休むことのすすめ
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:Hawa(ライティング・ゼミ 日曜コース)
「休学したい」
大学2年の夏休み前、わたしは両親にこう言った。当たり前のように、両親はそれに反対した。医学部と薬学部出身の両親曰く、資格も取らないような文系の大学なんぞは4年で卒業するべし。
両親を説得するために、いろんな理由をつけてみた。
留学するのにお金がいる、学校ではできないような経験を積みたい、自分の将来について考えたい……。
どれも事実ではあった。が、どれもいいわけでもあった。
正直な気持ちは、ただただ「休みたい」 だった。
わたしもこんな人になりたいけれど、どうやったらなれるのか全く分からない、そんな人たちに囲まれている、刺激の強い大学生活に、思いのほかわたしは疲れてしまったのだ。
疲れた、というよりも、そこにいることが恐怖になった、と言ってもいいかもしれない。
自分には、実はこのコミュニティで渡り合えるような能力も経験もない、と思い知らされてしまったから。授業中のディスカッションでは、それらしいことは言ってみるけれど、反論されたら言い返せない。自分の将来について熱く語る友人の話を聞いて、すごいなあと思いつつも自分の将来像なんてわからないから、わたしには話を振らないで、とひたすらに願う。留学やボランティア活動など、非日常の経験を積んだ友人の話を聞いて、自分の普通に過ごしてきた小中高校生活はなんて平凡だったのだろう、と思う。
なんとかだましだまし、その場にいるけれど、化けの皮が剥がれたらそこにはもう、いられないかもしれない。
どんどんどんどん自分に自信を無くしていって、しんどくて。
逃げ出したい。
そう思って、ふるさとに帰ってきた。
「逃げる」 なんていうのは、あまり日本社会では歓迎されないかもしれない。つらいことがあっても、しんどいことがあっても、最後までやりきることに意味がある、と教えるような国だから。
確かに、みんながみんなこらえ性がなくて我慢ができなかったら、それはそれでこまるけれど、でも、一度逃げて、休んでみることも必要かな、と思った。
自分と、自分が所属するコミュニティを客観的にとらえるために。
案外、人は狭い世界で生きている。小さい間は、学校と家庭が社会のすべてだ。年を重ねていくにつれて、バイト先、サークル、学生団体、職場とコミュニティは広がっていくけれど、それでも狭い。だって、せいぜい自分の所属するコミュニティは一度に1つか2つがいいところだから。
そして、知らず知らずのうちに、そのコミュニティのスタンダードで物事を見るようになる。
例えば、夏休み前のわたしにとっての社会は、学校と、その半径3キロ圏内くらいのものだった。学校に通う人は、英語が話せて、海外経験が豊富で、自分の意見をしっかりもっていて、自分のしたいことに正直な人が多い。だから、それがスタンダードで、そこに到達できていないことが異常だった。
でも、休学して、実家に帰って、実家の近くの大学の学生と交流するようになって、自分というものが世間からどう見られているのかがわかった。
「あなたは、将来グローバルに活躍していこうと思っているのですか」
「英語が話せて、それに、海外でインターンをしていたことがあるなんて、すごいですね」
会う人、会う人、みんなわたしにこういうのだ。最初は面食らった。
わたしよりも、海外経験があって英語も堪能な人たちに囲まれていると、こんなことはまず、言われない。せいぜい、
「実家に帰って英語の先生になるの?」
くらいが関の山である。
それに、自分のしたいことがはっきりしている人たちが多い大学だから、わざわざ他人がしたいことを聞いてくることも少ない。自分から「これがしたい」 と言わなければおいていかれてしまう。
でも、実はこれって、なかなかすごいことなのかもしれない、と思うようになった。
逃げる、休む、ということは、決してマイナスなことではない。一度自分が所属するコミュニティから距離を置いて、外の世界からそれを見ることで、そこにとっての当たり前が実は、世間的には当たり前でないことに気づくことができるかもしれない。それが、長所なのか短所なのかはわからないけれど、自分の狭いコミュニティの中にいるだけでは見えないことが、そのコミュニティの外側から見てみるとみえることもあるのだ。
見えないことが見えると、自分を図る物差しが1つ増える。自分の所属するコミュニティの価値観と、その外側の価値観をうまいところで折り合いをつけた、自分の物差しで自分を図れるようになる。
そうしたら、結構楽だ。周りのスタンダードや価値観に左右されずに生きることができるから。
逃げることは、休むことは、別に何かを失うことじゃなくて、実は何かを得るものなのかもしれない。
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