メディアグランプリ

ケーキが食べたいと言えること


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:Momoko(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
「ここのお店のケーキ、美味しいんだって! 迷っちゃうなー」
「そうなんだ! 楽しみー! みんな、どれ食べる?」
 
中目黒のとあるカフェ。休日の昼下がりにコーヒーを飲んでいると、20代後半ぐらいの女子会グループ6人組がやってきた。同年代ということもあり、何の気なしに会話を聞いていた。
 
「申し訳ございません。生憎、ケーキが残り4つとなっておりまして……」
と、店員さんが申し訳なさそうに言う。
 
「そうなんですね。……じゃあ私、やめておくよ」
「……じゃあ私もやめておこうかな」
「……私もやめておく」
口々に、女子会6人はそう言い、結局誰もケーキをオーダーせず、ドリンクだけという結論になった。
 
「しみちゃんは最近どうなの?」
「私は変わらず、銀行で働いているよ。ずっと続けたいわけではないけど、今の職場は安定しているし、転職は大変そうだし。今より条件が下がるのは嫌だから、同じところで働いているって感じかな。でも、彼氏にフラれちゃって……。もうアラサーなのに、これから相手探しだよ、どうしよう…。お先真っ暗……。今まで真面目にやってきて、なんとか順調に来ていると思ったら、こんなタイミングでさ……」
 
なるほど、話を聞いていると、いわゆる進学校を出て、いわゆる安定した企業に就職し、いわゆる優等生な人生を歩んできた集団のようだ。お先真っ暗という言葉で私は思い出した、2年前の出来事を。
 
「次は、渋谷、渋谷です」
……ドクン、ドクン、ドクン。朝の通勤電車、胸が苦しい。
 
2年前の春、私は大阪から意気揚々と上京した。「モノづくりのこだわりを支えたい」という思いで新卒入社した繊維商社に、巷でよく言われる3年間勤めた。その後に、「モノの提供ではなく、商品の良さの発信からモノづくりを支えたい」と考えるようになり、広告業界を志望するようになった。そして、晴れて希望通りのネット広告代理店に転職が叶ったのである。新生活が始まり、半年が経った矢先のこと。私は、渋谷駅のホームで涙が止まらなくなっていた。
 
「もう、限界だ」そう思い、いつも向かう副都心線のホームには行かず、病院へそのまま向かった。自分じゃないみたいに涙が止まらない。壊れてしまった、と思った。
そして、「……適応障害ですね、会社はしばらく休みましょう」と言い放たれた。
「お先真っ暗」というのが率直な感想だった。順風満帆と言うと言い過ぎではあるが、大した挫折もせずに来た今までの人生で、初めて道が閉ざされた気がした。
 
転職してまだ間もない頃から、私は職場環境・仕事内容ともに違和感を感じていた。「こんなはずじゃなかった」というのが一番しっくりくるだろうか。
そして、自分の選択に誰かの許可を求めるかのように、あらゆる転職エージェントに相談に行った。しかし、返される言葉はどこへ行っても同じ。「最低1年は働くべき」と。それもそのはず。私は「転職したいが、どのくらいの期間働くべきか」を確認しに行っていたのだから。しかし、当時の私は「それなら仕方がない、なんとか1年耐えよう。でないと、もっと大変なことになってしまう」という発想であった。
そうして「違う」と感じつつ、自分に鞭を打ち半年働いた。でも、身体は正直だったのだ。「お先真っ暗」になった私は、会社を休みながらぼんやり考えた。こんなに考えたことはないというほど考えた。そして、本に答えを求めた。
海をぼんやり眺めながら、読んだ本。堀江貴文さんの「ゼロ」である。
その著書にあった、「誰もが最初は「ゼロ」からスタートする。失敗しても、またゼロに戻るだけだ。決してマイナスにはならない」という言葉が私の「お先真っ暗」病をゆっくりと解きほぐしていってくれた。
いつも何かを決断するとき、最後の最後に周りに正解を確認する癖があった私が、やっと「自分自身はケーキを食べたいのか、食べたくないのか」に向き合えるようになれたのだ。
「ゼロになったのだから、どうせなら誰かが選んだイチではなく、自分で選んだイチを足したい」そう思った。そして、誰が決めたかわからない「転職したら、最低1年はそこで働くべき」という「正解」を初めて無視し、「自分がどうしたいのか」だけに向き合った。そうして無事に希望する企業への転職が叶い、現在「お先真っ暗」と感じた頃がウソだったかのように、自分が食べたいケーキに向かって毎日イチを積み上げている。
 
そう、気づいたのだ。結局、人生に模範解答はない。あの時、ケーキを食べなかった女子会6人組はきっとこれまでも同じようにケーキを食べない選択をしてきたのだろう。人数分のケーキが無いときは食べたくても遠慮すべき、転職は条件が下がるものだから慎重にすべき、転職したら最低1年は働くべき、結婚は30歳までにすべき…。
でも、私たちの頭の中に無意識に根を張る数々の「○○すべき」に沿って動くうちに、少しずつズレていってしまうのではないだろうか、本来の自分から。
結局、4人分のケーキしかないあの場で、「ケーキを食べたい」と言える人が自分の人生を歩める人なんじゃなかろうか。小さいことのようだが。
 
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2019-01-11 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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