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メディアグランプリ

我が恩師、ゴッホ先生


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:福田 冠司(ライティング・ゼミ日曜コース)

 
 
「うわっ! あのおっさんますます胡散臭くなってるわ(笑)」
 
それが第一印象だった。出身高校の同期飲み会に来ていた、私が1年生のときの担任の先生の見た目は、胡散臭さに磨きがかかっていた。
 
私は所用で飲み会には出席できなかったが、参加した方がFacebookにアップした画像を見た瞬間、笑わずにはいられなかった。そして同時に、懐かしさとともに当時のことを思い出していた。
 
この担任の先生、生徒からはゴッホ先生と呼ばれていた。そのあだ名のとおり美術の先生だ。本名がありきたりな名字だったので、いつしかみんなゴッホ先生と呼んでいた。私たちがそう呼んでいたことは、おそらく先生の耳にも入っていたと思うが、特に何も言わなかった。まんざらでもなかったのだろう。
 
ゴッホ先生のことがなぜ今でも印象に残っているかというと、見た目の胡散臭さもあるが、私が1年生のとき、特に入学したばかりのころに大変お世話になったからである。
 
私の出身中学は小規模で、1学年1クラス、15人くらいしかいなかった。そこから私ともう一人が高校も同じになったのだが、彼とは選択科目の都合でクラスが分かれてしまった。また、高校は1学年10クラス、450人もいる大規模校。いろいろと勝手が違っていそうで、期待と不安が入り混じった状態だった。
 
また、私のクラスはプレハブの教室だった。少し上の世代が第二次ベビーブームの年代だったことから入学者が増え、教室を増築する必要があったのだ。さらに、プレハブの教室は同じ学年の他のクラスと場所が離れていて、気軽に行き来ができない。このことも、私の不安を増長させるには十分な理由だった。
 
入学式が終わり、オリエンテーションが始まった。一人ずつ自己紹介をし、校舎を一通り案内され、生活ルールなど一通りの説明を受けたあと、ゴッホ先生はおもむろに話し始めた。
 
「私ね、実はAB型のRhマイナスなんですよ! 血液型が合うのが2千人に一人しかいなくてですねぇ。輸血のときに大変重宝されるんですけど、ケガしちゃうと大変なんですよ!」
 
いきなり何を言い出すんだこの先生は! そう思うや否や、さらに話を続けてきた。
 
「そういえば、来年の修学旅行、往復ともに寝台列車使えば、行程が1日増やせるんです。それでいいですか?」
 
えっ? 自己紹介もそこそこに修学旅行の話ですか! さらに……。
 
「OBやOG、有名人多いですよね。でもそういうヤツらは在学中からぶっ飛んでるんですよ。少し前に卒業した先輩で、学校祭で合格祈願のお守りを作ったヤツがいまして。そうしたらお守りは即完売。次に何をしたかというと、校庭に落ちている石を拾ってマジックで文字書いてお守りを作って売り出したんですよ! さらに、ビニール袋を持ってきて空気を詰めて売ろうとし始めました。さすがにこれは止めましたけどね(笑)」
 
もうわけがわからない。この先生、見た目胡散臭いし話は支離滅裂でまっとうじゃない。だんだん、自分の顔が引きつってきたのを自覚するようになった。
 
そのとき、私はゴッホ先生と目が合ってしまった。そして……。
 
「君、いい笑顔してるね!」
 
いやいや、違いますってば! 笑顔じゃなくて、引きつってるんだよ!
 
「あ、そうだ。この後学級代表とか決めるんだった。何なら君、引き受けてくれないか? 賛成の方は拍手!」
 
そして、満場一致の拍手により、結局私は学級代表に「仕立て上げられた」のだった。
 
しかし、終わってみるとクラスメイトから話しかけられるようになったし、こちらからも話しかける機会が増えた。学級代表という役得で、クラスメイトとすぐになじむことができ、当初抱いていた不安はすぐに解消することができた。また、他のクラスと場所が離れていたこともあって、時間が経つにつれ、クラスのまとまりも良くなっていった。
 
そして、ゴッホ先生と話す機会も増えた。よくよく話をしてみると、先生は頭の回転がとても早く、こちらの意図することはほぼ完璧に理解されていたし、アドバイスも的確だった。
あるとき、高校入試のときの得点を私にこっそり教えてくれたことがあった。ボーダーラインぎりぎりの点数だったので、先生は先生なりに、私が授業についていけているかどうかも心配していたようだ。
 
また、先生と面談した母からも、ゴッホ先生の印象は良く、「さすが進学校の先生は違うね!」と絶賛するほどだった。こうして、私もゴッホ先生への印象が変わり、信頼できる先生と思えるようになっていった。
 
そしてあるとき、私はふと思いついた。
 
「ひょっとして、私が学級代表に仕立て上げられたのって、先生が私のことを心配して、すべて計算ずくでやったことなのか?」と。
 
ゴッホ先生から見れば、すべてお見通しだったのかもしれない。でも、そのおかげで私の高校1年は充実したものになった。振り返れば、学級代表に仕立て上げられたことはプラスに働いたし、今にしてみればよかったと思っている。
 
今度ゴッホ先生にお会いしたときに、ぜひ直接お礼を言いたい。そして、このエピソードについても聞いてみようと思う。
 
「えっ? そんなことあったっけ?」ってすっとぼけられるかもしれないけれど。

 
 
***

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2018-11-21 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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