ちりめんじゃこ、いらんか?
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:さわみ(ライティング・ゼミ日曜コース)
「お姉ちゃん、じゃこ、いらんか?」
目の前には、無造作にビニール袋に詰め込まれた、山盛りのちりめんじゃこ。
こんな大量のちりめんじゃこ、初めて見た。
何匹入ってる?
1万匹ぐらい、いるんとちゃう?
「お姉ちゃん、ちりめんじゃこ嫌いか?」
いやいや、嫌いでは無い。
でも、こんなに大量のちりめんじゃこ、どうやって食べる?
普通に食べたら、1年はかかりそう。
しかも、よく見たら乾燥タイプじゃなくて半生っぽい。
うじゃうじゃ入ったちりめんじゃこは、なんだか得体のしれない生き物のようにも見えてくる。
ビニール袋の中に、1万個の黒くて小さな目。
何かに似ている。
そういえば、昔飼っていたメダカが、大量死したことがあった。
その時に、しばらく「メダカブルー」になって、ちりめんじゃこが食べれなくなったことがあったっけ。
それを思い出してしまった。
ビニール袋というのが、余計にメダカを思い出させる。
不気味。
まさに、その一言。
いや、ある種の恐怖かもしれない。
得体の知れない恐怖……
何が不気味か。
ビニール袋に1万匹とも思えるぐらい、無造作に詰め込まれた謎のちりめんじゃこ。
それもある。
でも、本当に不気味で得体のしれない恐怖を感じる正体。
「お姉ちゃん、おっちゃんのちりめんじゃこ、もろてくれへんか」
そう。
偶然すれ違った時に、執拗にちりめんじゃこを勧めて来る、目の前の見知らぬ老人。
何者? なぜ、こんなにも大量のちりめんじゃこ?
明らかに、売り物では無いよね?
今から、数分前。
細い一本道を歩いていると、前からヨロヨロと近づいて来る一台の自転車。
遠目にも、異様な雰囲気が感じられる。
「ヤバイ……」
私の中の、危険察知アラームが鳴り響く。
何とか平静を装って通り過ぎようとした時に、私の悪いくせが出た。
怖い物見たさ。
ヤバイと思えば思う程、見逃す訳にはいかなくなる。
明らかに不自然な出で立ちの、前からやってくる自転車の老人。
私は通り過ぎる時に、チラッと老人の方を見てしまった。
ギョッ! 目が合った? いやいや、気のせい。大丈夫。
すれ違い様に、ツンと鼻をつく臭いがし、私の心臓が少し早くなる。
でも、大丈夫。無事に横は通り過ぎた。
自転車は、私とは反対の方向に向かって走って行ったはず。
「ちょっと、お姉ちゃん!」
ヒーッ! ドキドキドキドキ。
驚きと恐怖で、立ち止まってしまった。
「お姉ちゃん! そこのあんたのことやで。ちょっとこっち向いてんか」
あ~、マジか~。
やっぱり、あかんかったか……
「なんでしょうか……?」
恐る恐る返事をしながら、私は後ろを振り向いた。
!!!
振り向いた先には、想像を遙かに上回る、パンチのある老人の姿。
人は、見た目で判断してはいけない。
これは、私も常々心がけていることである。
でも、これは……
ボロボロの自転車に、板を打ち付けたような前カゴ。
ボサボサの白髪のロングヘアーに、長く伸びた口ひげ。
首元が茶色くなったヨレヨレの白いランニングシャツに、何色かよくわからない半ズボン。
裸足の足下には下駄? スリッパ?
顔も手足も、日焼けしたように真っ黒になっている。
「お姉ちゃん、じゃこいらんか?」
目の前の老人が、にんまり笑いながら私に話し掛けてくる。
その口元には、歯がほとんど無い。
絶句している私の目の前で、老人が自転車のカゴに入っていたボロボロの紙袋をゴソゴソやり出す。
そして、おもむろに何かを取り出した。
大きなビニール袋に、山盛り詰め込まれた白い物体。
まさか……
「お姉ちゃん、ちりめんじゃこいらんか?」
ゲゲーッ! ちりめんじゃこやー!
しかも、なんじゃ、この量!
怖っ!
「なんか、いっぱいもろてしもてな。食べ切れへんし、半分もろてくれへんか?」
そら、食べ切れへんやろ。
てか、誰からもらうねん。
しかも、半分てか。
突っ込みたいことは、いっぱいある。
というか、むしろ突っ込みどころしか無い。
そもそも、この人誰? 何者?
もしかして、この日焼けした風貌は漁師か?
漁師仲間のお裾分け?
いやいや、違うやろ。
気をしっかり持て、私!
何とか上手く断って、この場を乗り切らねば。
申し訳ないけど、ちょっとそのちりめんじゃこは、いただく気にはなれないし。
「すみません、申し訳ないですけど、今はちょっといらないです」
渾身の勇気を振り絞って断ってみる。
「なんや、お姉ちゃん。じゃこ嫌いか?」
ヒ~ッ。粘る~。
頭の中で、色んなことがグルグル駆け巡る。
「すみません、ちょっと私も食べ切れそうにないので……」
何とか、もう一度断ってみる。
「そうか、遠慮せんでもいいんやで」
まだ、粘るか……
「いえいえ、本当に。食べ切れなかったらもったいないので、遠慮しておきます」
「そうか~。ほな、しゃあないな」
残念そうにそう言うと、老人はビニール袋を紙袋に戻して、またヨロヨロと自転車を漕いでどこかに行ってしまった。
ハ~ッ。
全身から力が抜けた。
何とか乗り切った!
何だったんだ、今の出来事。
次第に落ち着いてくると、何だか、ちりめんじゃこのその後が気になってきた。
あの大量のちりめんじゃこ、きっとあの老人だけでは食べ切れないぞ……
一体、どうするんやろ?
もしも細い一本道を歩いていて、前からヨロヨロと走る自転車が近づいて来たら……
さあ、心の準備はできていますか……?
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