メディアグランプリ

わたしたちは同じ船の乗組員。だから幸せでいよう


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記事:Hanao(ライティング・ゼミ日曜コース)

 
 
夏の暑さがひと段落した頃だったと思う。
 
何年も会っていない高校の同級生、T美から突然電話がかかってきた。長い間、音沙汰がない友人からの突然の連絡はちょっと緊張する。「もしかして誰かがなくなったとかじゃないよね……?」
そう思って電話に出ると、元気でハリのある声が聞こえてきた。
 
「あ、久しぶり! 元気だった? 先生がさ、今年定年なんだって〜、だから同窓会しようって話になって。行こうよ!」
 
先生というのは、高校時代3年間担任だった先生のことだ。女子校だったわたしは英語科という英語を専門に勉強する学科にいた。クラスも学年で1クラスしかなかったので、先生も生徒も3年間一緒だった。今思えばとても濃い3年間だったと思う。進学クラスでもあったので、たくさん遊んだけれど、たくさん勉強もして、その中で仲たがいしたり、逆に仲良くなったり。いろんなことがあったけれど、それでも最後は本当に楽しい思い出しか残らなかった。青春という言葉をあてはめるのだとしたら、あの時のことを言うのだろう。
 
わたしは半ば強引にT美に誘われて、同窓会に参加することになった。ついでに大阪に住む同級生N子も強制的に誘って、久しぶりに帰省することになった。しかし、何十年ぶりかの友人に会うということは、なんともいえない緊張感が伴う。わたしは女子校から女子短大へ進学したし、その後の社会人生活も女性の多い職場で仕事をしてきたので、女性同士の付き合いはある程度心得ているつもりだ。
 
でも、それでも、だ。
マウンティングという言葉がなんとなく頭をよぎる。
 
同窓会当日。
 
わたしとN子が約束の時間に到着すると、参加者のほとんどがすでにそろっていた。お店に入ると突然「きゃー」と悲鳴に似た声が鳴りひびく。それは、女性同士の「なつかしい!」のあいさつだった。先生もみんなも変わらない。一瞬で誰が誰だかわかる。もうここからは、止まらない。近況を聞いたり、高校時代の話をしたり。女性はどこで何を選択するかでその後の人生が大きく変わる。結婚を選択するタイミング、子供を産むタイミング、仕事を続けるか辞めるかの選択。どこに住むかの決断。一人ひとり話を聞いていくと、本当にいろんな人生があった。先生も含めて、高校を卒業した後の25年間は、いくら話をしても足りないぐらいの歴史があった。でも、誰のどんな話を聞いても不思議なことに、マウンティングなんていう感覚はなかった。
あの3年間、狭い世界の中ではあったけれど、たくさんの感情をぶつけ合って、笑ったり泣いたりした私たちは同じ船の乗組員のようなものだった。すべての感情を出し切ったあとには爽快感だけが残るように、卒業が近くなるにつれて、いい感情しか残らなくなっていったと思う。そこから25年経って同じ思い出の中にいる私たちの感覚は、ちゃんと幸せなものになっていて、「お互いを受け入れる」というスタンスしかなくなっていた。
 
社会に出ると否が応でも競争が入ってきてしまう。だから、大人になるにつれ心を許せる友人はどんどん作りにくくなっていく。でも、それが社会という現実でもある。
一方で、学生時代の友人は、利害関係なく、同じ思い出の中に生きているからこそ、笑いあえるかけがえのない仲間だ。マウンティングなどという言葉すら忘れてしまうほどに。その言葉自体なかったかのように。会ってしまえば、いつでも18歳だった私たちに戻れる。同じ船に乗って3年間の航海を共にした私たちは、嵐も雨もあったけど、たくさんのきれいな星を一緒に見たはずだ。そして船を降りてそれぞれの旅に出て、25年後にまた会うことができた。
 
その思い出は私たちが生きて記憶がある限り、いつまでも持って生きていける。思い出したいときに記憶の奥から取り出して、みんなの笑顔をいつでも思い出せる。それはどんな豪華な家や高価なアクセサリーよりもたいせつで素敵なものなのだと思う。なぜなら、それを思い出すとき、私たちは少し笑顔になって、そして心があたたかくなってくるからだ。
 
人生は一度きりだ。
 
だから、できるだけたくさんの幸せを積み上げていこうと思う。幸せな方向をえらんで幸せでいようと思う。
18歳のときのように、感情をぶつけることはできないかもしれないけど、今はいまのやり方で。私たちは一度経験しているから、その幸せの積み上げ方をきっと知っているはずだから。
 
同窓会が終わったのはすでに深夜だった。
 
みんなに「またね!」とあいさつして別れたときは、まるで学校の帰り道、みんなとわかれるときの瞬間そのものだった。時を経たその別れぎわのあいさつにのせた思いは、たった一つだ。
 
「みんなもどうか、幸せでありますように」

 
 
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2018-11-28 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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