わたしは、あなた。あなたは、わたし。40代シングルというマイノリティの未来
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
【12月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《日曜コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:Hanao(ライティング・ゼミ日曜コース)
20代の頃、文章を書く仕事をしたかったわたしは、雑誌のライターをしていたことがあった。取材をして記事を書くというお仕事だが、ページ数や企画のボリュームによっては、フリーのライターの方にもその一部を依頼することがあった。
そんな中、ある人の紹介でよくお願いしていたフリーライターYさん。彼女から上がってくる原稿の出来はすばらしく、経験が少ない自分には取材力もライティング力も不足しているということに痛いほど気が付かされた。取材相手の魅力を最大限に引き出す力、読む側の求める情報をバランスよく取り入れる能力、そして書き出し。とにかくセンスが抜群だった。一方で、自分書いたものは編集部から大量の赤字が入って戻ってくる。それでも何とか修正して発売はされたし、誌面に自分の名前も載っていたけれど、内心は劣等感でいっぱいだった。結局転職してその会社を辞めてしまい、ライターの仕事からは自然に離れた。
それでも、わたしは書くということを諦めきれず、作詞の勉強をはじめた。売れっ子の作詞家の先生の授業を受けながら課題を提出するのだけれど、自分が納得できる作品が書けたと思ったことは1度ぐらいしかなかったように思う。講師の先生に言われたことは「他の人には書けない何かを持つこと」。でも、若かったわたしは、自分の個性が何かも、自分が何を書きたいかもわからなかった。
どこか遠い国の人に届くよう、ガラスの瓶にメッセージを書き入れて流すボトルメッセージ。わたしは「書きたい」というその気持ちを誰かにわかってほしくて流したけれど、そのボトルはどこにも着くことはなく、誰かに届くこともなく、海上をずっと漂流していた。
そこから、しばらく書くということから完全に離れた。
普通に会社員として仕事をしながらあっちにぶつかり、こっちにぶつかっているうちに、意図せずわたしは、40代でシングルというマイノリティになっていた。それは、なんとなく社会の枠からはみ出ているような居心地の悪さに似ていた。悪いことをしているわけではないのに「人は結婚すべき」という価値観に縛られて引け目を感じてしまう生きづらさ。居場所のなさ。
そんなことを先日、ぼんやり話すと、一緒にお酒を飲んだ現役のタロット占い師の方がこんなことを話してくれた。
「わたしが占いで見てほしいって言われたことなんて、『子供が二十歳になったら離婚したい、どうしたら離婚できますか?』とか、『旦那が嫌でいやで仕方がない、でもお金がなくて生活できないから離婚できない、どうしたらいいですか?』とか、不倫の相談とか、そんなのばっかりよ。結婚ってそんなにいいもんじゃない。占い師をした一番の収穫って、そういう人が世の中にものすごい数で存在することを知ったことかもしれない。幸せな家族像なんてフェイクよ」
カンの鋭い人は往々にして毒舌だと言うけれど(笑)、まあ、言わんとしていることはわからなくはない。それでも配偶者や子供を持たないわたしにはちょっとした衝撃だった。
でも、ふと思う。
わたしは結果論として今、シングルだけれども20歳の時、27歳の時、結婚するタイミングはあったから、何かが少し違えば相談する「そっち側」の人になっていたかもしれない。今思えば、あの時結婚していたら、きっと後悔に似た感情を持っていたような気はする。つまり、「わたし」はどこかの「あなた」だったかもしれなかった。逆に、いま家族を持つ人だって、何かがひとつ違えば、わたしのようにシングルだった可能性もある。そう、「あなた」は「わたし」だったかもしれないとうことだ。
わたしは、基本的に選ばなかった人生が存在するとは思わない。だけど、「もしそうだったら」と考えることはできる。そしてそれがどこからくる感情なのか、何をしたら、肩の力を抜いて楽に生きていけるのか。結論は出ないかもしれないけれど、自分なりに答えを求めようと努力し、書くことはできるかもしれない。
従来の伝統的な価値観からなかなか抜け出せない自分のこと、ネガティブな感情をかかえながら仕方ない、と日々を過ごすひとたちのこと、横並びにみんなと同じであることの苦しさ、周りと違うことの違和感、マイノリティの生きづらさ、マジョリティの葛藤。自分以外の目を気にして、自分の人生ではない、他人の人生を生きてしまうことの切なさ。
そんなことを、書く文章のテーマにしたら、誰かの役に立つだろうか? わたしは救われるだろうか? 根拠はないけれど、何かの救いになることを私は信じてみたくなった。
20代、明確に書きたいこともなく、意気込みだけを書いて漂流していたボトルメッセージは20年経って自分という島に戻ってきた。そしてそれをわたしはいま、拾おうとしている。
「わたしは、あなた。あなたは、わたし」
時代とともに変わりゆく価値観を追いかけながら、そんなことを書いていく。
ボトルの中の紙に書いたメッセージをかなえるのは、ほかの誰でもない、わたし自身だけだ。
そのことを考えるとき、私は少しだけ自分の未来を撫でたくなった。
***
この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。
「ライティング・ゼミ」のメンバーになり直近のイベントに参加していただけると、記事を寄稿していただき、WEB天狼院編集部のOKが出ればWEB天狼院の記事として掲載することができます。
http://tenro-in.com/zemi/62637
天狼院書店「東京天狼院」
〒171-0022 東京都豊島区南池袋3-24-16 2F
東京天狼院への行き方詳細はこちら
天狼院書店「福岡天狼院」
〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階
天狼院書店「京都天狼院」2017.1.27 OPEN
〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5
【天狼院書店へのお問い合わせ】
【天狼院公式Facebookページ】
天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。