かかりつけ工務店の仕事
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:藤田雅樹(ライティング・ゼミ日曜コース)
「藤田さーん!! 助けてー!!!」
ある日曜日の夜7時。イタチが家の中で暴れまわっているから何とかしてほしい、という常連のお客様からの悲鳴まじりの電話。
うちは工務店である。
イタチの捕獲は事業のメインではないし、サブでもない。けれど困っているお客さんを放っておけない。だから、とりあえず様子を見に急行した。
電話をくれたおばさまはひどく疲れていた。昨日の夜から物音には気づいていて、天井裏にネズミがいるのだと思っていたところ、さっき帰宅したら仏壇のある和室で鉢合わせしたらしい。慌てて戸を閉めて逃げてからの電話。私が到着した時には障子紙がビリビリに破られ、逃げ場がなくて興奮したのか、特有のニオイをまき散らして姿を消していた。
いる。
間違いなくこの部屋にいる。
感じる。
仏間の奥だ。
鳥獣保護法で、原則、許可なく捕獲してはいけない動物だけれど、家の中から追い出すことは禁止されていない。ネズミ用忌避スプレーと夏休みに子どもに買ってやった虫取り網を持ってきたのは正解だった。
スプレーが効いて仏壇と柱のすき間から飛び出してきたアイツはびっくりするほど素早い。
走るだけではない。1.5mぐらいジャンプする。そして逃げ回るほどに臭くなる。
ここまで20分。もうおばさまのことは忘れていたが、ふと顔をあげれば、戸を頭一つ分だけ開けて、そのすきまから1対1の攻防を祈りながら見守っている。
そこから転機は割と早くに来た。
たまたま出した網とアイツが動き出す瞬間が重なった。網に入ったらおとなしくなるかと思えば、より一層暴れ、より一層臭くなった。
フタをするように網を半回転させ、全神経を先端の物体に集中しながら、小走りに外へ出た。
試合終了である。
しかし、うちは工務店である。
だから、まだやることがある。
さっき逃がしたアイツがもう来ない保証はない。どこから侵入したのか突き止めて、塞いでしまわなければ、おばさまは心から安心して眠れない。
床下・天井裏・家の外の周り、探しに探して、見つけたのは縁の下のボール一つ分ぐらいの穴。家の構造は分かっている。ここから床下に入り、壁の中を伝って、天井裏に行ける。
でも室内には入れない。なぜ入れたのか。
おばさまに聞けば、昨日玄関を小一時間ほど開けっぱなしにしていたから、その時かもしれないとのこと。
なるほどすべて解決した。
見つけた穴には庭の石を持ってきて仮のフタとする。
仕事ほぼ終了である。
おばさまも落ち着き、先ほどの試合を振り返りながら雑談をし、帰り際には「ありがとうございます。ほんま、神様、仏様、藤田様やわ」と言っていただいた。
こんなことがあって、いい話のネタができたと思いながら、同時に「うちの仕事は何なの?」とじっくり考えた。
これは仕事か?そうではないのか?
結論は「使命」である。
工務店の仕事はお医者さんの仕事に似ている。
家を体にたとえるなら、その命・健康を守ることを大きな使命として、病気やケガの治療と予防をする。
現代の家は科学と技術の進歩で以前よりずっと長寿命で快適な家をつくることができるようになってきた。これも大きな意味で予防のひとつだろう。リフォームすることも同じ。割れたガラスを交換するのは風邪の治療、開け閉めが固くなったドアを直すのは腰痛の治療のようなものかもしれない。
そしてもっと重要なのは、患者さんの、住まう人の、「心」をケアしていることではないかと思う。
うちの子どもはまだ小学3年生と小さいからか、よく風邪をひいて、近所の診療所のお世話になる。いつも行くから顔も名前もおぼえてくれていて、普段の生活を気にしてくれて、親身になって話してくれる。
お医者さんだから、風邪を治してもらえるし、健康チェックもアドバイスもしてもらえるけれど、よく知ってくれているから、心の距離が近いから、まずそこに行くだけで本人も親も安心だ。
医院や診療所の前によく行列ができている。開院の1時間以上も前から並ぶ。多くは常連さんだ。その方たちの井戸端会議の場という目的もあるようだが、やはりいつものお医者さんに診てもらう、話を聞いてもらうことの圧倒的な安心感が行列を作らせている最大の根拠だろう。
うちもそんなお医者さんのような存在でありたい。いや、それ以上の存在でありたい。
お医者さん以上に、寄り添って、自分をさらけ出して、持てる力の限り大きなお世話をする。
助けてー!という電話は安心を求める心からの信頼の表現だ。だから迷わず、往診する。
きっとお客さんが求めることの最大は「安心」だろう。いつどんな要求にもこたえられるように、日ごろの研鑽を欠かさないようにしよう。そして、その知識や技術の裏付けと対話を通じて、圧倒的な安心感を届けようと思う。
いま、会社のキャッチフレーズは「草津のかかりつけ工務店」である。
あれから、3軒の家でイタチを追い出した。
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