でっぱのフレディに見守られた、僕の人生。
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:西田博明(ライティング・ゼミ 平日コース)
オープニングから、やばかった。
あの、音だ。そしてあの後ろ姿だ。
映画館。36才の僕のは心は、一気に思春期の頃まで、連れ去られてしまった。
あれはたしか、高校2年生の春。
ヤマちゃんが持ってきた、CDとビデオテープが、
最初の出会いだった。
「西やん、これ聴いたことある?」
出っ歯なボーカルの、4人組。知らないバンドだった。
そもそも僕は、音楽に興味がなかった。
でも、このヤマちゃん、マンガも、アニメも、音楽も、素晴らしいモノばっかりもってきてくれる。だからやまちゃんのセンスを信頼して、しばらくCDを借りることにした。
ちょっと、変わった音楽だった。
ディズニーのアトラクションっぽいというか、
お化け屋敷もあれば、ジェットコースターもある。めちゃくちゃカラフルで平和なアトラクションもあれば、鳥肌が立つほど美しいショーもある。
今まで聞いた音楽に比べると、なんだか、それぞれの曲の方向性が、ばらっばらな感じ。
「このグループの音楽はこんな感じ」っていうのが、なんだか見当たらないかんじ。
一貫性がなくて、ちょっと、ふざけてるようにも感じた。
「よくわかんないなぁ」と思った。
でも、僕は音楽に興味ないだけに、他にかけたいCDがあるわけでもない。
だからまぁ、BGMとしてかけるようになった。
知っている曲もあった。
ウィ・ウィル・ロック・ユーはテレビで時々、流れていた。
ウィー・アー・ザ・チャンピオンも、聴きおぼえがあった。
何度か聞いてるうちに、フレディーのかん高い歌声が、妙に気持ちよくなってきた。
時々耳に飛び込んでくるフレーズも、なんだかかっこいい。
晴れた日の日曜日、掃除をしながら大音量で聞くと、なんだかサクサク、掃除が進む気がした。
なんだ、悪くないじゃん……
少しずつ興味を持って、歌詞もよんでみた。
……シビれた。
こじれにこじれた、思春期。中二病という表現が、ぴったりだったと思う。
胸の中で渦巻く気持ちを、うまく言葉や行動にできなかった。クラスの隅っこに3-4人で集まり、クラスの中心や黒板の前で騒ぐクラスメートをちらちら見てた。「何も考えてないバカな奴ら」と見下しつつ……でもたぶん本当は、うらやましかった。
フレディーは、QUEENは、そんな僕の気持ちにこたえるみたいに、
言葉をつづり、音楽を奏で、歌い、叫びあげてくれた。
音楽なんか興味がないはずの僕が、
はまった。
部屋を掃除するときは、「ドント・ストップ・ミー・ナウ」の疾走するようなサウンドに乗った。夜は、イッツ・ア・ビューティフル・デイの、吸い込まれるような歌声を聞きながら、
眠りに落ちた。
勉強中は聞かなかった。
聴きこんじゃって、勉強できなくなるから。
高校3年生。Somebody to loveを叫んだ。
受験。孤独感や、思春期のはけ口のみつからない熱。
何度も、「だれか、僕に愛する人を見つけて」と叫んだ。
大学1年生。I was born to love youを口ずさんだ。
恋人ができた。こんな自分が、誰かを、自分自身よりも大切に思うなんて。信じられなかった。でも最高の気分で、ほんとに世界が輝いて見えてしまった。クラブのあと、夜道を自転車で帰りながら、「あなたを愛するために僕は生きてきたんだ」と口ずさんだ。
大学4年生。カラオケに行くたびに、Love of my lifeを歌った。
彼女に、フラれてしまった。いつまでたっても、彼女を忘れられなかった。
楽曲の3分の1が間奏っていう、カラオケには合わない曲。だけど、「行かないで。この、僕の人生そのもののようなこの恋を、奪わないで」と歌わずにはいられなかった。
10代後半、そして20代後半。
曲がりくねった僕の道を、QUEENはいつだって、僕のそばにいてくれた。僕を応援してくれた。
カラフルで多様な、一貫性のない音楽。
だけど、何年も聞いているうちに、その底にある、「QUEENらしさ」のようなものを、聞き取れるようになってきた。
そして36才。しばらくQUEENを聞いてなかった。
友達に、「ボヘミアンラプソディーを見にいこう」と誘われて映画館にきた。
開始2秒、「20世紀フォックス」のロゴが出る瞬間から、もう鳥肌が立っていた。背景の音楽が、QUEENっぽさ前回のサウンドに、アレンジされていた。嬉しかった。
僕はまだ、QUEENの音が、わかる。
あれから大人になった。あの頃よりは落ち着いてるし、大人の分別も身に着けた。
失恋をしても、いつか自分が立ち直ることを知った。カラオケでやたら長くて暗い曲は選ばないことを学んだ。もう死んでもいいぐらいの喜びも、いつかは終わることも知った。
だけど僕は、まだQUEENの音を聞き取れる。
あの時の、未熟で、不器用で、傷つきやすく、いつだって前のめりな自分は、生きている。
QUEENが、何度も使っている歌詞がある。
「人生は続いていく(Life goes on)」というフレーズ。
大切な友人が死んでも「人生は続いていく……そしてあなたの姿はないけれど」
(No one but youより)
冷たい恋人に苦しんだときも、
「人生は続いていく」(I want to break freeより)
どれだけ快楽にふけっても、恋の苦しみに死にそうになっても、ただ生きる喜びを味わっても、やっぱり、人生は続いていく。
フレディーは、
頭から人生に飛び込んだ。
喜びも悲しみも、すべてを味わい尽くして、
そして、死んでいった。
人生は続いていく、と言い残して。
(もう一つ、今もあなたを愛しているよ(I still love you)
という歌詞もいろいろなところで使われていて、美しい)
幸か不幸か、僕には、フレディーのような、すさまじい狂気と才能は、ないと思う。
だけどやっぱり、僕の人生にも、
恋や失恋がある。
知らないことにであって、不安になるときもある。
生きるのがしんどい時もあるし、裏切られて傷つくこともある。
うまくいって、「じぶんサイコー!」って思うこともある。
そんなとき、QUEENの音楽を思いだす。
フレディーの背中が、目に浮かぶ。
最後まで駆け抜けて、そしてこぶしを突き上げて、人生の幕を閉じたあの姿が。
そうすると、ほんの少し、勇気がでる。
泣いたっていい、傷ついたっていい。
恋に夢中になってもいい。
あほらしい遊びに没頭してもいい。
それが、人生なんだから。
そして、すべては、美しい歌なんだから。
人生は続いていくんだから。
いま僕は、ベトナム行きの飛行機で、この文章を書いている。
新しいプロジェクト。
楽しみだけど、自分の経験と能力の限界が問われそうな、ちょっと怖い仕事。
失敗してもいい、飛び込もう。むしろいっぱい、失敗しよう。
先輩に気兼ねせず、のびのび、遠慮なくやろう。
そしてメンバーと、いっぱい笑おう。いっぱい泣こう。
そんな僕をフレディーは
「いいじゃん、でもお前、まだまだそんなもんじゃないぜ」って、
見守ってくれるはずだから。
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