そぅっと油の中に種を落とす。じゅわっという音が立つのを聞きながら、いまかいまかと待つ。
 
そして、おじさんの「おまたせー。 あがったよー。 おいしくたべてねー」という言葉とともに受け取るコロッケは、あたたかいというより熱い。
 
その熱さがうれしく、早く姉の家に行きたいと小走りでむかう。
 
眼の前で作ってくれるやさしさ、それを囲んで姉と話す日常。実家には姉がおらず、少しさびしさを感じていたわたしには、コロッケは「幸せを感じさせてくれる装置」だった。
 
それから時がたち。「お肉屋さんのコロッケを食べたい」と思う時は、「自分が不安になっているときだ」ということに気がついた。
 
あの頃からちょっとは強くなれたかな、進歩しているかなと確認するために、お肉屋さんのコロッケを食べ、「大丈夫、その頃よりは進んでいる」と確認できた。
 
でも、今はもうそのお肉屋さんはない。
かわりのお肉屋さんを探そうと思っても、まず街のお肉屋さんがない。
デパートやスーパーでは高級ブランド牛を使ったコロッケを売っているが、それではわたしの気持ちはしっくりこない。
残念だなぁ。わたしはずっと思っていた。
 
でも、わたしは出会ってしまった。コロッケがここにあった。
天狼院書店のライティング講座にあった。
え? ライティング講座でコロッケを売っていたっけ? 
いやいや。
店主の三浦さんや、添削をしてくれた川代さん、木村さんのこと、でもない。
 
それは、同時期にライティング講座をとっているみなさん。
もっというと、みなさんの提出課題が、わたしにとっての「お肉屋さんのコロッケ」。
 
自分のライティングに対する課題評価の「次の投稿をお待ちしております!(不合格のサイン)」の文字を見るたびに「なんでだめなんだろう」「どうして他の人は通るんだろう」と気になっていた。だから、合格する技を合格者から盗むために毎回ほぼ全員のライティングを読んだ。
 
でも、最後のほうになると、読むことが楽しくなっていた。技を盗むというより、いろんな方のこっそりファンになっていた。
だって、どれも「個性豊かなお肉屋さんのコロッケ」だから。
 
残念ながらわたしのコロッケはなんどか爆発し、店頭に並ぶこともできないことが多かった。でも同期の方々のコロッケは、ひとつひとつ形も味も違う。その違いを味わうのが楽しかった。
 
失礼な言い方かもしれないが、この講座をとっている方々は、今現在なにかすでに大成功をしている人は多くないと思っている。「今の自分を変えたい」「もっとよくしたい」という期待が、講座受講につながっているのではないかと。
 
その思いが種になったコロッケは、例えウェブサイトにのらなくても、わたしには味わい深く、心につきささった。書き手の持つ新鮮な食材とユニークな特産品で作られたコロッケは、どんな有名店のコロッケよりも価値があるものだったから。だから、わたしは毎回「課題提出者」というより、読む人になって、コロッケをほおばっていた。
 
でも、そんなコロッケをほおばることができる機会も、これで終了。
この機会を得られたことは、わたしにとってはとても大きかった。またふと辛くなった時、不安になったとき、ここに戻ってくれば元気になれるということがわかったから。
 
みなさん、ごちそうさまでした。
これからもおいしいコロッケを作り続けてください。
わたしも、わたしのコロッケをおいしい! と喜んでもらえるようにこれからも腕を磨きます。まずはパン粉を買いに行こうかな?
 
***

この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。
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2018-10-03 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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