もうすぐ70歳の父親と全力で張り合った話
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:春眠亭あくび(ライティング・ゼミ 平日コース)
「おじいちゃんすごーい!」
4歳と2歳の息子たちが歓声を上げる。
おじいちゃんは得意顔だ。鼻の穴が広がりまくって、ほぼゴリラだ。
「ほんとだ、すごいねー」
私の気のない返事をよそに、子どもたちは目は見開き、口は半開きのまま、おじいちゃんを見つめている。
こんなの当然ですけど何か? とでも言わんばかりのポーカーフェイスで、おじいちゃんは次のセッティングに取りかかる。
手慣れた様子で紐を巻き、そして放つ。
さっきは地面だったが、今度は狭いベンチの上に、勢いよく回り始めた。
「うわー! こんなところにのっちゃった!」
子どもたちは大興奮。
「よーし、お父さんもやっちゃうぞー」
言葉と裏腹に、私が放つと逆さまになって全く回らなかった。
悔しい。悔しすぎる。
35歳になった私が、もうすぐ70歳の父親とここまで本気で張り合うとは思いもしなかった。
しかも、「コマ」のことで。
我が家には小さい息子が2人いる。
平日は保育園に預けているので、休日は子どもたちが好きなことを目一杯甘えさせてあげたいと考えている。
そして、お父さんのことをもっと大好きになってほしいと考えている。
「おとうさんのことだいすき!」という言葉を生涯でいかに引き出すかが目下のKPIだ。
その日は実家から私の父親が来ていた。
実家は長野で、私は埼玉に住んでいる。
なかなか孫に会えないからか、たまにこうして遊びに来る。
子どもたちのお世話をお願いできるので、親としてはとても助かる。
天気もあまり良くなかったため、私とおじいちゃんと子どもたちの4人で、少し遠くの児童館に行くことにした。
今回行った児童館は、昔ながらのおもちゃが豊富だった。
竹馬、ぽっくり、フラフープ、スマートボール。
広い敷地で、じっくり昔の遊びが体験できるのはなかなかうれしい。
早速子どもたちはフラフープを投げたり回したりして騒ぎはじめた。
テンションがいつもより高い。
普段会えないおじいちゃんが来ているからだろう。
「これ、フラフープっていうだよ?」
得意げにおじいちゃんに教えてくれている。
そんな中、おじいちゃんが何かを見つけて手に取った。
コマだ。
手のひらに収まるくらいの大きさで、金属・プラスチックの混合のものだ。
「懐かしいなぁ」
おじいちゃんは手慣れた様子で紐の先端に輪を作り、コマの軸に紐を掛ける。
ぐるぐると紐を回し、水平に構えた。
子どもたちは興味津々でそれを見つめる。
コマが放たれる。
紐の先端できゅっと戻され、回転力を増して地面で回り続けた。
コンクリートの床に、「キンキンキンキン」というコマが回る音が響き渡る。
正直、どうせ失敗するだろうと踏んでいた。
なぜなら、5分前に私が試して、ことごとく失敗していたからだ。
何度放り投げても、逆さにひっくり返ってしまう。
きっとコマが悪いに違いない。
そう考えていただけに、目の前でいとも簡単にコマを回すおじいちゃんに嫉妬した。
そして、私の中の負けず嫌いの虫が騒ぎ出す。
「ちょーっと子どもたちにはむずかしいかなー」
と言って、さりげなく興味をはずそうととする。我ながら大人げない戦法だ。
しかし、目の前で放り投げられ、ぐるぐる回るという見た目のインパクトは思った以上に強力だった。
子どもたちはおじいちゃんの側を一切離れようとしない。
「よーし、必殺! お父さんサウザンドレクイエム!」
アニメの必殺技を入れて気を引く作戦だ。
しかし、コマは力なくひっくり返り、地面にそのままカランカランと落ちるだけだ。
おじいちゃんはその間に、ベンチやテーブルの上に次々とコマを乗せて、その都度子どもたちから歓声をかっさらっていく。
さらに、子どもたちの手を取り、一緒にコマを投げて体験させたりしている。
自分の手から放たれたコマがぐんぐん回る姿は、子どもたちのボルテージを最高潮にさせていた。
もう四の五の言ってられない。
「ちょっと父さん、コマ教えてよ」
35歳児が70歳にコマを教えてもらうことの屈辱と言ったらない。
でも、これも父親としての威厳を取り戻すために必要なことなのだ。
背に腹は代えられない。
プライドをかなぐり捨てて教えてもらう。
が、コマは回らない。
最後は子どもたちと同じ要領で、父親に手を取ってもらい、一緒に投げてもらった。
それでもコマは一回転して地面に落ちる。
子どもたちよりも才能が無いことに気づき、諦めた。
70歳の父親にここまで完敗するとは思わず、悔しくてたまらなかった。
帰り道、車の中で子どもたちに感想を聞いた。
「たのしかった!」
「またきたい!」
笑顔で答えてくれた。
そこで気がついた。
子どもにとって、コマが出来ようが出来なかろうが関係ないということに。
父親と祖父と一緒に目一杯遊べた、その経験だけで子どもたちは満足なんだということに。
ふと、自分が普段子どもたちに「誰かと比べてるのは不毛だ」と教えていることを思い出す。
子どもたちに教えているようで自分が教わっている。
だから子育ては面白いのだ。
運転をしながら、次はどこに連れて行ってあげようかと思いを巡らせる。
父親は後部座席で満足そうに居眠りしていた。
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