fbpx
メディアグランプリ

飛来寿大社の御守り


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

【10月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《平日コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:岡 健一郎(ライティング・ゼミ木曜コース)
 
 
ある休日の午後、娘から4月に転入した新しい学校の話を聞いていた時にその話は突然始まった。
「前の中学の図書室にピクルスたかし君っていうカエルがいたんだ。おすすめの本を抱えていて可愛かったんだよねー」
「図書室にカエルがいるの?」
「カエルって言ってもぬいぐるみだよ。でも大きくて立ったら110cmくらいはあるんじゃないかなぁ。先代の司書さんが連れてきたらしいんだけど、なんで『ピクルスたかし』って名前なのかは知らない。お兄ちゃんなら知っているかも」
娘はそう言って二歳上の兄を呼びに行った。
 
「『ピクルスたかし』っていたねぇ」
息子はそう言いながらタブレットをちょっと触って3月に卒業した中学のホームページにあった学校便りを見せてくれた。そこにはハロウィン風の衣装を身につけたカエルのぬいぐるみが写っていた。となりのボードには「カエルの司書・ピクルスたかしのおすすめ」という文字と本屋の紹介popくらいの紙におすすめの本が書かれたものが貼られている。確かに大きなカエルのぬいぐるみ「ピクルスたかし」は存在していた。
 
「『ピクルスたかし』って言う名前は校内公募で決まったらしいよ。僕が行く前の話だから詳しいことは知らないけど。毎月、司書の今野先生が服を着せ替えて、紹介本も変えて頑張ってディスプレイしているんだ。図書室に入ってすぐのところにいるから、生徒はみんな知っているよ」
息子も案外気に入っていたらしく、聞かなくても色々と説明をしてくれた。私は帰宅部だった息子が中学二年の途中から放課後毎日図書室で勉強してから帰るのが日課になっていたことを思い出した。なるほど、図書室のことは詳しい訳だ。
 
次は娘が話し出した。
「入ってすぐの左側にたかし君がいて、右側はカウンターでしょ。まっすぐ進むと文庫本の棚があって・・・」
図書室のレイアウトについて娘が図を描きながら説明し出した。娘は図書委員をしていたので楽しかったことを思い出したのか、とても嬉しそうに話している。横から息子が棚のレイアウトを一部訂正したりして、私への説明というより完全に二人の世界で話を始めた。
 
「ゴロゴロスペースもあったしね」
私の耳がピクッと反応した。ピクルスたかしの次はゴロゴロスペース?
「ゴロゴロスペースって何?」
「カウンターの向こう側に畳のスペースがあるんだよね。リラックス出来るように柔らかいクッションなんかもあってダラダラ出来るんだよ」
ぬいぐるみの次はだらけるスペースとは、とても中学校の図書室とは思えない。しかし、これらの工夫により居心地が良い図書室へ息子の様に放課後通う生徒が他にもいたらしい。勉強が終わってホッと一息、ゆったりした時間を過ごせる図書室は、子供たちにとって大人で言うところの行きつけのCaféのような感じなのだろうか。そこだけのコミュニティがあり、落ち着けて自分が出せる空間が学校にあるとしたら、それはとても素晴らしい事だと気が付いた。
 
「お兄ちゃん、飛来寿大社の御守りは貰ったの? あれを貰うと合格するってみんな言っているよね」
「三年生が図書室で参考書を借りると貰えるヤツね。もちろん貰ったよ。」
「私は三年生じゃないから本当は貰えないけど、転校するから最後に貰ったんだよね」
娘はそう言って自分の部屋へ行き、小さな紙切れを手に戻ってきた。見せてもらうと「飛来寿大社」「絶対合格」の文字とカエルを被った男の子の絵が書いてあった。ピクルスたかし君は、話をするときカエルを被った男の子になるらしい。今野先生が三年生の合格を祈って図書室で渡してくれて、貰うと合格すると生徒間で噂になっているものということだった。
「これってもしかして『ぴくるすたいしゃ』って読むの?」
「そうだよ。いいでしょ」
娘は嬉しそうに見せてくれた。自分で見つけたコミュニティでの楽しい思い出が今も娘を元気付ける力になっている。親としては中学校へ行ってお礼をひとこと言いたくなった。
 
子供たちは今回、卒業と転校により、行きつけの場所を失った。でもこれから新しい場所で新たな行きつけの場所を見つけ、新たな人と出会うことでより一層成長してくれることだろう。それまではしばらく家族で仲良くしていければきっといい場所が見つかるに違いない。そうなると家にいることが減り、少し寂しくなるかなとも思うが、そうあってほしいとも思う。
 
後日、「ピクルスたかし」をググってみた。どうしても中学生からの公募で出てくると思えなかったのだ。そしてある女性が書いたブログを見つけた。その人は「ピクルスたかし」と同じデザインの自分のぬいぐるみに「たかしくん」という名前を付けていた。そのぬいぐるみは「カエルのピクルス」というキャラクターだったのだ。そして「たかし」は宇都宮隆のファンだから。私はその年代なのですぐに分かった。歌手の宇都宮隆。案外、先代の学校司書さんも同じ年代だったりするのではと思ってしまった。でも「たかし」は本当に公募なのかもしれない。もし、そうだとしても何故「たかし」が選ばれたのかは謎だ。
***

この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。
「ライティング・ゼミ」のメンバーになり直近のイベントに参加していただけると、記事を寄稿していただき、WEB天狼院編集部のOKが出ればWEB天狼院の記事として掲載することができます。

http://tenro-in.com/zemi/59299

天狼院書店「東京天狼院」
〒171-0022 東京都豊島区南池袋3-24-16 2F
東京天狼院への行き方詳細はこちら

天狼院書店「福岡天狼院」
〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階

天狼院書店「京都天狼院」2017.1.27 OPEN
〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5

【天狼院書店へのお問い合わせ】

【天狼院公式Facebookページ】
天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。



2018-10-25 | Posted in メディアグランプリ, 記事

関連記事