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メディアグランプリ

「黒ひげ理論」は世界を救う


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:佐々木啓(ライティング・ゼミ木曜コース)
 
「私は “いりません! ガチャ”ですね」
彼女は受話器を置くジェスチャーをする。お酒が入っているためか口調や動作が雑である。それでも普段の彼女を知る私には、どうにも似つかわしくない対応のように感じた。
 
「ずいぶん冷たいね。もう少し丁寧に応対してあげてもいいんじゃないの?」
「だって忙しい時にかぎってかかってくるんだもん、営業の電話って」
彼女は目の前の生ビールのジョッキをぐい、といく。
 
彼女とはビジネス上の付き合いだがウマが合ったのだろう。ざっくばらんに話し合える友人のような間柄だ。今日も仕事の打ち上げで飲みに来ている。
チェーン居酒屋のテーブルでサシ飲みすること一時間。どういう流れでそうなったものか、
話題は「営業電話への対応」になっていた。
 
「それにね」とテーブルに肘をつき半身になる彼女。目が座っている。そう言えばあのジョッキは何杯目だったか……。
「それにね、冷たくはないですよ。私の仕事は営業電話の応対じゃないんですから」
 
なるほど。極端な気がするけど、自分のなすべき仕事を全力でなすという、まじめな彼女の言いそうなことだ。
 
人知れず納得していると彼女が質問してきた。
「じゃあ逆に佐々木さんは営業の電話にどうしてるんですか」
「私は……。電話をかけてきた人にお礼を言わせて切る、というスタイルかな~」
「は? 何それどういうこと?」
彼女は尋問スタイルになっている。
 
今の彼女にどのくらい伝わるか心もとないけれど、かいつまんで説明してみる。
「営業電話って、まずこれ、次にこれ、その次にこれ、って説明する順番が決まってるんでしょ、多分。だからまずそれを聞くわけ」
 
自分と関係ない仕事はしない、という彼女にとっては不審な行動なのだろう。顔が「何でそんな面倒なことを」と言っている。それを感じつつ話を続ける。
 
「そうしたらお断りのターン。“提案はすべて理解したけどウチには必要がなさそう”だから“御社の素晴らしいサービスを本当に必要としている会社に案内してあげてください”的なことを伝えると向こうはお礼を言って切ってくれるよ」
「甘い! 甘いよ佐々木さん。そんなの時間の無駄だよ。向こうだって仕事なんだからもう何百本と断られてるだろうし、“いりません! ガチャ”だって慣れっこだよ」
甘い甘い! とジョッキを傾ける彼女。いい感じに出来上がっているようだ。
 
その通り。営業の電話口にいる彼や彼女はもう何百本と断られているだろうし、電話を「ガチャ!」と切られることも慣れっこかもしれない。だがそれと関係なく、人に敬意を払うことは自分の身を守ることにつながる。これは私の危機管理対策なのだ。
 
例えば肩がぶつかった。列に割り込まれた。注文を取りに来るのが遅かった。
そんな理由で傷害や殺人を犯してしまう人がいる。自分や相手の人生を台無しにしてしまうにまったく値しない出来事で。
 
ニュースを見た人々は口をそろえてこう言う。
「そんな些細なことで」
「ちょっと我慢すればすむのに」
「自制心がなさすぎる」
 
違うのだ。
そんな些細なことが引き金となってしまうくらい、その人は限界だったのだ。
ちょっとの我慢もできないほど、我慢に我慢を重ねてきたのだ。
自制心などとうの昔にすり減ってしまったのだ。
 
「黒ひげ危機一髪」というおもちゃがある。海賊の「黒ひげ」が飛び出す場所に剣を刺してしまった運の悪い人が負け、というゲームだ。
「黒ひげ」が飛び出る準備は十分だったのだろう。樽には無数の剣が刺さっており、残った場所はあと一つ。あとは剣を突き刺すのは誰か、たまりにたまったストレスやうっぷんのはけ口になる運の悪い人は誰か、という状態だったのだ。
 
営業電話は断られるのも仕事の内。
お客さんに話を聞いてもらえないのも「グサリ」
電話を「ガチャ!」と切られるのも「グサリ」
上司に「この給料泥棒!」と怒鳴られるのも「グサリ」
慣れっこさ。……もう限界だけど。
剣を刺せる場所はあと一つ。そんな彼の電話を “いりません! ガチャ”と切ってしまったら。
 
問題は「黒ひげ」がどこで誰に飛び出すかだ。彼は職場でパワハラ上司をぶん殴るかもしれない。だが、「もうやってらんねーよ!」とやけ酒をあおって飲酒運転し、それが私や私の家族に突っ込んでくるかもしれないではないか!
 
話は営業電話に限らない。身の回りに「剣を刺せる場所があと一つ」の人がどれくらいいるのだろうか。半ば妄想のような話だが可能性はゼロではない。ゼロではない以上、少しでもその可能性を減らしたい。愛する家族を守るために、私は私自身の手で「黒ひげ」が飛び出る剣を刺したくはないのだ。
 
お互いが敬意を払い、黒ひげが飛び出ないようにする。そうすれば自分を、相手を、そして世界を救う。
 
「だからもっとよい世界になると思うんですよ」
「黒ひげ? 知らないよそんなこと~。……生おかわり!」
 
自分から話を振ったくせにその失礼な対応はなんだ! 剣がグサリ! 黒ひげがポーン!
 
……とはならない。この「黒ひげ理論」の良い点は自分も守れることだ。だって自分にプラスチックの剣が刺さって黒ひげが飛び……出ない? セーフ! とか考えると笑っちゃうじゃない。
 
***

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2018-11-16 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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