日本人って必ずそれ聞くよね
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記事:飯田峰空(ライティング・ゼミ木曜コース)
「日本人って必ずそれ聞くよね。私、好きじゃないわ」
しまった。その言葉を聞いて、私は固まった。
パリでお世話になる女性と、初対面での会話中だった。私は、その女性の人となりを知ろうと、つい発してしまったのだ。
「年齢は、おいくつですか?」と。
彼女は怒るでもなく、質問に礼儀として答えてくれた後、あなたも聞くのね、という呆れ顔をしてさっきの言葉を続けた。
その呆れ顔は、「女性に年齢を聞くなんて、全く失礼な人ね。激おこプンプン」の意味ではなく、年齢をものさしにして人を知ろうとするナンセンスさに対してのものだ。
その人を知ろうとするときに、心の中で年齢を確認してしまうことがよくある。外見や話しぶりから年齢が予測できないとなると、「失礼ですが……」なんて前置きをつけて実際に聞いたりする。先輩・後輩の上下関係を軽視できない日本では、自分とどれだけの年齢差があるかは、付き合う姿勢を決める上で重要だ。
そして、学生なのか、働いているのか。結婚している年頃なのか、子がいる世代なのか、孫がいる世代なのか。年齢を聞いて、その人が人生の階段のどのあたりにいるか見当をつける。その階段によって、子がいるのだから仕事のキャリアや生活スタイルはこんな感じだろうとか、勝手に予測して人となりの大枠を作ってから、中身を知ろうとする。
初めに年齢を聞くことは、一本の毛糸をぐちゃぐちゃの玉にしているようなものだ。
理解しようとしているはずなのに、かえって複雑で正体不明なものをつくってしまう。そして、ぐちゃぐちゃの毛糸玉を一度つくって、ほぐして先端を探すようにその人を知ろうとするから、相手の本質や大切にしているものに到達するのに、時間がかかってしまうのだと思う。よく相手を知る過程で「意外と○○な方なんですね」という感想が出てくる。心の中に相手のイメージの大枠をつくっているからこそ、この「意外と」という言葉が出てくるのだろう。
ちなみにその初対面の女性は、50年以上フランスで暮している日本人女性だ。相手の年齢を気にするのは、日本人特有の癖だと思っていた私にとって、フランス人ではなく日本人に指摘されたことが、よりショックであり、より強烈に腑に落ちた。
その後も、女性との会話ではハッとすることが多かった。
私が独身か既婚かについては「そんなことはどうでもいい」、世間話として出したスポーツの話題には「私はスポーツには興味がないの」とピシャリ。
最初は、フレンドリーじゃない、とりつくしまがないと思っていたが、実はそうではなかった。彼女は、目の前の私が今、何に興味があって、何に感動し、何を大切にしているかどうかを知りたがっていた。会話を滑らかにするためだけの世間話は不要。私のバックボーンは、滲み出る感性から感じるだけで十分という感じだった。私も、彼女に昔のパリの事を聞きたい気持ちはあったのだが、それよりも今の彼女の生活や感じることに興味が出てきて、昔のことは結局あまり聞かなかった。
その潔い会話がだんだん心地よくなり、凄まじいスピードで距離が縮まっていくのを感じ、1回の食事の中で、お互いの共通点である芸術や創作のことを熱く語り、二人で涙した。
包装紙に包んでいないむき出しの言葉のやり取りを、初対面の人としたのは初めてだった。
私は、思い切って口にした。
興味のないことや不要な会話にNoと言うことは、冷たい気がしていたけれど、こうして話していると心地がいい、と。それに対して彼女は、こう言った。
「人生は短いのよ、必要のないことに時間を使うことはできないの。今、この場で何を感じ合っているかが全てで、お互いに心が震えるものに集中しないと。それが、今、二人で食事をして語っている意味で、長く付き合っていようと初対面だろうと関係ない」と。
人生は、短い。いつでもどこでも出会う言葉だ。この言葉を心に刻んで生きようと決意することも、すっかり忘れて後悔することも何度もしてきた。
その限られた時間の中で、新しく人やモノに出会うときに、仮想の大枠をつくって複雑にして、それをほどくために時間とエネルギーを使うことはもったいない。
その日の夜は、両手に持ちきれないほどの感情が溢れたのに、すっきり身軽になったような気がして不思議だった。
日本に帰ってぐちゃぐちゃの毛糸玉を見た時に、私は何を感じて、何と反応するのだろう。
彼女とフランスに感化されているのか、日本でもこの心持ちでいられるのか。自分の反応が楽しみだ。
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