メディアグランプリ

だから、私は美味しい富山に行く!


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記事:岡本 修 (ライティングゼミ・平日コース)
 
私がこの世で一番好きな観光地は富山だと思う。
どんなインスタ映えする観光スポットよりも、どれだけ誘惑漂う歓楽街よりも私は富山にいるときが一番心地いい。富山の春の顔、夏の顔、秋の顔、真っ白に染まった冬の顔を眺めていたい。
 
京都から北へ北へと車で北陸自動車道を走らせる。緑の山を越え、青く広い海沿いを走り、灰色の街中を通り抜ける。そして少しずつ稜線が見えてくる。山だ。立山連峰だ。富山に会うときはいつもこの流れで北に向かっている。
 
きっかけは情報誌に載っていた立山連峰の写真だった。「小学校の頃に行ったな。立山での圧迫するような高々とした白い雪の壁と満天の星空を微かに覚えている。そういえば街中へは行ってないな。魚が美味しいみたい」というまるで長期休暇の時間を潰し方を探すかのような軽い気持ちだった。ところが、そんな軽い思いで赴いた富山に私はこの4、5年、毎年のように足を運ぶようになった。長期休暇だ、どうしよう?どこへ行こう?という迷いもない。富山だ。そうだ富山、行こう。もう私の頭の中は富山に取り憑かれているのではないだろか。
 
私が富山に拘りをみせるのはなぜか。
まずは第一印象、山がカッコイイ!
私が住む京都には桜、紅葉、それに見合うような神社仏閣はあっても雄大な〇〇、広大な〇〇といった自然はない。あっても小高い盆地だ(まさに無いものねだりだ)。日本には富士山という日本一高い山があるがそれは山一つ。富山にも山がある。立山連峰だ。3,000m級の山々が勇ましく連なる。新幹線からの富士山の眺めを想像してほしい。富士山がいくつも並ぶのだ。それが街の傍に佇む。まさに圧巻。ところがそんな山も気まぐれだ。山の天候が激しく変わり雲が出し惜しみをするかのように山を隠す。街中が晴れているからといって山頂を見渡すことができないときも多々ある。まるで山が私を焦らすようなところが私の冒険心をくすぐる。
 
そして口にするものが美味しい。富山湾から獲れての魚。甘い。富山の方言で新鮮を表す「きときと」という言葉にも拘りがある。そしてなんと言っても水。美味しい水の源流は立山連峰に積もった雪解けの水は夏でも冷たい水となる。また県土面積の約67%の森林に降った水は枝葉や落葉・落枝の堆積層にいったん蓄えられ、浄化しながら次第に地中へしみ込んで地下水となる。その冷たく豊かな水と大地で育てられたお米も美味しい。富山のお米を原料にした日本酒も華やかな香りと旨味で格別なものばかりだ。富山で一夜を過ごした次の日はとても辛い、飲み過ぎて。
 
視点を少し引いて見てみて街中を歩いていると時折ガラスの器が飾ってあることがある。富山といえば薬売りでも有名だが、その薬と共に明治・大正時代と栄えたのが薬瓶製造でありその名残りで富山はガラスの街としてガラス美術館を建てるほどガラスに力を入れているのだ。私たちのどこの家庭にもあろうガラスという身近な存在。そんな身近な物質が富山で私を魅了した。光照らされた力強い表現とガラスの「割れるかもしれない」というもろさの二律背反の特性がなんとも儚く静かに胸に訴えてくるのだ。アート好きの私にとってなんて有意義な時間の過ごし方なのだろうか。
 
そして最後に挙げる魅力はなんと言ってもそこに住む人々だ。何といっても温かい。旅行へは年老いた母と共に行くことがある。お土産いっぱい手荷物いっぱいであたふたしているとき「どうなさいました? お荷物お持ちしましょうか?」、昼食をどこで済まそうか彷徨っているとき「お昼お探しでしょうか? そこの蕎麦屋さん美味しいですよ」などなど親身で温かい。だからと言って京都、関西の人間が不親切と言っているわけではない、親身に声をかけてくれる人があまりにも多いのだ。幾度とある現地の人の温もりをもった対応には母も感心・感謝した。
 
そんな中、とある寿司屋の大将が言った。
「お料理にはね、先味、中味、後味っていう3つの味わいがあるんです。先味というのは接客態度、お店の雰囲気、どんな料理が食べられるのだろうという食事がでる前の期待感、中味は実際に口に含んだときの旨味、コク、そして一番大事なのが後味。食べたあとの印象、味がよければ『また来たい!』『誰かに紹介しよう!』と思うでしょう。そしてそれは私自身の評価に繋がるのです。いいお店っていうのはその三つの味が揃っているんです」
私はふと思った。私が幾度も富山に足を運びたくなる理由はこれだ。今回の旅で富山はどんな一面を見せてくれるのだろうという「先味」と、美味しい、楽しい、清々しいという「中味」、現地の人々によって自然と繰り出されるおもてなし、「行ってよかった!」という満足感の「後味」。この三つの味が揃っているのだ。さらにリピートをしてもマンネリにならず毎回期待値を超える、期待値を超えたことが心を動かし「感動」へと繋がり、それではまた行ってみようということになる。次はなんだ? これからは寒ブリの季節だと私の舌がまたもや甘く囁く。
 
つい先日の新聞に「黒部ルート一般開放へ」と見出しがあった。立山黒部アルペンルートへの増客を狙うものだが、自然と人間が調和した富山がこれからどう変わるのか、さらに注目していきたい。
 
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2018-10-25 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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