月曜日こそ、大好きなを服を着る理由
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:K子(ライティング・ゼミ平日コース)
会社の後輩S美ちゃんは、よく見たら美人だ。
なぜ「よく見たら」などと、失礼な一言をわざわざ付け加えるのかというと、S美ちゃんがボロボロの格好で出社してくるようになったからだ。
S美ちゃんは最近忙しい。
S美ちゃんが担当しているプロジェクトで、トラブルが発生しており、その対応に追われているからだ。
わたしが朝早く出社しようが、夜遅くまで残業しようが、S美ちゃんは会社に住んでいるのかと思うほど、ずっとデスクにいて、ずっと仕事をしている。
もともと真面目な子だ。自分が担当になった初めてのプロジェクトということで、気合いも入っているのだろう。S美ちゃんは、仕事に追われれば追われるほど、日に日にボロボロの格好で出社してくるようになったのだ。
わたしが思う「ボロボロの格好」というのは、オシャレをしようという意識が全くない、見た目に無頓着で、手を抜いた格好のことだ。
わたしの働いているオフィスは、ビジネスカジュアルでオッケーなので、割と自由な格好をすることができる。
最近のS美ちゃんの服装は、紺色のシャツに、濃いグレーのカーディガンを羽織り、黒のパンツを履く、といったような全身を暗い色で固めていることが多くなった。スカートやワンピースを着なくなり、ゆるいシルエットのズボンばかり履いてくるようになった。
髪型もボサボサで、寝癖すら直していない日もある。たまに結んでいることもあったが、
手の込んだヘアアレンジではなく、雑に一つ結びしているだけだった。
ボロボロの格好をしているS美ちゃんは、素材の良さを掻き消しており、初対面で「美人だな」と思った印象を忘れてしまうほどだった。
表情にも覇気がなく、常に疲れているように見えた。
そんなS美ちゃんを見ると、わたしは過去の自分を思い出した。
わたしは入社2年目の頃、色々な仕事の繁忙期が重なり、とても忙しい時期があった。
忙しいと、余裕がなくなり、見た目になんて構っている場合ではない気がしてきた。
朝起きて、何を着るか迷っていないで、とにかく早く会社にいかないと。髪を巻いてる時間があったら、仕事をしないと。
そのうち、「どうせ会社なんて仕事するだけだし、適当な格好でいいや」という思考にたどり着き、手を抜いた格好で出社するようになった。
しかし手を抜いた格好で出社すると、やる気が出ないようになった。
気合いが入らない。テンションが上がらない。誰かに会うのも億劫。帰りたい。
働いている間じゅう、そんなことを考え、トイレで一人になっては溜め息が出た。
純粋に仕事自体を楽しめなかったせいでもあるのだが、手を抜いた服装は、わたしのモチベーションを下げるのに加担した。
そんなある日、わたしは昼食後に、更衣室にある洗面台の前で歯を磨いていた。
洗面台には大きな鏡がついていた。そこへ、他部署に所属するHさんも歯を磨きにやってきた。わたしは何気なく、鏡に映ったHさんの方に目をやった。
ボブカットを均一に内側へカールさせた髪。
上品なパールのピアス。
鮮やかなブルーのワンピース。
形の綺麗なのハイヒール。
Hさんは頭の上からつま先まで、全身素敵だった。
「これぞキラキラ女子……!」と思ったと同時に、手を抜いた格好をして、横に並んで立っている自分が鏡に映っていることを、無性に恥ずかしく思った。
Hさんに比べて、自分はなんと冴えない姿をしているのか。
Hさんは、オシャレにうつつを抜かしているから仕事がおろそか、なんてことは一切ない。性格はおっとりしているのに、仕事をバリバリこなすので、周りにも一目置かれる存在だ。
それなのに、自分は入社2年目の若手であるにも関わらず、全っ然キラキラしていない。
今のわたしの荒んだ心が、見た目にも表れているのだと気がついた。
こんなはずではなかった。わたしだってキラキラしたい!
その週末、わたしは久しぶりに買い物をした。
買い物をした次の日は、一番嫌いな月曜日だった。また、憂鬱な1週間が始まる。
それでも新しい服を着ると思えば、なんだかワクワクした。
それ以来、わたしは会社に好きな服を着ていくようになった。
オシャレをすると、気持ちが前向きになり、「嫌だけど、頑張ってみようかな」と思えるようになった。
オシャレをすることは、わたしのやる気スイッチを押してくれた。
朝起きて、「会社に行きたくない」というわたしの中の怠け虫を蹴散らし、気合いを入れてくれる。
「髪型も化粧も服装もバッチリきまってる! だから大丈夫! いってらっしゃい!」
そんな風に背中を押されている気がする。
それに「見た目がバッチリきまっているのに、怠ける」というのは案外難しいのだ。
服装一つで気分が大きく変わることを、心から実感した。
Hさんに衝撃を受けた日から、4年ほど経った。
過去のわたしを知らないS美ちゃんは、わたしを見て、
「K子さんって、いつもちゃんとオシャレして会社にきますよね。会社にくるのが楽しそうに見えます」
と言う。
実はわたしは今も、仕事が楽しいとは思っていない。
でも、仕事が楽しいと思える人なんて、ほんの一握りだろう。
楽しくなくても、やるべきことはある。生きていくためには、好きでないこともやらなけれないけない。
だからこそ、自分を励ましてくれるもの、支えてくれるものが必要だ。
「楽しくはないんだけどね。だからこそ、好きな服を着てるの」
頭の上に「?」が浮かんでいるS美ちゃんに、わたしは、月曜日こそ大好きな服を着る理由を熱く語ることにした。
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