タイムマシンが来た日
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記事:加藤 智康(ライティング・ゼミ木曜コース)
私の手には、タイムマシンがあった。
現代から、高校時代へタイプスリップしている。
突然のことだった。
最初はタイムマシンと気づかなかった。
なぜなら、それは茶色い正方形の形をした封筒だったからだ。
まさか、その中にタイムマシンがあるとはだれも考えない。
本当だろうか。夢のようだと思った。
茶色い形をしたタイムマシンは長い間、私を高校時代にタイムスリップさせていた。
それは、数分前のことだった。
「また?」
思わずつぶやいていた。先月も、卒業した高校から封書が届いていた。
先月の封筒は同窓会の案内だった。
一度地元を離れてしまったわたしは出席をためらっていた。
なぜなら、地元が嫌で都会に出ていったので、裏切り者のような感じがして同窓会への参加は気が引けていたからだった。
それに高校の記憶がほとんどない。参加しても盛り上がれないと思ったからだ。
高校時代は、父との仲も悪く、家を出て遠くに行きたかった。
なぜなら、夢を書いたり、漫画を描いたりしたノートを、わたしが留守の時に父が勝手に見たり、机をあさったることが続いていたからだ。
子供と所有物のように扱い、プライベートも何もなかった。
「勉強しないで、こんなことばかり書いてるんじゃない」
わたしにとって、とても大切なものが「こんなこと」と言われた。
失望しかなかった。
そのため、夢を誰にも語らず、自分の中にしまっておいた高校時代になった。
わたしも父親になった今は、少し父の気持ちがわかるところもある。
なぜなら、うちには母親がいない。小さいころに両親は離婚していたのだった。
祖父母と父とわたしで暮らしていた。
祖父母のことはすごく好きだった。優しかったし、わたしをかわいがってくれた。
でも、父は短気で怒りっぽくて、いらついた感情をわたしにぶつけ続けていた。
誰も父をとめられない。父の意見は絶対だった。
母親がいたら、もしかすると違う意見をいってくれたかもしれない。
でも、誰も父に意見してくれる人はいなかった。
もしかすると、父も子供を一人で育てる責任にストレスがあったのかもしれない。
ただ、当時のわたしは、そんなことはわからなかった。
救いはアニメだった。誰にも夢を言えない私は、アニメの中に夢を見ていた。
宇宙で戦ったり、遠い星に行ったり、過去に旅行したりする話が好きだった。
アニメの中にはわたしの夢があった。
高校時代の記憶がほとんどないわたしだが、アニメを見ていた記憶はある。
今でもシリーズで続いているアニメもあるので、新しい話が出た時は欠かさず見るようにしている。
なぜなら、そのアニメを見ると、高校時代の自分を思い出せて懐かしい気持ちになるからだ。
一種のタイムマシンでたまに高校時代には戻っていた。
そういえば、高校を卒業して2年経ったときの同窓会には参加した。
見事になんのエピソードも思い出せなかったため、まったく盛り上がれなかった。いたたまれない時間だった。その時がまたやってくるのかと思うと、やっぱり同窓会には参加したくないなと今でも思っている。
そんなわたしの手元に、2か月連続で高校同窓会から封筒がきた。
思わず、「またか!」と言わずにいられなかった。
茶色い封筒に〇〇高等学校同窓会 タイムカプセル委員会と書いてあった。
「どうせ同窓会の報告か。嫌みだな」
ひねくれた自分がいた。今でも現実から逃げているようだった。
高校時代を封印したくて、思い出すのも嫌なわたしがそこにいた。
しかし、なぜだかそのまま封筒を見ずにしまう気にはなれなかった。
タイムカプセルという文字が心を引き付けてやまない。
わたしは、封筒を開けた。
中にはさらに茶封筒とメモ用紙が入っていた。
そこには、70名の同期生が集まったことが書かれていた。
そして、茶封筒の中に、さらに紙があるようだった。
茶封筒にわたしの名前も書いてあり、中にピンクの小さな紙がはいっていた。
「28には、名の売れたゲームプログラマーになる。
変形する飛行機を試作する。
宇宙船の実用に向けて計画に入る」
「なんだよこれ?」
と、思わず声にだした。
色あせてないピンクの紙に、わけのわからない文章。
わたしは、気が付いた。
長い時間が流れたようだった。
「ごめん、おれ、どれも実現できてない。ごめん」
高校時代の記憶を封印していたが、思い出していた。
茶封筒のタイムマシンにのって、高校時代にタイムスリップしてきたように感じた。
涙がでた。
理解した。
過去の自分から、未来の自分にあてた手紙だったのだ。
過去の夢見ていた自分が、どれだけ宇宙にあこがれていたのか。
アニメの変形する飛行機とともに夢の世界を高速で飛んでいた。
あの時のことを思い出した。
「ごめん」
としか過去の自分に言うしかなかった。
同時に、吹っ切れた気持ちにもなった。
「おれ、高校時代の自分を忘れてた。この手紙で思い出したよ。ごめんな、違う大人になっちゃったよ。おまえの夢をかなえてないよ。でもな、それなりにがんばってるぞ、おれ。子供がいるんだぞ。信じられるか?」
わたしは、過去の自分に謝りながらも、これからの未来に向けて頑張ることを約束した。タイムマシンが来た日に、手に持ったそれを握りしめながら誓った。
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