メディアグランプリ

猫の研究


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記事:前田尚良 (ライティング・ゼミ日曜コース)

 
 
 懺悔したいことがある。
昔飼っていた猫にだ。
実験材料に使ってしまった。
今で言えば完全に動物虐待である。
 
 あれは中学2年生の夏休みだった。
楽しい夏休みは後半を迎え、夏休みの宿題や課題をどうやって終わらせるかそろそろ考えなければならない時期がきた。
その中でやっかいなのが自由研究である。
ふと見ると私の家で当時飼っていたシャム猫が前足を胸の奥に折り畳み「香箱座り」をしているのが目についた。
「よし、これでいこ」
いたずら心と宿題をやらなければいけない義務感がミックスされた決断だった。
 
当初、一人でその「実験」を行う予定だったのだが、どう考えても段取り的にもう一人協力者がいる。
検討した時にその「実験」を回避することも考えられたがしかし、「やはり、これは外したくない」という感情が持ち上がってきた。
私は近所に住む同級生の友人A君に電話をかけた。
「ちょっとさあ、自由研究手伝って欲しいんだけど」
「えーなにそれ、どういうこと」A君はめんどくさそうにそう答えてきた。
「A君、自由研究の宿題やった?」
「やってないよ」
「じゃあさA君、僕の今からやる自由研究手伝ってくれたら共同研究ということでA君の名前書いて宿題提出するからさ」
この言葉でA君の態度はがらりと豹変した。
「ほんとか、じゃあ今からそっちいくわ」
この当時、私が通っていた中学校の自由研究は一人につき一作品ではなく共同研究という形で名前を載せることが許されていたのである。
 A君はすぐに私の家にやってきた。なんとジュースを数本おみやげとして持参してきた。
これはA君の母親の配慮であろう。
これには私の母も恐縮していた。
「いやー悪いわA君」
事情を知らない私の母は申し訳なさそうにそう答えた。
 
そして実験は決行された。
まずは一人では実験できない研究「猫は50メートルを何秒で走るか?」が実行された。
私の猫は家の外に出るのをすごく嫌がる習性があって何百メートルも家から離れた場所に連れていくと死にもの狂いで走って家に帰ろうとするのである。その習性を利用してタイムを計測する。
私は直線状の狭い道に50メートル離れた場所で猫を放した。
飛ぶような勢いで猫は50メートルを駆け抜けた。
待ち構えたA君はストップウォッチを押す。
「7秒8」A君は叫んだ。そしてA君はこれでお役御免である。
その後は私一人で実験が続く。
猫は三半規管が発達しており上空に放り投げても見事に立つ習性があるという。
やってみたら確かに立った。しかし勢いをつけすぎるとバランスを崩して着地に失敗した。
今思えばかわいそうなことをした。
次の実験は猫の瞳の研究だ。
猫の瞳は時間によって細くなったり夜は丸くなったりする。
これが光の加減によるものか実験してみた。
真昼間は細くなっているのを暗い納屋に閉じ込めてみたらどうなるかの実験だ。
時間が経つと細いのが多少丸く膨らんできた。
その間猫はギャーギャー鳴いていた。
今思えば申し訳ないことをした。
次の研究は猫の幅感覚の実験だ。
聞けば猫はひげによって通り抜ける幅を確認するという。
猫のひげにテープを貼って顔面にくっつけて狭いところを通り抜けれるか実験してみた。
テープを貼るといつもは通り抜けれる狭い隙間が通り抜けできなくなった。
猫には迷惑な話だ。
だいたいこのような実験で猫の自由研究は終了した。
そして夏休みが明けた。
 
 二学期が始まった頃、他の悪友たちが宿題について問いかけてきた。
「おい、やったか自由研究」
「やったよ、お前はやったのか?」と私は問い返した。
「やってねえよ、頼む俺の名前も共同で載せてくれ」
一人の悪友がそう懇願すると、それ以外の悪友が4人同じことを頼んできた。
「いいよ、しょうがねえな」
私は軽く承諾した。
かくしてその「猫の自由研究」は7人の共同研究に膨れ上がった。
 
宿題を提出し数か月経った頃。
理科の女教師が私に声をかけてきた。
「M君、あの猫の研究面白いから町の中学校が集まる展示会に出品したよ」
「え、まじですか」私は驚いてそう答えた。
そしてどうも優秀作品に選ばれたことも同時に私は聞かされた。
そしてなんと全校集会で優秀作品として檀上に上がり賞状が進呈されるということが決まった。
全校集会の始まる直前、周辺の悪友たちの会話が聞こえてきた。
「まじで、檀上で表彰されるのか?」
「名前だけだぞ、いいのか?」
全校集会が始まった、私と猫の50メートル走を手伝ったA君そして残りの悪友5人の名前が呼ばれ檀上で優秀賞として表彰状が校長の手から私に手渡された。
檀上から降りてからA君は残りの悪友にこう言っていた。
「ったく俺は一応手伝ったんだぞ、お前らなんにもやってねえくせに」
 
今となってはいい思い出だが、一番の功労者は私の猫であろう。
もう他界して何十年にもなる。今だに夢に出てくる。
「ああ霊でいいから会えないかな」と私は思う。
猫に表彰状をあげたい。

 
 
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2018-10-17 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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