メディアグランプリ

恐怖の健康診断と理想の自分


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:あかばね 笑助(ライティング・ゼミ日曜コース)

 
 
「血圧は上が180、下が85です。高いですねえ」
家庭用の血圧測定器では、いつも正常値なのに、
会社の健康診断で来た病院の測定は、看護師さんに毎回こう言われる。
 
ダメだ……。ヤッパリ、ダメだ……。
 
毎年来ている病院なのに、慣れない!
緊張が取れない!
頑張ってリラックスしようとするのだが、その頑張りも逆効果らしく、
緊張しっぱなしのようなのだ。
私の無意識は「病院はキケンでイッパイ」と判断しているのかもしれない。
何故か? 
私には思い当たる事があった。
それは子供の頃にした体験である。
 
友達が亡くなった。
小学校二年生の時、川で誤って流され、溺れて亡くなってしまったのだ。
お通夜の席で、彼の遺骸を見て、「何て人はモロイのか」と思った。
昨日まで元気で走り回っていたのに、今日はもう、亡くなって動かない。
明日死なない保障なんてない。
私は日常生活が、まるで壁の上をバランスを取りながら歩いてるような気がしてきた。
少しでも足を滑らせたら「死」が大きな口を開けて、そこに飲み込まれるような不安感を抱く小学生になってしまった。
 
特に病気に関して、当時、病魔に侵されながら、目標に向かって頑張る主人公のドラマを、よくテレビで放送していた。そんなドラマを観て私は、人生ガンバルゾー! ではなく、
「病気は怖い」と印象付けてしまった。
大抵、そのタイプのドラマでは、権威のありそうな医者が主人公の父親を呼んで、
「お嬢さんは白血病です。手の施しようがありません」と告知する。
私は、病院はまるで余命を宣告される場のように思い込んでしまったのだ。
 
それ以来、身体にチョットした症状が出る度に、自分はガン、白血病かもと不安に落ち込む日々を過ごすようになってしまった。
二十歳を越えた頃、溜まりに溜まった不安はパニック障害という形で噴出した。
電車に乗る度に呼吸が荒くなる。
電車の扉が閉まって、動き出すと、
「ここの空間から、今は抜け出せないのだ」
という考えで頭がイッパイになり、不安の闇が胸の中にモクモクと拡がって、気が付くと呼吸が荒くなっている。
仕方なく目的の駅の手前で降りては呼吸を整える、という事を繰り返していた。
同様の事が理容室や映画館の中でも起こった。
症状が治まるのに数年かかった。
治まった頃に出会った彼女が、私のアパートに転がり込んできた。
それまでアルバイトで生計を立てていた生活は、正社員になって彼女の分の生活費も稼がなくてはいけない生活になった。
 
私は会社員になった。
働くことに抵抗は無かったが、会社の掲示板に貼り出された紙を見て、呼吸が止まった。
 
「健康診断のお知らせ」
 
そこには私の名前と何日に病院へ行けばいいのか、書かれていた。
 
「ヤバイ……。大丈夫かな? オレ」
 
病院に入ったら検査が終わるまで出られないという閉塞感。
子供の頃に抱いた、病院は余命宣告されるかもしれない場所という恐怖の思い込み。
 
「二重の苦しみだ。絶対にパニックになる!」
 
社員はツライなと思った。
 
そして健康診断の当日。
9時からの検診なのに、朝6時くらいに病院に入って待合室で待つ事にした。
作戦として、その場の雰囲気に慣れれば気持ちが落ち着くと思い、実行したのだ。
でも、緊張が解かれることは無かった。
 
「フーハー、フーハー」
 
呼吸は荒いままだった。
しかし、そんな状態を看護師さんに見られでもしたら、
 
「先生! 急患です!」
 
とか、騒がれても大変なので、ひたすら我慢した。
結果、血圧は高いまま……。
ヘロヘロに疲れて、午後から出社した。
それが毎年のように続いた。
 
しかし、ある時、健康診断で血圧が正常値を示したことがあった。
看護師さんに血圧を測定してもらっている時、「ある事」をしたのだ。
それは何か?
 
弱音を吐いたのである。
 
毎年、こんな事でジタバタしている自分がホトホト嫌になり、つい看護師さんに、
「アー、モー嫌だ。トラウマがあって、ボク、病院ってダメなんですよー。早く帰りたーい」
大のおとなが、子供のようにイヤイヤしているのを看護師さんは見て、クスクス笑いながら言った。
 
「血圧は上が128、下が81。正常ですね!」
「へっ?」
 
血圧が正常になった。緊張も解けたようだ。
そうか! と思った。
過剰な緊張やパニックは、恐怖や悲しみに、フタをするように押さえつけるから延々と繰り返されるのだと。
苦しかったら「苦しい!」
悲しかったら「悲しい!!」
周りにもわかるように弱音を吐けばいいのだ。
みっともないかもしれないが、それが今の自分なのだ。
心の奥底にある、悲鳴にも似た、声なき声を表現すれば心はラクになる。
私は、その事に気が付いた。
これからも、きっと私は前向きに弱音を吐いていく。
いつか自然体の、どこにも力の入っていない、理想の自分になりたいから。

 
 
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2018-10-17 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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