メディアグランプリ

祖母の期待に応えなきゃという幻想


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:YUKA(ライティング・ゼミ特講)
 
 
私には92歳の祖母がいる。時々物忘れはするし、耳は遠くなったが一人で暮らせるくらい元気な祖母である。今は離れて暮らしているが、車で一時間の距離なので、1~2か月に一度くらいは会いに行っている。1か月以上あくと、「あの子は忙しいのか」「次はいつ来るのか」と母にうるさく言うらしい。
私は両親が共働きで忙しかったため、3歳から両親とともに祖父母と同居してからはほぼ祖父母に面倒を見てもらったようなものだった。幼稚園の送迎をしてくれたのは祖父母だったし、毎日のご飯を作ってくれたのも祖母だった。忙しい両親の代わりに旅行やお祭りにも連れて行ってくれ、眠るときには祖母が適当に創作した物語を聞かせてくれた。優しいだけでなく、飄々としてちょっと毒もある祖母だが、そんなところが面白い。
 
大人になったあるとき、私は祖母にこんな質問をした。
「おばあちゃんが人生で一番楽しかった時期はいつ?」
「それはあなたが家に来る前よ。子供も自立して旅行したり遊んだり自由な時期だったからね。あなたがきてからは孫育てに忙しくなっちゃって」
 
自由な時期を奪ってすみません(笑)
 
しかし、ある時はこう言った。
「孫の中で一番面倒を見たのはあなただからあなたが一番かわいい。小さなあなたと過ごしたのは本当に楽しかった」
自分では全く覚えていない幼かった私のエピソードを懐かしそうに語る。
年寄りの言うことはよく変わるのだ。
 
そんな祖母は、30も半ばの孫娘が結婚していないことがたいそう気にかかるようで、会うたびにいろいろと言ってくる。
つまりは「結婚しないのか」ということなのだが、友だちと旅行に行った話をすれば、
「あなたはいろんなところに自由に旅行に行っていいわね。結婚して子どもがいたらそうもいかないものね。そんなに独身楽しんでたら結婚する気にならないのかね」
と(嫌味を)いい、彼氏ができたと言えば
「まーた、結婚しない彼氏でしょ」
と言う。(これはちょっとひどいと思う)
出会いはあるのかとか、いい人はいるのかとか。結婚相手はどんな人がいいかとか。
昔話が始まり、おばあちゃんはおじいちゃんとは見合いで、1回会っただけで結婚を決めたのよ、おばあちゃんは背が低かったから、相手は背が高ければだれでもよかった、という話は幾度となく聞いた。
 
ある時は、通販で「幸せになるお地蔵様」を買い、「あなたが結婚できるように毎朝お地蔵様に拝んでいる」と言われた。その時はさすがにプレッシャーを通り越して申し訳なさを感じたのだった。
 
また、2年前の年末には祖母が風邪をこじらせて肺炎になって救急車で運ばれ、いよいよどうなるかわからないということがあった。
病院に駆け付けた私に、祖母はチューブにつながれながらも「最近、合コンは行ってるの……?」と聞いたのだった。自分が瀕死の時にまで私の出会いの心配をするとは。
 
そこから驚異の回復力を見せ、今も元気な祖母である。
 
「こんなに心配してくれるのだから、おばあちゃんが元気なうちに私の花嫁姿が見せられたらいいなぁ」
そう思ったこともあった。
 
しかし、そうやって帰省する度に祖母と私の結婚するしない問題(そもそも私は結婚する気がないわけではなくする気はあるのだが)について話をするうちに気が付いた。
 
祖母は別に私に結婚して欲しいと思っているわけではないことに。
 
というか、まあ、結婚して欲しいとは思っているのだろうが、実際にするかしないかはたいして重要ではないのだろう。
 
祖母にとって大事なのは私が幸せであることであり、孫である私に何かしら貢献できる形で関わっていたいということなのだ。
祖母にとってのその方法が「私の結婚について心配してなんだかんだいうこと」だった。
 
きっと、結婚したらしたで、また、別の内容でなんだかんだ言うのだろう。ぶっちゃけ、その内容は何でもいいのだ。
それは祖母にとっての愛なのだと思う。
 
表面上だけをみて、祖母がこんなに心配して期待しているのにその期待に応えられないなんて、自分を責めたりプレッシャーに感じたりするなんてナンセンス。
 
期待にこたえなければと思うのは、はっきり言って幻想だった。
 
そうはわかっていても、
「最近はどうなの? 結婚しないの?」
毎回繰り返されるこの祖母との問答。たまに本気でけんかになりかけることもある。少々うんざりもする。しかし、それが二人のコミュニケーションであり、祖母の愛の形なのだと思って、これからも楽しんで話をしようと思う。
 
 
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2019-01-17 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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