メディアグランプリ

最も哀れな忘れられた女にはなりたくなくて


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

【12月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《日曜コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

 
氏名:林絵梨佳(ライティング・ゼミ木曜コース)
 
 
うつ病により二年の無職、ほぼ引きこもりで人と話す機会が少なすぎて自己紹介もろくにできない。
 
そんな私がなぜ天狼院のライティング・ゼミを受講することにしたのか。
 
元々書くことに興味はあった。得意でもあった。でも今まで仕事で書くことに深く携わってきたことはない。
 
きっかけはうつ病だった。
 
この病気になってから、今までの働き方を改める必要があった。
体調の波は不規則で、フルタイムで朝からきっちり毎日働くのは難しいだろう。
ならば書くことで稼げれば比較的働く時間を自由にできるのでは?
 
というのは半分嘘で、これはその場を短く収めたい時用に後から考えた、ただの後付けの理由です。
 
ここからはまだ誰にも言っていないもう半分の切実な理由。
 
うつ病になって、元気だった頃よりできないことが増え、引きこもる日々が続いていた。親には仕事を辞めたことも病気のことも言っていない。
 
恋人だけが全てを知っていた。
 
一日のうち会話をするのは恋人だけ。
それも会って話すのは週に一度あるかないか。後はLINEでのたどたどしいやり取りのみだ。
 
その日々が続くほど、だんだん私の世界が小さく閉ざされていく恐怖がじわじわと襲う。
 
「恋人」という狭くて壊れやすい繊細なコミュニティにしか、私は存在していない。
 
しかも恋人は事情を全てわかってくれてるので、多少横柄な態度をとっても、体調が悪いことを察して許してくれる。
良くも悪くも、病人特有のわがままが許されるコミュニケーションが当たり前になってしまっている。
 
このやり方は外の人には通じないのでは?
 
自分が恋人の優しさに漬け込み、甘えることに慣れ、自分勝手で失礼な恥ずかしい人間に成り下がっている気がした。
自ずと友人に会うことに尻込みするようになった。
恥ずかしい私を晒してしまうような気がして。
 
大好きな友人達はいるけれど、今の私は自分でいっぱいいっぱいで、他人に気を遣えない。恋人以外の他人との距離の置き方もわからなくなってしまった。
失礼なことを言って大好きな人達を傷付けたり、迷惑をかけ、軽蔑されたりしないか。
そういう恐怖が常にあった。
 
あるひとりの夜、恋人と過ごせば過ごすほどそこでしか会話できなくなっていく恐怖が、訳もなく突然膨らんで暴発し、発狂した。
 
枕に顔を埋めて叫んだ。
意味もなく頭を掻きむしった。
子どものように声を上げて泣きじゃくった。
 
深夜の発狂は行き場なく、スマホをひたすらに眺めた。
SNSのタイムラインで仲の良かった友人達が今どんなことをしているか眺め、あわよくばコメントして存在を主張した。
 
私はここにいます。
記憶から消さないで。
 
そうして延々スクロールし続けていると、ある広告が目に止まった。
 
「人生を変えるライティング教室『天狼院ライティング・ゼミ』」
 
胡散臭いその煽り文句に吸い込まれるようにページを開き、何かに急かされるように一気に読んだ。
 
変えたい。書きたい。
 
今の私の在り処を、言葉という形に残したい。
このまま消えてしまいたくない。
恋人以外の誰かと喋りたい。
 
再び頭を掻きむしり、半ば無意識の状態で私の指は「支払」ボタンを押していた。
 
恋人としか会話できない恐怖は「忘れられてしまう」ことだった。それも、不特定多数ではなく、私の尊敬している好きな人達に。
 
恋人というのは濃密で、甘くて、見えなくなるほど近付くことができる関係だけど、別れて、お互い新しい恋人ができれば忘れてしまう。脆い関係。
第三者が入り込めない、危うい関係。
 
私は今、その美しくて脆い、細い細い一本の絹糸だけにしがみついてこの社会と辛うじて繋がっている。
 
いつ奈落に落ちていくか知れない。
 
恋人も、絹糸一本で私のずっしりと重い心を支えるには限界がある。
 
だからゼミ形式で「みんなで書く」ことができる場に藁にもすがる思いで申し込んだ。
一人でも書くことはできるけど、今の私はあまりに弱い。
 
通信受講ではなく店舗での受講を迷わず選んだ。
体調の波が激しいので電車に乗って通うことに不安があったけど、今の私は他人に会わなければ意味がない。
 
ライティング・ゼミに通い出して3ヶ月。
課題で書いた記事がちらほらと掲載されるとSNSでシェアして、少しだけど「読んでるよ」と声をかけてもらえるようになった。
 
こういう風に、課題の文章を書く際に、内面を深く掘り下げる作業は今の私にはキツイ。掘り下げるというよりえぐり取るような作業で、終わると疲労困憊している。
 
でも、書き終わった後は必ず、書くことと向き合えて良かったと思える。
 
深夜に発狂することも少なくなった。
 
初対面のゼミの人と話したり、私の文章を読んでるよと声をかけてくれる人がいたりして、少しずつ尻込みしていた外の世界にも触れられるようになった。
 
「書く」行為によって、私の心を支えているものが絹糸一本から、綿や麻やポリエステルの糸が増え、少しずつ織り込まれ布になっていくのを感じる。
 
その布はまだスカスカだけど、何とかバランスを取って、腰を落ち着けるぐらいはできる。
 
今まで絹糸一本で支えてくれていた恋人にも、感謝の気持ちが芽生え始めている。
 
***

この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。
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2018-12-06 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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