メディアグランプリ

スポーツジムはまるで花火


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:古川 馨(ライティング・ゼミ平日コース)

財布の中からカードを1枚取り出した。普段から通っているスポーツジムの会員証だ。いや、普段から通っている……というのは少し正確ではない。なぜなら、ここに来るのは3ヶ月ぶりだからだ。僕にとってスポーツジム通いは、まるで花火のようだった。

ジムに通い始めたのは、10ヶ月ほど前。だから7ヶ月はちゃんと通っていたことになる。それが長いかといわれれば、たった7ヶ月と言えなくもない。今でこそ、サボリ魔と言われても仕方がない僕ではあるが、入会した当初は週4回で通っていた。そう、トレーニングに明け暮れていたのだ。汗だくになりながら、トレーニングマシーンで筋肉を鍛え、ロードランナーで走る。学生の時以来のプールで、必死にクロールで200m泳ぐ。そして、日々の体重と体脂肪の変化にウキウキしながら、プロテインを飲み続けたのだ。

が、しかしである。

それがどういうわけだろう。入会から10ヶ月以上がたった現在、そのトレーニングへの情熱は居酒屋のビールのようにキンキンに冷えてしまっていた。つまらないギャグを飛ばした後の女性陣の視線のように恐ろしく冷え切っているのだ。もう見る影もない。だからと言って退会する訳でもなく、毎月会費だけが口座から引き落とされている現状を今日まで放置していた。「忙しい」「今日は疲れているからまた今度にしよう」などという最もらしい言い訳を吐きながら、気が付いたら3ヶ月も時が過ぎてしまっていたというわけなのだ。まぁ、要するに飽きたのだった。

そもそもどうしてスポーツジムに通おうなどという気になったかといえば、とてもありきたりな理由からだ。ダイエットである。40代に差し掛かった肉体は、お世辞にもスマートとは言えず。トレーニングでも始めようかと思っていた矢先、新聞の折り込みでスポーツジムのチラシを見つけたのが、スポーツジムに入会するきっかけだった。

入会金無料、3ヶ月以上継続で1ヶ月無料、トレーニングプログラム参加でウィダーインゼリープレゼントなどなど。体型維持の悩みを抱えていた僕にとって、それはとてもタイムリーな話題であり、魅力的なオファーに見えた。会費は6,000円。決して高い金額とは思わないが、それでも新たに出費を増やすことに多少なりとも罪悪感のようなものを感じた。しかし、気持ちとしては、すでに入会したいモードに突入している。その証拠に僕の頭の中に浮かんでくるのは、「入ったらどんなメリットがあるのか」という、とてもポジティブな見解ばかりだった。

今入会すれば、1ヶ月分の会費は無料。3ヶ月以上の継続が必要とはいえ、好条件だ。そして、ジムにはお風呂がある。となると水道光熱費の節約にもなるんじゃないか。それに適度な運動で健康維持ができれば、病院にかかるリスクも減るだろう。しかも痩せて体型がスマートになれば、着れなくなった服だって捨てなくて済む。つまり新しい服を買う必要がなくなるというわけだ。これはとても経済的ではないだろうか。自分自身を納得させるための理由が次から次とあふれ出す。結局、というか案の定。翌日にはチラシを持って、そのスポーツジムへと向かっていたのだった。

入会してからは、一気にトレーニング熱が急上昇した。これまで見向きもしなかったトレーニングに関する情報が否応無しに入ってくる。意味もなくスポーツ用品店のトレーニングコーナーに立ち寄ってみたり、雑誌を購入することも多くなった。

もちろんのことだが、新品のスポーツウェアやトレーニングシューズも購入している。プールもあるので、水着と度付きの水中眼鏡も楽天でお買い上げだ。さらに運動の記録とダイエットの経過をチェックできる体組織計を兼ね備えたウェアラブル端末、インボディバンドもゲット済みだ。さらにそれだけでは飽き足らず、トレーニング後に摂取するプロテインも定期購入の準備も整えてあるという、もう準備万端、やる気満々とは、まさにこのことだった。

あとは理想的なボディーに向けてひたすらトレーニングあるのみ。「ダイエットしてスマートに、そしてマッスルボディを手に入れろ」暑苦しいくらいにトレーニングにかける情熱がメラメラと燃え上がっていたのだった。しかし、長くは続かなかった。それはまるで激しく火花を散らしていた花火が突然、終わりを告げるように。

財布の中からカードを1枚取り出した。スポーツジムの会員証だ。しばらく来ていなかったせいで足取りは少し重たい。なんとなく気まずからだ。ジムの扉を開けると、懐かしいような汗の香りがした。スタジオからはエアロビクスの音楽と掛け声が聞こえる。カウンターに向かうと「こんにちは」とスタッフの明るい声。その声に足取りが少し軽くなった。

スポーツジム通いは、まるで花火のようだ。激しく火花を散らしてきても、すぐに終わりがきてしまう。でも……。「もう少し通ってみるかな」まだ僕の花火には火種がくすぶっていたらしい。

何事もちょっとしたキッカケで再び動き出すことがあるようだ。「昔やめたイタリア語ももう一度始めてみようかな……」ロッカールームに向かいながら、他にもくすぶっている火種があることを感じてなんだか少し嬉しくなった。

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2018-10-17 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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