メディアグランプリ

M子の不純な動機による圧倒的努力


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記事:岡本 修 (ライティングゼミ・平日コース)

「英語でそんなにガミガミ言わないで! ここはフランスなんで!」
「フランス? ここはシャルル・ド・ゴール国際空港でしょっ! こ・く・さ・い・っ!」
M子は英語で怒りを露わにした。

M子が母親とパリへの親孝行二人旅での出来事だった。舌鼓を打った本場フランス料理、ルーブル美術館での芸術鑑賞、夜のロマンチックなシャンゼリゼ大通りなど、たくさんの思い出をつくったパリの充足感で日本へ帰ろうかと思った矢先だった。シャルル・ド・ゴール空港の持ち込み検査でトラブルがあった。検査をした際に外した大事にしていた金属の髪留めがないのだ。係員に問い合わせをしたが知らないと言う。しかし、そのときの係員の対応がマズかった。いい加減な対応がM子の逆鱗に触れたのだ。
「いや~、流石にあのときは空港でブチ切れたわ、なんかアジア人が吠えとるでって回りから冷ややかな目で見られていたでしょうね~、結局、髪留めは見つからなくて、もう怒り爆発よ!」
とM子がハイボールを片手に空港で怒った話を笑いながら私に言った。

私は友人M子との久しぶりの再会だった。一杯呑みで京都の一乗寺の居酒屋での話だ。M子とはかれこれ6、7年の付き合いになる。私にとってM子はいつも笑顔を振りまいて元気をくれる存在で、英語も仕事もバリバリの才女でもある。当然久しぶりだったから積もり積もった話で盛り上がる。そんなM子の怒りの思い出は私がオランダへ旅行に行ったときにフランス経由で向かったことから飛び出た話だった。
「どう考えても落ち度は空港側にあったんだけど、当時、私はフランス語をかじった程度でフランス語ではまとも言い返すことができなくてもうそれが悔しくて、悔しくて。。。。。。そこからフランス語の猛勉強よ」 
いつも笑顔のM子が怒ったのだからそうとう腹が立ったのだろう。

M子は講師ができるほど英語は堪能だ。それに比べ私は英語が苦手だ。でも、英語は話せるようになりたいとは思う。近年京都には海外からたくさんの観光客が来る、道を尋ねられることがあれば、飲み屋で話掛けられることもある。私も同じ時間を過ごすなら彼らと楽しく過ごしたい。交友、文化を広げたい、でも、今日まで私は続かなかった。忘れた。中学校から英語を習いはじめて大学まで何をやってきたんだろう。今になって後悔もした。だから多言語を習得するM子の学習方法に興味があった。

私はM子に聴いた。
「M子はどうやってフランス語を習得したん? 俺も京都のことや、趣味の写真を通じて外国の人たちと交流したいんやけど続かなくて。。。。。。」
「そもそも私は学生の頃にロンドンへ留学してたの。学生時代、部活も何もしてなかったから親が引き籠りにならないかと心配して家からロンドンへ放り出されたの。もう孤島よ! フランス語に関してはあれからいっつも空港でのことを思いながら毎日フランス語のビデオを見まくりよ、怒りよ、怒り! どれも不純な動機による圧倒的努力よ!」
ほろ酔い気分のM子は頬をやや赤らめながらも饒舌に話す。

不純な動機。。。。。。そうだ、M子は才女でありながらヲタクだった。元々M子はアニメ好きのコスプレイヤーだ。コスプレイヤーは憧れのキャラクターに成りきるために自ら衣装をこしらえたり、メイクしたりと完成度を高めるためのその意気込みが半端なく凄い! 今のM子はコスプレイヤーを卒業しているものの、今でも『ハイキュー!!』や『テニスの王子様』などの2.5次元ミュージカルを東へ西へ追いかける行動力が凄まじい。アニメキャラへの偏った愛だ。ヲタクはそのツボにハマると究極なまでに拘りをみせるのだ。M子は語学ヲタクなんだ!

ふと私は天狼院書店の三浦さんの記事を思いだした。
それは「執念」についてだった。その記事には
執念とは「人生で圧倒的な差を生む源にして、誰もが持ちうる思念」と書いてある。
それだ!
私とM子との違いは怒りの感情に伴う執念だ。

私だって好きなことはとことんやる。好きだから当然だ。しかし、会話の中で気づいた。今の私には怒りという感情がない。いや、ないこともないが喜怒哀楽の中で濁った沼の一番底の方に沈んでいる。最後に喧嘩したのはいつだったか思い出せないほどだ。逆に言えば怒ることがあまりなかった。それだけ周りの人に恵まれていたのか。それともその場その場を流してきたのかもしれない。

今の時代、あらゆる感情の中で怒りというのはマイナスのイメージにとらわれるのではないだろうか。声を荒げたら「あいつ、なんか怒っとんで」のような周囲からの冷ややかな目線、大人なのにみっともないみたいな。そんな風潮の中で感情を押し殺しているのではないか。しかし、ニュースで流れてくる諸外国での政治に対する暴動、民衆は命がけで怒りまくっている。果たして怒ることは悪いことなのだろうか、いや違う。怒りはエネルギーの源だ。生きるために使い方、矛先さえ間違わなければ反骨の精神となり、執念に繋がる。そうだ、思い出せ!私だって学生の頃、部活動でよく吠えていたじゃないか、社会人になって新人の頃、同期と目標数字をぶつけ合っていたじゃないか。思い起せ! レベルが違い過ぎてもM子をライバル、目標と思っていい! 私は私自身を鼓舞するかのように言い聞かせた。不純な動機による圧倒的努力。。。。。。私も英語を習得して外国のお姉ちゃんと一緒に酒を飲みたい! それへの執念だ!

帰り際、M子は笑顔で言った。
「英語の勉強を始めるのに遅すぎるということはないわ。頑張って!」
私に気付きを与えたM子が眩しかった。

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2018-11-29 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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