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マラソン大嫌いな僕がフルマラソンを完走して分かったこと


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記事:黒崎英臣 (ライティング・ゼミ日曜コース)
 
僕は、マラソンが嫌いだ。小学生の頃からずっと嫌いだった。冬の寒い日の体育。半そで、短パンといういでたちで、痛む横っ腹を押さえながら長い距離を走る。景色の変わらないところをグルグルと周る。視覚的に退屈だ。走った後の爽快感などありゃしない。あるのは「やっと終わった~」という安堵だけ。マラソンの面白みは欠片も感じなかった。
 
中学に入ってから高校2年まで、校内行事として毎年マラソン大会が開催された。これが堪らなく嫌だった。病気になってマラソン大会を休んでも、補講でどのみち走ることになったりする。走りたくない僕は、学校が焼けてなくなることを本気で願った。どこかの偉い人がマラソンの危険性を証明して、学校教育からなくならないか、そんな期待も抱いた。もちろん、そんなことにはならない。結局、走る。僕は、マラソンが嫌いだ。そんな僕が、何の気の迷いかフルマラソンに参加することにした。自分の意志でフルマラソンを走ろうと決めたのだ。
 

以前の僕は、フルマラソンを走る人は頭の回路がおかしいんだ、と思っていた。なぜわざわざ、あの苦しい思いをして長い距離を率先して走るのか、僕にはさっぱり分からなかった。映画バック・トゥ・ザ・フューチャー3でドクのこんな会話がある。
 
ドク「未来では、馬は使わない。みんな自動車で移動するんだ」
 
男「自動車なんてものがあったらよ、みんな歩いたり走ったりしなくなるんじゃねえか?」
 
ドク「もちろん走るさ。でもそれは楽しみのためだ」
 
男「楽しみのために走るだって! そんなに走るのが面白ぇか? ハハハハハ」
 
僕は、この男の意見に賛成だ。そんなに走ることが面白いか? しかも、42.195キロという長距離を走るなんて、狂気の沙汰じゃない。マラソンに対して学生時代のキツいイメージしかない僕は、本当にマラソンが面白いのかどうかを確かめようと思ったのだ。
 
僕は、マラソンが嫌いだ。しかしある時、それはマラソンが下手くそだから嫌いと言っているのでは? という疑問が湧いてきた。確かに、できないくせに「嫌い」というのは、負け犬の遠吠えにしか聞こえない。すごいカッコ悪い。だから、フルマラソンを実際に完走してから、「嫌いだ」と言おうと決めたのだ。
 

フルマラソン完走を心に決め、まずはレースに申し込みをした。僕が選んだのは、富士五湖の河口湖・西湖を回る富士山マラソン。どうせなら景色がいいほうが良い。それから、体づくりを始めた。申し込みからレースまで約4か月。普段、運動をしていないため、基礎体力作りから42.195キロを走り切る身体を作っていかなければいけない。コースマップをみてペース配分を考えた。レースにはチェックポイント毎にタイムリミットがある。完走したい気持ちだけあっても、それなりの速度で走れなければ、足切りとなり走り続けることができないのだ。そんなことを考えながら、トレーニングをしていった。すると、僕のマラソン嫌いの理由が分かった。
 
僕がマラソンを嫌いなのは、自分のペースで走れないからだ。学校教育のマラソンは、リタイヤすることは考えられていない。完走することが前提なのだ。すると、評価のポイントは、スピードということになる。完走すること自体は当たり前だから、評価は低い。だから、スピードを上げなければいけない。先生も速く走れと煽る。ペースアップする。脇腹が痛くなる。苦しい。痛い。頑張って完走したのに順位が普通だから、評価されない。そりゃ、嫌いにもなるよ。
 
しかしだ。社会人のマラソンは、スピードは目指さなくていい。完走を目指してもいいのだ。42.195キロを走り切る。もちろんタイムリミットはある。が、タイムリミット1秒前にゴールしても全く問題ない。スピードを目指さなくて良いというのは、スピード重視のマラソンしか知らない僕にとって希望だ。自分のペースで走ることができる。もしかしたら、マラソンを好きになるかもしれない。そんな可能性を感じた。
 

僕は、それから自分のペースで走ることにした。心拍数や走行ペース、時間などを気にするのをやめた。それらを意識すると、自分のペースが乱されることが分かったからだ。自分が心地よいと感じるペースで走る練習をした。もう少しスピードを上げたいと思ったらスピードを上げ、落としたいと思ったら落とす。ノルマだからと無理をしない。休みたいときは休む。でも、甘えることもしない。そんな練習をしていった。前哨戦としてエントリーしたハーフマラソン。完全に自分のペースで走った。すると、2時間14分という想像以上のいい結果で走った。これならフルマラソン完走もいけそうだ。
 
そして、富士山マラソンの当日。僕は、一緒にエントリーした友人にこんなことを言った。
 
「走るのに飽きたら、リタイヤします」
 
これまで完走を目指して練習をしてきたが、ここにきて完走という目標も手放した。自分の心地よい走りができなくなったら、走り続ける意味がないと感じたからだ。完走してもしなくてもどっちでもいい。そんなリラックスした状態でスタート。その5時間39分後、僕は人生初のフルマラソンを完走した。
 

人生初のフルマラソンにチャレンジして、自分の心地よいスピードで前に進むことが大切だと分かった。抜かされたから抜き返すとか、周りにあおられてスピードを上げるとか、時計の針に心を乱されるとか、そんなことに意識を向けていると、自分のペースが乱され、気持ちよく前に進めない。時計も完走も気にしない。自分の心に、自分の体に意識を向け、心地よい状態で前に進む。これが最も自分のパフォーマンスを引き出すのではないか? 僕は、そう思う。自分の心地よさを意識したおかげで、僕はフルマラソンを楽しむことができた。マラソンが好きになったわけではない。が、自分の心地よいスピードで走れるなら、また走ってもいいかな、という気持ちにはなった。気が向いたら、また走ろうと思う。
 
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2018-12-12 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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