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メディアグランプリ

SNSに投稿された悪評を拝む気になれたのなら


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:佐々木さおり(ライティング・ゼミ 平日コース)
 
 
「このお店に行くのはやめたほうがいいです」
口コミサイトに、とうとう私の店の悪評が書き込まれた。
 
直接苦情を言われることは、今までにもあった。「スタッフの対応が悪い」「注文してからなかなか料理が出てこないんだけど、どうなっているんだ」そんな日々の苦情には正直慣れていた。クレームをありがたく受け止められる余裕もあるつもりだった。しかし、そんな私がいままで一番恐れていたのが、SNS上での書き込みだった。
 
「とうとう来たか……」
私の住む片田舎の町でさえ、同年代はほぼ全員スマートフォンを持ち、60歳を過ぎた母親さえ「かんたんスマホにしようと思っているから、使い方教えてね」という時代。気になる情報を手元で気軽に検索できる日常がこの田舎町にさえあるのだから、SNS投稿への評価も書きこまれるのが当たり前といえば当たり前なのだが、この事実を受け入れるのに数日を要した。
 
小さな町だ。いつも来るお客さんの顔は、全員覚えているつもりだ。たまにしか来ない人でさえ、大多数は記憶している。そんな状況だと、はじめてだな、という人は逆に目についてしまう。
「この投稿をしたのは誰だ?」
重箱の隅をつつくような文句を延々と書き連ねた500文字にもなろうかという投稿文章の隅々まで目を通した。一日に何回も読み返した。文章中のエピソード、来店時期、男性か女性か……。自分の記憶と、文章の中のヒントを紐づけようとした。
店に立っていても、来る人来る人すべてが、この悪評の投稿者に見えた。
夜寝る前に思い出すのは、この投稿文。そんな日々が1か月ほど続いた。
 
「さおりさん、最近目つきが怖いですよ? どうしたんですか?」
大学生アルバイトの中村君が、私の様子が最近おかしいと思い、声をかけてきた。
彼は、20歳なのに40代の友達がいたり、まったく畑違いの友人が多い、不思議な子だ。初対面の人やお客さんともすぐに打ち解けてしまう、そんな性格のため、店長の私にさえ、気負うことなく自分の思ったことを言ってしまう。そこが良いところでもあり、怖いところでもある。
 
「いや、実はね……」
そんな中村君だからか。普通ならただのアルバイトの学生に相談などしないのだが、事情を話してもよいと思い、今回のSNSの書き込みについて、私はお客さんの誰が書いたのか突き止めたいと思っているということを話した。
それをきいた彼は、こんな一言を返してきた。
 
「うれしくないですか? 書き込んでもらえて」
「えっ?」
正直、思ってもみない言葉が返ってきたため、私は鳩に豆鉄砲をくらった気分だった。
 
「口コミって、検索した人しか書けないですよね?検索したってことは、良くも悪くも興味があるから検索したってことでしょ?」
「そうだけど……」
私は、まだ腑に落ちない。
 
「今の若い子って、テレビもインターネットで見たい番組しか見ないし、YOUTUBEだって、SNSだって、自分が興味のある情報以外シャットアウトするようにできてるのは知ってます?」
それは、40代の私にも何となくはわかった。
「だから、今回は悪い投稿だったけれど、興味がないわけではない、ってことですよね。」
たしかに。
そういわれると、そうかもしれないと思った。
 
もしかしたらこの悪評を書いた人は、私の店にものすごい期待をして来店したのに、期待外れで、それが裏目に出てしまった、それだけだったのかもしれない。
もしかしたらこの人は、誰かから私の店を勧められて来店してくれた人だったのかもしれない。
この1か月思い描いていた「その人」は私の中でただの悪者でしかなかったのに、この一瞬で悪者だった「その人」が、大切に思えるようになったのだ。
 
「その人」が誰であっても、私の店に興味を持ち、期待をし、そして来店し、食べてくれた。それだけでも十分うれしいことなのに。私は、これまでの憶測を恥じた。
 
「中村君。そうだよね。興味すら抱いてもらえないのが普通なのに、私ったらなんで犯人を捜そうと思っていたんだろうね。馬鹿だよね……」
目つきが怖いといわれていた私が、反省した表情になったのを見て、中村君は言った。
「事実は一つ。でも、考え方は何通りもあります。他人の頭の中を100パーセント読めるわけじゃないし。でも、さおりさんがお客さんに喜んでほしいと思っていれば、きっと伝わりますよ」
「そうだよね……。ここに来てくれた人、目の前にいる人のことだけ考えればいいんだよね。」
こうして、私にとって初めてのインターネット社会の洗礼は幕を閉じた。
手の届かない、実体のないインターネット上のコミュニティでは、すべての人が犯人であり、見えない敵でもある。でも、現実社会よりも人の生身の部分が見える世界だからこそ、現実をより一層大切にしたいと思えるのかもしれない。
 
20歳も離れた、社会人経験のない男の子に、私は、今の社会の生き方を学んだような気がした。
 
 
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2019-01-18 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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